ISIS co-missionメンバーの一人である文化人類学者の今福龍太氏が、第84回感門之盟でイシス編集学校林頭吉村堅樹と本質的な学び舎のスピリットについて対談を行った。
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◇松岡正剛の脱学校、今福龍太のアンチ大学
ーーー初めて感門之盟に参加された印象はいかがでしたか?
今福:イシス編集学校は、世界的にみても稀有な学びの場だということを改めて痛感しました。ものすごく楽しく刺激を受け、いろいろな思いや言葉が落ちてきてメモしていました。
僕は松岡さんと同じような視点で、現代の世界に対するある憂いや危機感、あるいは夢を分かち持ってきました。
学び舎のあまりの画一化や単一性を僕自身が我慢できなくなって、それを破ろうと奄美自由大学プロジェクトを始めたのが2001年。イシス編集学校とほとんど同じときですね。松岡さんも自分自身のなかにある感覚、僕で言うとこのままでは爆発しそうな抑圧のような感覚があったからこそ始めたのかと。志は非常に響き合うものをはじめから持っていたなと、感じていました。
ーーー奄美での学びに参加したとき、普段とはまったく違う豊かな時間の流れを体験し、奄美に魂を置いていくような感覚がありました。
今福:自由大学も編集学校も「学校」と名乗っているけれど明らかに「脱学校」を指向しています。
イヴァン・イリイチも言っていましたが「デスクーリング」というのは、通常の意味での「学校」が社会を完全に支配していて社会のシステムや構造が学校化し、人間は小学校に入学してから死ぬまで学校システムのなかで生きるしかなくなっている、ということに対する批判だったと思います。そういう意味での「脱学校」という精神や志を松岡さんはもっていた。
奄美自由大学は「大学」と名乗っていますが、完全に「アンチ大学」のつもりで名付けているわけです。大学の課外授業をやっているのではなくて。イシス編集学校も、学校システムの延長線上にある成人教育とはまったく違うものを指向していて、そこに共感していました。
◇本質的な人間の自然のことわりを描いた「群島憲法」
ーーー今福さんの『私たちは難破者である』という本に衝撃を受けました。冒頭にある「群島響和社会〈平行〉憲法」は、憲法らしからぬ今福さんのポエティックな響きとメタファーに満ちた文章でしたが、あれを書こうとしたのはどういうところから?
今福:冗談のようですが、嫌で嫌でほとんどドロップアウトしかけた大学の場で法学部にいたものですから(笑)。法律を学ぶ場にいてそれに強く反発していた人間が、まさか憲法の条文を書くってありえないと思ったんですけれど、逆に自分が形式上法学部にいたということを口実にして、とんでもない憲法案を書いてみようかと。
「群島憲法」というのは国家の規範法としての憲法ではないんです。憲法の限界というのはまさにそこにあります。たとえ政権や戦略や国家に対する規制を語っていたとしても、枠組みとしては国家の枠組みが前提になっているわけですから。ですので、だれもが参画できるという可能性をもった人間や自然のことわりを、どこまで経済とか政治とかから削ぎ落として最も本質的な裸の原理や道理をそこに描けるか、というものを書きました。
松岡さんと沖縄でセッションしたときにもすごく気に入ってくれていましたね。
◇霧のなかで「知」と出会い・出会われる
ーーー7月に今福さんの新著『霧のコミューン』が刊行されました。「霧」は現象でもあり、メタファー的でもある。霧がかかることで私たちと他者のあいだが不分明になっているのかもしれないし、言葉という資源のメタファーにもなっているようにも見えます。
今福:不分明というのが霧だとすれば、今もっとも足りなくなっている現実があります。不分明は曖昧だということで否定されてしまっていて、すべてのものごとのあり方がより合理的でデジタルな社会になればなるほど、曖昧な部分が削ぎ落とされてしまう。先ほど話した「学校」もそう。だからこそ新しい学び舎のような「不分明」さと同時に権力的なものから身を隠すような場所としての霧というのもありかと。
ーーー本の冒頭で、霧は「フラジャイルな予兆」でもあり「秘密」の暗示でもあり、「コンティンジェントに開かれた共同体」でもあるともありましたね。
今福:僕は「不分明」さをどうつくるのかを考えていて、例えば僕が学校システムでなじめなかった部分は、今の教育が学ぶ人と教える人の完全二分化を前提に行われていることです。
