今日、国が潰れた。
もしもそんなことが起こったとしても、私たちは自らの力で生き残っていかなければならない。
「国が潰れようが、飢饉がこようが、家族が生き残れるのが常民だ」。
民は少なくとも農業技術は持っているべきなのだ、金を払えばなんでもできるという考えは人格としておかしい。柳田はそう考えた人物なのだとバジラ高橋は語る。
その土地に適した作物を育て、その土地ならではの文化や行事を執り行う。そうやって生活してきたのが「自立した日本人=常民」だ。近代経営の流れの中で日本の真価を示すには、単なる農作物の生産機能として農村を捉えるのではなくて、土地の資源や文化まで含めた体系で考えるべきなのだ。柳田は農村生活や地域文化を根幹に、自らの研究を「郷土研究」と称し、「日本民俗学」を標榜する。欧米流の「民俗学(フォークロア)」「民族学(エスノロジー)」を受け入れながら、江戸時代に確立された「国学」の流れを汲んで「新たなる国学」と位置付けた。
柳田の精神の原点にあるのは、江戸を生きた菅江真澄である。
菅江は1754年頃、豊橋に生を受けた。旅好きが講じ、30歳のころ、天明大飢饉の最中に遊歴へ出る。越後から出羽の鶴岡、鯵ヶ沢、五所川原、弘前へ抜けると、東北の山村を次々と巡る。土地の文人と交わり、祭りや生活、民俗、民話、方言、産業、を包括的に書き記した。
霜月十日大黒天の飾り物
鰰(はたはた)
正月の買い出し:秋田通町
菅江に遅れること1世紀強、柳田は1875年(明治8年)に誕生す。柳田は菅江が辿った信州・奥羽の辺境に日本の原郷を見た。衣食住を地勢の鉱物・産物が支え、正月の祝い事にも土地による個性がある。飢饉になったとしても変わらずに生活し、生きのびる様だ。常民の姿である。柳田は、菅江の跡を追うように東北・北海道を皮切りに、新潟さらには九州、木曽・越前への視察旅行を重ねていく。
さらに柳田の系譜を引き継ごうとしたのが20世紀を、昭和を生きた宮本常一だ。宮本は出身地である周防(山口県)の大島の調査報告を雑誌に投稿する。その内容が柳田の目に止まった、宮本は菅江真澄、柳田國男と同じように昭和14年から日本列島を歩きまわって、多くの常民たちの話を聞き取った。「日本をつくった忘れられた日本人」たちの話である。
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日露、一次大戦、大東亜という柳田が生きた戦争経済の時代から半世紀以上。私たちは発展した技術を活用しつつも情報に翻弄されながら、一見整備された日本という国で生きている。我々は国が滅びたときに、社会システムに改革が起きたときに、持ちうる資源の価値を活かして生き残る共同体になれているだろうか。
輪読座では、柳田が伝承してきた日本民俗学、日本の文化風土史をたどりながら21世紀の社会や経済の在りようを掴み、これからの日本人像を追っていく。日本と日本民俗が失われていく焦りにかられて常民スタイルを追い求め続けた柳田國男。そして、「ぼくが輪読座をやっているのも、何かにかられているからだ」と、バジラは呟く。
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宮原由紀
編集的先達:持統天皇。クールなビジネスウーマン&ボーイッシュなシンデレラレディ&クールな熱情を秘める戦略デザイナー。13離で典離のあと、イベント裏方&輪読娘へと目まぐるしく転身。研ぎ澄まされた五感を武器に軽やかにコーチング道に邁進中。
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