蒐譚場・文叢六譚のインナーストーリー【前編】

2019/11/28(木)18:18
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 [遊]物語講座・蒐譚場、前半のメインワークは「文叢六譚」だ。2つの文学作品を一種合成し、文叢ごとに新たな物語を生み出す。
 といっても、実際に執筆するのではない。タイトル、キャッチコピー、著者名、章立てをアウトプットし、「商品」という視点も加えてプレゼンテーションする。


 最初はソロワークで、元になる物語の「型」を取り出し、掛けあわせて翻案していく。新たなワールドモデル、キャラクター、ナレーター、ストーリーをざっと書きだしたところで、5人から6人のグループワーク<編集会議>に移った。

 

 浮世絵師の群像劇『百日紅』とアメリカの青春恋愛小説『グレート・ギャツビー』が課題本である百日紅ギャツビー文叢は、3つの文叢の中でもっとも各々の構想が屹立していた。
 心中ものがいい。二次元の絵の中に迷い込むSFものはどうだろう。NYの芸術家コミュニティ。元の本から離れるなら、舞台はアフリカかヨーロッパにしてはどうか。さあ、どうまとまっていくのか。それぞれの着想を広げていき、つなぎめを探しつつ、要素を選択していく。仮留めするも、なかなか一つの「地」(ワールドモデル)に乗せきれず、連想も止まりがちになる。
 「あと10分です。そろそろ<制作会議>に入ってくださいね」。木村久美子学匠の声が聞こえてくる。


 「元の2冊の本の要素だけに注目するのではなく、“らしさ”も生かしていくのがコツです」と松井路代師範代が笑みを浮かべながらアドバイスを挟んだ。
 北斎は画狂、ギャツビーは愛情と金遣いが圧倒的だ。「過剰」のベクトルを変えると、正義のためには手段を択ばない革命家像がメンバーの真ん中に浮かび上がった。ゲバラというステレオタイプで全員が了解する。
 主要キャラクターは3人という型も継承し、女性パトロンと若い崇拝者を出すことになった。革命家がゲドルフと名付けられると、大国の中の少数民族というワールドモデルや章立てが一気に決まっていく。革命家が目指すのは、貨幣の無い社会。そこでは骨こそが価値を運ぶアイテムである。タイトルを『ボーン・カレンシー』と仮留め。森井一徳師範が、血を連想させる真っ赤な帯がいいのではとアシストする。ストーリーの肉付け、キャッチコピー作り、ペンを手にレタリング。同時並行で、自然にロールに分かれて進めていく。
 <制作会議>終了間際に、著者は中華系の「紅狼」氏、当局から危険視されているノーベル賞級の覆面作家で、本書は日本のイシス書房から緊急出版されたという設定が定まる。ぎりぎりのところでブーツストラッピングが間に合った。

 

 ◆文叢六譚インナーストーリー【後編】へつづく

 

 

文叢メンバーと高速濃密な編集会議グループワークに挑む

6つの物語から生まれた3つの新しい物語

 

 

https://edist.isis.ne.jp/post/%e8%92%90%e8%ad%9a%e5%a0%b4%e3%83%bb%e6%96%87%e5%8f%a2%e5%85%ad%e8%ad%9a%e3%81%ae%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%8a%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%bc%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%80%90%e5%be%8c%e7%b7%a8%e3%80%91/

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。