『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
目が印象的だった。半年前の第86回感門之盟、[破]の出世魚教室名発表で司会を務めたときのことだ。司会にコールされた師範代は緊張の面持ちで、目も合わせぬまま壇上にあがる。真ん中に立ち、すっと顔を上げて、画面を見つめる。まもなく[守]の教室名が映し出されると、桜が散るようにさっと消え、同時に[破]の教室名が現れる。本楼が歓声で湧いたあと、やっと師範代は司会と目を合わせてくれた。
それはなんとも言えない、菩薩のような慈愛の目をするのだ。冠界式のときのような全身で喜ぶ姿とはまた違った風景がそこにあった。
多くの人にとって破の師範代は一生で一度きり。物語を書くのだから、やりとりする文字の量が膨大なのは明らか。「できるのか、わからない」そんな不安を抱えつつ[守]とはまったく異なる物語が始まる。その切実の一擲が出世魚教室名発表なのだ。原郷から離れ、旅立ちを決意したその目には澄み切った中にも確かな弾力が宿る。
行く春や鳥啼き魚の目は泪 芭蕉
去りゆく春を惜しみつつ旅立つ芭蕉の心情は、慣れ親しんだ[守]の教室名が去って行くような寂寥感とも重なる。暦の上ではもう秋。季節が止まってくれないのと同じで[破]も止まることはない。9月20日、第89回感門之盟では10名の師範代が出世魚教室名を授かり、出遊する予定だ。
冠界式が音からはじまる声の風景ならば、出世魚教室名発表は映像からはじまる文字の景色だ。十人十色の映像制作もまた過酷で、感門之盟ぎりぎりに完成することが多い。当日はその映像と、師範代の眼差しに注目してほしい。
アイキャッチ・文/一倉広美(55[守]師範)
イシス編集学校 [守]チーム
編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。
『関西汁講~型を身体に通す・京都まち歩き~』再演【56[守]】
参加者の脳内がカオス状態にさしかかりつつあった56[守]向け特別講義の最終局面で、登壇者の津田一郎さんから最後のメッセージが放たれた。 「Needs」ではなく「Wants」に向かえ 「Needs」は既に誰もが必要と […]
イシスが「評価」の最前線だ(後編)--対話から生みだす(56[守])
イシス編集学校[守]コースには、既存の価値観におもねることなくユニークな「評価」を繰り出す目利きの集団、同朋衆がいる。前編に続いて、同朋衆の「評価」の秘訣を解き明かしていく。 ◆評価者は対話する 「番ボ […]
イシスが「評価」の最前線だ(前編)--才能をひらくために(56[守])
いま「評価」がますます貧しくなっている。衰えて細っている。 「いいね!」の数や再生数の多さばかりがもてはやされ、「あなたにぴったりですよ」とニュースもエンタメも今日の献立も転職先も、次から次へとAIが選んでくれる。 […]
世間では事業継承の問題が深刻化しているが、イシス編集学校では松岡校長の意伝子(ミーム)を受け継ぐ師範代になるものが後を絶たない。56[守]では、初の”親子”師範代、スクっと芍薬教室の原田遥夏師範代が誕生した。まもなく卒門 […]
春のプール夏のプール秋のプール冬のプールに星が降るなり(穂村弘) 季節が進むと見える景色も変わる。11月下旬、56[守]の一座建立の場、別院が開いた。18教室で136名の学衆が稽古していることが明らかに […]
コメント
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2026-03-19
『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
2026-03-17
目玉入道、参上。
体を膨らませ、偽りの目玉(眼状紋)を誇張して懸命に身を守ろうとしているのは、カイコの原種とされるクワコの幼虫。クワコの繭から取れるシルクは、小石丸のそれに似て細く、肌触りがよいらしい。
2026-03-10
平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。