奄美自由大学もイシス編集学校も、学び手と教え手の関係が不分明なんですよね。
ーーーおっしゃるとおりで、編集学校では同じ人が学衆をしたり師範代になったりと、学び手と教え手のロールがしばしば入れ替わっていきます。
今福:そうですね。そこで学びの二分法や分断を、能動態と受動態の思考実験で改めて考えてみましょうか。
「教える」は能動態ですが、教え手の側からの受動態で返してみると「教える」というのは同時に「教えられる」ということになります。
同様に「学ぶ」を受動態にすると「学ばれる」になる。つまり学んでいるつもりの人は実は誰かによって学ばれている可能性がある。知らず知らずのうちに「教え手」になっている。「学ぶ」と「教える」はそういう相互性のなかにあります。
ーーーなるほど。ぐるぐる回って行ったり来たり。
今福:「つくる」と「つくられる」の関係もそうです。
「つくる」は、創造的主体的行為と考えられていますが、“つくることによってつくられている”ということの方が大事。これはバタイユも言っていました。
今福:私の一番好きなのは、「出会う」と「出会われる」の関係。
ふつう使われない言葉ですが、自分がだれかと出会うという主体的行為も、なにかから出会われているということになる。「知」はその最たるもので、「知」は向こうからやってくるものであって自分から取りにいくものとはちがう。
松岡さんも「知」を根源的にある運動「来訪的なもの」ととらえていましたね。
ーーーはい、日頃から編集というのは、常にそういう状態だと考えて臨むよう言っていました。
今福:それを感じとるには、自分の中の偶然性的なものを開いておかないといけないわけで、プログラムを完璧につくってなにかに向かって目的意識をもって恣意的にやっていくというのでは来訪的な「知」というものを受けとめられないのだと思います。
◇かなもの・たまもの・たますもの
今福:ここまでこの会を拝見し、会場内のブースを巡るなかでみなさんの遊び心を感じました。外連、誇張、バロック、演劇的、身ぶりが満ちあふれているのがすばらしい。
遊び場として霧のなかに入っていく。学びこそが遊び、遊びこそが学びだと思います。
-ーー光栄です。
今福:では、遊びとはなにか、なのですけれど。
奄美自由大学では、現地の言葉で「あしび」というのですが、お互いに歌を掛け合いながら受けとめ受けとるやりとりがあります。人間のコミュニケーションは受けとり与える関係性なんです。言わば、
『すべてを受けとり、すべてを逃す』
なにかを蓄積させたり所有したり私有したり資本主義のように余剰を生産したり、そういうことから完全に解放された場が「遊び」で、松岡正剛さんがやってきたのはまさにそういうことだったのだと思います。
-ーー確かに、編集学校は「遊」の場そのものですね。
今福:式典で松岡さんからの「賜物〜贈りもの」が交換されていました。本だったり草刈り鎌だったりとんかちだったり。
-ーーかんなや扇もありました(笑)
今福:たくさんの「かなもの」の「たまもの」があるのを見て「たます」という言葉が浮かんできました。
「たます」は、もらうこととあげるっていうことが合体したような古い言葉ですよね。そして、一応「賜」という字を書きますが「魂」でもあり「玉」だともいえます。霧のなかのように「たます」物質と霊魂がともにあるのです。
今日の「たまもの」はすべて「賜」したものであり「魂」でもあるから単なる「物」ではないんですよね。まさに松岡さんの魂でもあるしスピリットであるし、それがこの学校が共有しているスピリットだなと思って見ていました。
ーーーまさに編集学校で交わしているものを言いあてていただきました。イシス編集学校は『霧のコミューン』のようなものだと言えそうですね。
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10月に『霧のコミューン』を手すりにしたイベントが用意されている。
今福龍太氏の語りがたます出会いと出会われる機会をお見逃しなく!
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(写真:西宮牧人・細田陽子)
細田陽子
編集的先達:上橋菜穂子。綿密なプランニングで[守]師範代として学衆を全員卒門に導いた元地方公務員。[離]学衆、[破]師範代、多読ジム読衆と歩み続け、今は念願の物語講座と絵本の自主製作に遊ぶ。ならぬ鐘のその先へ編集道の旅はまだまだ続く。
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