宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

本を買いに行ったのに、持ち帰ったのはワンピース。風が吹けば、三味線だ。人や本だけでなく、服にも思いがけない出会いがある。ハレやかな本楼空間に包まれる感門之盟で、阿曽祐子番匠の身体にひらめく一着を紹介しよう。
京都の一乗寺に「恵文社」という本屋がある。その日、阿曽番匠は本を求めて、近江から京都へと赴いていた。訪れたのは「本屋」であり、当初服を買う気はなかったという。しかし「感門之盟で何を着るか」というお題がふわっと浮かんできた。
阿曽番匠は、感門証授与の前半の司会ロールを担う。ひとりひとりの師範代を迎え、送り出し、思いに満ちた名場面をつないでいく。師範代のメッセージを受け、その瞬間におこる感応を言葉に変えながら。
恵文社は、絵本や写真集、ZINEや雑貨、本の周囲の気配があるぬくもりのお店である。そこで、彼女は思いがけず、インドと近江出身の夫婦に出会った。ちいさな風に揺れる青柳のような緑色のワンピースは、夫婦の共同制作による一着だった。
インドで紡ぎ織られた一枚の布が、日本で編集されて衣になる。その服を着ることは、インドのちいさな地域の工芸に参加することでもある。そして、両夫婦の切実な思いを纏い、師範代たちを言祝ぎたいと阿曽番匠は感じる。
両夫婦がこの世に一着しかない服を仕立てるように、師範代と学衆は教室という唯一の世界を制作する。師範代スピーチは、壇上に咲く言葉の花。その周りには一面の緑が生い茂っていた。番匠の声には、異国から出遊する布の力とぬくもりがあった。
アイキャッチ/福井千裕
文/北川周哉
イシス編集学校 [破]チーム
編集学校の背骨である[破]を担う。イメージを具現化する「校長の仕事術」を伝えるべく、エディトリアルに語り、書き、描き、交わしあう学匠、番匠、評匠、師範、師範代のチーム。
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コメント
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