道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
ペン習字も果たせずさん(20代女性)のご相談:
悪筆です。自分の書いた字を見るのもこわく、仕事外で文字を書けなくなってしまったのですが、ノートをとれるようになりたいです。どうしたら手書きへの抵抗感を捨てられるでしょうか。
サッショー・ミヤコがお応えします
奇遇ですねぇ。わたしも悪筆に悩んできました。ウェブでなければ走り寄って、コロナでなければ肩を抱きたいです。まっすぐ書けないとか、難しいほどでっかい字になって普段書き慣れてないのがチョンバレだとか、メモした字が自分で読めないこともしょっちゅう。ついでに、さらさら図解ができないのにも、とことん悩まされました。字がヘタなだけでなく絵もヘタなんですねぇ、サッショーは。
「果たせず」さんのように20代で手を打とうとすればよかったのですが、無策のまま中年に至った頃、取引先の若いデザイナーのコたちがオフィスに筆や墨や半紙を持ち込んで、書の練習をしているのを見て、びっくりしました。こいつらは、絵が描けるのに字まで上手になろうとしてる! そして、二度びっくりしたのは「だって字は絵ですよ、おーとさん」という彼らのことばでした。字も絵も思うままに描きたくっていた自分は、どこへ行ってしまったんでしょうか。今回のアイキャッチに使わせてもらったいちのちゃん(4歳)の闊達さにあやかりたいと思いつつ、贈る本を選びました。
千悩千冊0013夜
篠田桃紅
『桃紅 私というひとり』世界文化社
桃紅さんが生まれたのは1913(大正2)年3月。『一〇三歳になってわかったこと』がベストセラーになって早6年、凛とした姿にふれ、居住まいを正す気になった人も多いと思います。本書は2000年に出版された「書くつもりはないのにできた『自伝』のようなもの」で、冬春夏秋4つの扉を開く文字は、冬:玄、春:青、夏:朱、秋:白です。写真も十分な数収められ、彼女の書こそ、まさに「字は絵」であることを伝えてくれます。多分それゆえ、20世紀日本での評価は海外での評価に及ばなかったのでしょう。文章もまた、教科書通りではない入りと止め、跳ねと払いの呼吸を伝えてくれます。一緒にがんばりましょうね。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
グーグルで「石原慎太郎 悪筆」と検索してみましょう。凄惨なまでに悪筆の原稿が出てきます。出版社によっては石原慎太郎氏の原稿を解読する専門家がいたとか。もし、あなたがここまで悪筆ではなかったら「下には下がいる」と自分を慰めることができます。万が一、あなたの方が悪筆であれば「石原慎太郎氏の才能は、わたしよりも劣っている」と勘違いをすることができます。心持ち次第です。さらには、もしあなたがとても悪筆家には見えない空気をまとっているのであれば、そのギャップを魅力に転嫁することができます。「見た目は清楚、字は汚い」という女性に“ギャップ萌え”する人と、わたしは友達になりたいと思うのです。
「千悩千冊」では、みなさまのご相談を受け付け中です。「性別、年代、ご職業、ペンネーム」を添えて、以下のリンクまでお寄せください。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
【シーザー★有象無象006】自分にかける呪い考~アル中患者のプライドと、背中の龍と虎の戦いと、石田ゆり子の名言と。
前回の経済学の記事で「金融緩和をするほどに(IF・原因)高インフレが生じる(THEN・結果)」という現象を取り上げた。望んでいるのはマイルドなインフレなんだけど、よかれと起こしたアクションで期待しない結果をもたらす。これ […]
【ISIS BOOK REVIEW】ノーベル経済学賞『リフレが正しい。FRB議長ベン・バーナンキの言葉』書評~会社員兼投資家の場合
評者: 井ノ上シーザー 会社員兼投資家 イシス編集学校 師範 文明も芸術も、経済も文化も、知識も学習も「あらわれている」を「あらわす」に変えてきた。この「あらわれている」と「あらわす」のあいだには、かなりの […]
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ちょっと裏話を。前回の「市井編」と今回の「ユーラシア編」は、もともとは一編でしたけど、遊刊エディスト編集部から「分割したほうがいいんじゃない?」という声があって分けてみました。今回もホリエ画伯がトホホ感あふれるアイキャッ […]
【シーザー★有象無象004】”町中華”を編集工学する~市井編
中国在住歴通算11年(!)の井ノ上シーザーがこのネタに取り組みました。大真面目にDUSTYな編集中華料理をお届けします。たーんとご賞味ください。 ●――深夜に天津飯がやってきた: ある夜中の2時ころに目を覚 […]
【シーザー★有象無象003】事件速報◆山口県阿武町から越境した男と4630万円
井ノ上シーザーが「い・じ・り・み・よ」する。今回は世間を騒がせているこの事件を取り上げる。 文学的でもあるし、超現代的でもある。そう睨んだのはシーザーだけではないだろう。 ●――電子計算機使用詐欺事件: 2 […]
コメント
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2025-11-25
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2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)