われわれはヴァージョンを制作することで世界を制作する。
入伝式で松岡校長から手渡された「乱世」という言葉を誰もが実感せざるを得ない事件が起きた翌日。
2022年7月9日、キャンパーとなった入伝生と「花守衆」に着替えた指導陣がラウンジに集合した。花伝所のキャンプは2日間。全てオンラインで、しかも文字だけで行われる。最初のプログラムは、懐かしい守のお題に再会し、入伝生同士で学衆・師範代ロールを担い、回答・指南を交わし合う「指南三昧」。早速飛び出したスピードスターTの回答を皮切りに、指南の応酬が始まった。厳しい錬成を経た指南の言葉は、回答を発見的に読み対話を楽しむものへと、大きく変貌している。指南を受け取った学衆役は、師範代役に詳細な評価を返し、お題を介した問感応答返のループが回っていく。
「コンパイルとエディットのそれぞれの要素の揃え、掛け合わせがT師範代の特徴だと思います。」
(M:うた座)
「飛躍がないことに対して、やんわり、でも明確に指摘、言葉を尽くして説明、例も挙げてくれているのは、おおいに納得感がありました。」
(Y:かた座)
単なる感謝や賛美に終わらない方法的な評価の言葉、その成長に指導陣は目を見張った。
◇ ◇ ◇
続いて、グループワーク。
「い・ろ・は・に・ほ・へ」の6組に分かれたキャンパーはそれぞれ異なる社会課題を題材に、守講座38番の編集稽古をアレンジし講座を仕立てる。出題は1日目の午後3時、提出期限は2日目の午前11時。制限時間は夜間を入れて15時間。海外参加組の時差、仕事、子育て、事情編集を尽くしても、参加できる時間にズレがでる。共同作業は至難の技だ。それでもキャンパーたちは、一癖も二癖もある課題に果敢に立ち向かう。夜を徹してアイディアを交わし合い、38番のお題の目的や意義にも手を伸ばし、制限時間を大きく超えることなく、駆け込むように全チームが回答を提出した。しばらくして花目付から届いた講評には健闘を称える言葉に続いて、こんな言葉が記されていた。
編集工学の語り部として何を語り継いで行くべきなのか、このことは是非とも考えつづけていってください。
(深谷もと佳花目付)
編集稽古が編集学校を離れた場で展開される世界を仮設し、編集工学を徹底的に掘り下げることを課した問いは、「語り部」として「代」として、共に編集を志す「仲間」として、編集学校を内外で担う覚悟を求めていた。師範陣からも各グループに続々と講評が届く。
2か月前に掲げた「虚」もそろそろ実になってくる時期です。道場稽古・錬成稽古を経て、指南以外の有事・平時で「師範代のふるまい」を保てているかに評価の目を向けていきたいと思います。
(中村麻人師範)
たった2ヶ月、もう2ヶ月。
◇ ◇ ◇
恒例の「キャンプファイヤー」は19時にスタート。
キャンパーたちが再びラウンジに集まってくる。グループワークを振り返るという課題に応じるため、最初に火を灯したのは【に】組のK。6つ全てのグループがそれぞれに火種を持ち寄り、過去数時間のグループワークを振り返り始める。できなかった挑戦への後悔から、話題は自分や仲間の編集モデルの発見や評価へ移り、やがて、不足を捉え未来を展望する声へと対話の火は高く燃えあがり、キャンパーたちの頬を照らす。
「編集状態でいるために、どのような工夫をされていますか?」【は】組のEが投げ入れいた問いに、複数の師範が応じた。疲れ切っているはずなのに、熱い言葉が途切れない。「私たちはもう学衆ではなく、入伝生なんですよね。」キャンプファイヤーの終盤にふと漏れた【い】組のKのつぶやきを、神尾美由紀師範は見逃さなかった。
この言葉、値千金です。
そう。みなさんは学衆ではなく、入伝生です。キャンプを終えられた今となっては、ほぼ師範代です。
(神尾美由紀師範)
花伝所の短くて長い学びが、まもなく閉じようとしている。
入伝生たちは思いを新たに、覚悟を胸に、それぞれが着替えの時を迎える。
文 牛山惠子(錬成師範)
アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)
【第37期[ISIS花伝所]関連記事】
37[花] 花林頭・阿久津がゆく、アートとデザインのAIDA
37[花]乱世に道場開幕!
37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を
37[花]ガイダンス 却来のループで師範代に「成っていく」
37[花]プレワーク 編集棟梁は 千夜を多読し ノミを振る[10の千夜]
37[花]プレワーク記憶の森の散歩スタート
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
2024年10月19日(土)朝。 松岡校長不在で行われる初めての入伝式を、本棚劇場のステージの上から校長のディレクターチェアが見守っている。 「問答条々」は、花伝式目の「要」となる3つの型「エディティング・ […]
飴はアメちゃん、茄子はなすび、お味噌汁はおつい。おさない頃はそんなふうに言っていた。方言の音色に出会うとドロップのように口にして、舌でころがしたくなる。とくに、秋田民話をもとにした松谷みよ子さんの『茂吉のねこ』は、どの […]
学び(マテーシス)は想起(アムネーシス)だと喝破したのは哲人ソクラテス。花伝所の式目演習にも、想起をうながす突起や鍵穴が、多数埋め込まれている。M5と呼ばれるメソッド最後のマネジメント演習には幾度かの更新を経て、丸二日間 […]
41[花]花伝式目のシルエット 〜立体裁断にみる受容のメトリック
自分に不足を感じても、もうダメかもしれないと思っても、足掻き藻掻きながら編集をつづける41[花]錬成師範、長島順子。両脇に幼子を抱えながら[離]後にパタンナーを志し、一途で多様に編集稽古をかさねる。服で世界を捉え直して […]
今期も苛烈な8週間が過ぎ去った。8週間という期間はヒトの細胞分裂ならば胎芽が胎生へ変化し、胎動が始まる質的変容へとさしかかるタイミングにも重なる。時間の概念は言語によってその抽象度の測り方が違うというが、日本語は空間的な […]