橋本治がマンガを描いていたことをご存じだろうか。
もともとイラストレーターだったので、画力が半端でないのは当然なのだが、マンガ力も並大抵ではない。いやそもそも、これはマンガなのか?
とにかく、どうにも形容しがたい面妖な作品。デザイン知を極めたい者ならば一度は読んでおきたい。(橋本治『マンガ哲学辞典』)

「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
照合と見立て
しまった! 北海道直送ジャガイモ6種食べ比べセット、すぐに食べるのが惜しくてしまっておいたら、芽が伸びてしまっていた。
大きな声を聞いて、植物好きの長男(13)が飛んできた。
「うわっ、すごい。”インカのめざめ”か」。
芽どころか根までモジャモジャと出ているイモがある。
長女(7)が眉根をしかめて「すごく不気味。これって、カビ?」と聞く。
ちがうよ、根っこだよと教えるが、いわれてみれば根毛とカビはフサフサぐあいが少し似ている。知っているものの中で似ているものを探してわかろうとするのは理解の基本だ。
インカのめざめ
「“インカのめざめ”は、味はいいけど芽が出やすいから流通にむかないって言われてるけど、ほんとだな」。長男はカメラを取り出して、撮影を始めた。
ノーザンルビーという品種の芽は紅色で先端は白い。アップで撮って、モニターで見る。(アイキャッチ画像)
「よく見るとこんなにブツブツがあるんだな」
ほんとだ。
「この形、なにかに見えてきた。ハリネズミ?」
見立てが動きだした。長女にも何に見えるか聞いてみる。
「モグラに見える。ここが手みたい」
三人で顔を近づけて考える。紅ショウガ? ちょっと近すぎるかな。
「未知の生物! 宇宙人!」今度はだいぶ遠くに飛んでいった。
科学と物語
それにしても品種によってずいぶん色や形が違う。シャドークイーンは濃い紫色でにゅっと突きたっている。レッドムーンは赤紫でずんぐり。キタアカリは白。
シャドークイーン
キタアカリ
メークイン
メークインは少ししか芽が出ていない。「優秀だな。味はそこそこでもメジャーな理由がわかる」という。
長女は「わからない」という顔。メークインはもともと5月の女王という意味なんだよ、それに比べてシャドークイーンってなんだか魔女みたいな名前だねと話を変えると、おもしろそう!という表情に変わった。
幻の秘宝であるノーザンルビーを悪い魔法使いのシャドークイーンが奪ってしまった。レッドムーンが上る日、古代帝国インカに眠る主人公がめざめると、”五月の女王”が現れ、旅に出よと命じた……。
即興でお話をつくってみると、「つづきは?」 どうなると思う? 問い返す。「主人公が宝を取り返すと思う!」長女は、いろいろ辛いことはあっても最後は「めでたしめでたし」なお話が好きなのである。
物語な雑談の横で、長男はそもそもどうして芽が出てしまったのかについてを考えていた。
光に当たると芽が出やすいというのは知っていた。だから段ボール箱にいれてしっかりふたをしていたのである。「もしかしたら、そのせいで温度が上がったのかもしれないな。芽が出る条件として、光よりも温度が重要なのかもしれない」。
光がほとんどなかったのは、芽が芋が緑化していないことからも確かめられる。その分、光を求めて芽が急速に伸びた可能性も考えられた。
ともかく「失敗」のおかげで、品種によってこんなに芽の特徴が違うということが分かったのだった。
分類して食べる
こうなったら今日の晩御飯はジャガイモづくしにしようというと、二人とも賛成である。長男は種名の札をつけて撮影したあと、慎重に食べる用と植える用に分類した。植える用は不織布の袋に入れてベランダで少し日光に当ててみるという。
大きく芽をえぐり取ったけど量は十分だった。ノーザンルビーは皮の色がサツマイモに近い。断面もピンクで、初めて見た長女が「きれい」と喜ぶ。ピンクのマッシュポテトになる。シャドークイーンはアントシアニンが豊富なかわりに少しアクがあるようなので油で揚げる。
ピンクポテトと言われるノーザンルビーの断面
これがぜんぶ「ジャガイモ」なんだね。AIに学習させたらどうなるんだろうね。ちょうど、長女がAIについての科学マンガを読んだところだったからそんな話をする。
キタアカリ、インカのめざめは茹でてバターをつけるだけにする。水っぽさがなくて甘味が強い。「これは期待できるな」。長男は、家庭菜園で育てる算段をしながら食べている。
さらに、二十歳の時に北海道をめぐったときのこと、北海道の知人の顔やマンガや物語、そしてアイヌユカラの研究者金田一京助の随筆が浮かんでくる。アイルランドのジャガイモ飢饉はいつだったか。往時に比べたら、ジャガイモの味もずいぶん改良されているのだろうと想像しながら、まだ帰ってこない夫の分を取り分けた。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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