軌跡を残すは石か、イシスか マタギの里・阿仁

2019/11/13(水)10:14
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 「WA Rockはじめました」。夏のある日、秋田県北部のマタギの里・阿仁に向かう途中、あまりの暑さにソフトクリームを買った店で、レジ横にそんなメッセージを見かけた。「WA」とはWestern Australiaのこと。絵を描いた石に「WA Rock」と書いて置いておくと、それと知る人が気に入ったものを持って帰る。顔の見えぬ人に石を贈る遊びだ。

 

 古来ウルル(エアーズロック)を聖地と崇め、岩や石に知恵の痕跡を残してきたアボリジニたち。そこで始まった遊びが日本で広まりつつある。その中心が山の神を崇めてきたマタギの土地だ。日本最多の4基のストーンサークルが見つかった伊勢堂岱遺跡(縄文時代後期)にほど近い。 

 

 ここでは場所が主役であり、人はただWA Rockのように、動き回り通り過ぎてゆくものに過ぎない。だが、アボリジニが祖先の精霊の旅を歌や踊りや壁画にしたように痕跡を残し、歴史を伝える。時代を超えて、動線が交わる。それはインターネット上の教室でインタースコアされていく編集稽古の軌跡と相似形だ。

 

 2000年6月1日にネット上に開校したISIS編集学校は、来年20周年を迎える。師範代から教室に届けられる指南のアーキタイプ(原型)を辿っていけば、20年前の指南に行き着く。通り過ぎていく人たちのあいだで「方法」は受け渡され、先々まで継承されていく。

 
  • 林 愛

    編集的先達:山田詠美。日本語教師として香港に滞在経験もあるエディストライター。いまは主婦として、1歳の娘を編集工学的に観察することが日課になっている。千離衆、未知奥連所属。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。