結婚飛行のために巣内から出てきたヤマトシロアリの羽アリたち。
配信の中で触れられているのはハチ目アリ科の一種と思われるが、こちらはゴキブリ目。
昆虫の複数の分類群で、祭りのアーキタイプが平行進化している。

「神話が足りない」
5月も終盤へと向かい、6月の梅雨の時期に入ろうとしていますね。日本国際博覧会協会(万博協会)が大阪・関西万博の5月23日の一般来場者数(速報値)が約13万9千人だったと発表しました。開幕日の約12万4千人を上回ったようです。これからも盛り上がってゆくでしょう。時期を同じくして、イシス編集学校の[破]応用コースの熱量を増幅するための師範代の研鑽会である54期の破天講が豪徳寺駅近くの編集工学研究所で5月24日に開催されていました。
現在の破コースは「クロニクル編集術」の登山シーズンですね。学衆たちは自らと課題本の年表づくりを通じて、お題山脈の頂上を目指し歩いているようです。「文体編集術」を含めて教室運営や指南についての課題などを師範代が説明し、師範たちが応接します。創文(作文)の際に自らの「見方づけ」が不足している学衆への指南に苦戦している師範代に対して、破コースの作品に講評をおこなう目利きである評匠・岡村豊彦が校長・松岡正剛が編み出した「並木が呼ぶ虫」の型を手渡していました。
な → 名付けてみたら?
み → 未来から見たら?
き → 切り捨ててみたら?
が → 外人になってみたら?
よ → 世のために考えてみたら?
ぶ → 分類してみたら?
む → 昔に帰ったら?
し → 知らせるつもりになったら?
学衆がこれらの型を使って情報の持つ属性や背景を動かせば、未知に進むことができそうです。
評匠たちのメッセージの後、神話に登場する英雄伝説の構造を使って物語を創文(作文)する「物語編集術」での指南に向けた師範・小林奈緒のレクチャーをダイジェストでレポートいたします。
「並木が呼ぶ虫」の型を伝える評匠の岡村
◎物語マザーの中の英雄伝説
物語編集術の稽古の前半では、課題として渡される映画に登場するキャラクターの意味を捉え、さらにストーリーを構造的に分節化します。構造となるのが「英雄伝説」の型になるのですが、この型は校長・松岡正剛が整理した物語の基本型「物語マザー」の1つである「往還マザー」(セパレーション、イニシエーション、リターンの三部構成)のカテゴリーに入ります。最初のセパレーションは主人公にとっての原郷(here)の世界から、得意武器が通用しない向こう(there)の世界への出発を意味します。イニシエーションは困難であり、原郷へのリターンの段階では何らかの宝物を得て帰還しますが、thereの世界が魅力的で後ろ髪を引かれるような場合もあるようです。
師範の小林はジョーゼフ・キャンベルとビル・モイヤーズの対話本『神話の力』を引用しながら、往還マザーのアーキタイプ(原型)は「神話」にあると伝えていました。型を用いて課題映画の意味や構造を抜き出し、新しい物語へと翻案(転移)させるプロセスを稽古することで、現代社会に不足している神話を取り戻し、人間性の根本に触れて、生きる実感を得ることができるのです。
『神話の力』について語る師範の小林
◎英雄とは何なのか
『北欧神話』における隻眼の神・オーディン、『日本神話』における泣き虫・スサノオ、『一寸法師』の3センチメートルサイズの主人公など、英雄と呼ばれるキャラクターには弱点がありました。英雄は敵対者をなぎ倒すような強さだけでなく、弱い側面が必要となります。「たくさんのわたし」を持っておく必要があるのです。『スターウォーズ エピソード4』の主人公・ルークも両親の不在という不足がありましたね。
主人公は英雄伝説の冒険を通じて、敵対者の策謀による困難との遭遇によって擬きとしていったん死んで、相転移する必要があります。子どもから大人になるくらいの大きな変化が必要となるのです。
ストーリーが進むにつれて主人公は真の目的を察知して敵対者との闘争に向かいます。師範の小林は敵対者側にも何かしらの論理が必要と説きました。最後の闘いは論理と論理のぶつかり合いになるのです。もしも敵対者に論理が無ければ、ホラー的なストーリーになり、英雄伝説の構造から外れてしまいます。課題映画『エイリアン』の主人公はエイリアンと闘いを行いますが、不気味なエイリアンが敵対者ではありません。映画の背景を俯瞰的に観ることで、真なる敵対者が隠されていることに気づけるでしょう。
神話における英雄とは何か
◎強い敵対者が必要だ
これまでの物語編集術から生まれた作品の敵対者は、肉薄するはずのシーンで主人公にあっさりと倒されていないか、と師範の小林が問いかけます。主人公が強くなったとしても、敵対者に勝つのか/勝たないのか、極限状態へと追い込まれる方が、読み手の心臓を強く握ることになるのです。
レクチャーを終えて、破コースを取りまとめる学匠の原田は「神話を読むことで生きている実感がある」ことへの見方づけを語っていました。現代社会では安全性が極端に重視されており、「生きていて良かった」「危なかった」という生死の境界線の一歩手前になるシーンに出会うことが減っています。リアルの世界で出会わない状況であったとしても、よくよく練られた英雄伝説の構造を持つ物語を創文(作文)することで、生きている実感を取り戻すことができます。弱かった主人公が強い敵対者に勝つことにより、脳内で物語の洪水が起こり、神経物質のドーパミンが流れそうですね。
学匠の原田による物語編集術レクチャーについての見方づけ
レクチャーの後に師範代向けのワークが行われていました。課題映画2本のキャラクターの背景となる情報を読みとりつつ、ワールドモデルを平安時代と江戸時代に設定した新しい物語づくりの練習をしていたのです。
今回の破天講で6月中旬からスタートする「物語編集術」の指南に向けた用意が着々進んでいました。物語を自由に、もっと登場人物を自在に動かす稽古が行われそうです。
<参考>
東京新聞「万博の一般来場者数、最多更新 13万9000人、23日速報値」2025年5月24日11時56分
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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<速報>REMIX校長校話「あやかり編集力」三匠対談に迫る(179回伝習座)
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「可能性を生み出すカオスをいつも保ちなさい」田中晶子所長メッセージ【86感門】
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