【よみかき探Qクラブ】千夜千冊共読レポ――机の上に立ち上がれ!

2025/10/05(日)08:25 img
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「浮気も不倫もOK」

「本は武器だ」

「流血も怖くない」

 

 過激な発言が飛び交う共読会が9月半ばに開催された。

 主催はよみかき探Qクラブ。このクラブ、松岡正剛校長の「そろそろ僕も、明日の少年少女のために想像の翼をつける仕事をしなくちゃね」をラウンジに掲げる、子ども編集学校を前身とする。この秋1周年を迎える多読アレゴリアに第1期から設立し、【共読の本棚】【マナビお題】【よみかき編集ワーク】【千夜千冊共読会】【イドバタトーク】【豪徳寺・本楼などのリアル企画】などのお題をラウンジ・ズーム・リアルという複数の場で多層多様に交わし合う。なかでも、子ども編集学校時代からお馴染みの千夜千冊共読会は、毎月行われる人気ワークだ。クラブ運営員・書民とクラブ員・Q人が入り混じり、千夜千冊を実際に声に出して輪読する。これまでに1540夜『想像力を触発する教育』1746夜『状況に埋め込まれた学習』1603夜『人工知能は人間を超えるか』1669夜『おさなごころを科学する』などの千夜千冊を共読してきた。けっこう硬派だ。なのに、参加者に冒頭のような発言をさせた千夜とは?

 

 意外にも1527夜『本から引き出された本』マイケル・ディルダ。「よみ」と「かき」の往来を、果てしなく続く大空まで羽ばたかせてくれそうな千夜だ。この千夜から、なぜあのような発言が連発されたのか。共読会で書かれた図解とともに紹介しよう。ちなみにこの図解ワーク、所要時間は10分である。

 

◆敢えて変容、攻めのカマエで取りに行く読書

 これまで好きなタイプの本とばかり付き合ってきた。イシスに入って読んだことのない本が増えて、わからないながらも面白さを知ったというのはQ人・高橋仁美。これまでの自分にないもの、違う感覚にだって出会っていける。こんなに移り気だと大変だけど、本の世界なら許される。変化は自己編集になる。

 

 「本はネステッド」から、ネスト→巣→鳥と連想したのはQ人・三苫麻里。言葉の巣から著者のメッセージが孵化し、鳥になって飛び立つイメージだ。それは武器や絵筆や注射器に変容し、読み手に混じり(刺さり)変わっていく。ありのままの自分も大事だが、本を読むことで自己編集をかける攻めの姿勢にだってなれる。

 

 理解するための読書を地にすると、能動的になれると語ったのはQ人で56[守]師範代の坂口弥生。交際相手と仲良くなるには五感をフル回転しなければと思っていたが、今までの自分の方法でやっていても変わらない。意図的に五感を変えると新たな感覚が愉楽となる。beingの良さもあるが、もっと取りに行くカマエを!

 

 映画『いまを生きる』の例示にビビビときたのは書民の浦澤美穂。「机にしがみつくのではなく、机の上で立ち上がることが、読者の屹立なのである」を真っ向から受けとめ、机に直立させた。周辺にはスタイルや社会の気になるニュース、イシューがある。それは本を読むことで繋がり、自己編集やチェンジになる。

 

◆本も世界も「わたし」も方法によって引き出される

 「本のトク」に注目したのはQ人であり物語講座師範代の北條玲子。世界やキャラクターの出会いは、イーガンの『想像力を触発する教育』の1番目「物語を重視する」を、類書とのつながりは、クリステヴァの「間テクスト」を引き出した。共読の場というトポスを作ることで、本の世界にある方法的なものにも気づいていけるのだ。

 

 書民の石井梨香は、本を言い換える校長の連打から、字がたくさんある難しいモノという意識が変わることを実感。本は、丸まって閉じ籠りたくなる炬燵のような場所でも、自分に今までなかったものも注射してくれるものでもある。読むことでQや好奇心の窓が次々に開き、世界はどんどんつながり広がっていく。

 

 「本を選べるようになれば、両親や恋人さえ取り替えられる」。ならば、今からできる浮気をしよう! と思い立ったのはQ人・大濱朋子。あれかな? これかな? と七茶の法則ならぬ十二茶を側に本から本へ移ろえば、共読クラブが現れる。本やクラブを自由に出入りし、次なる出会いを求め新しい服で本屋へ行こう。

 

 真ん中に本がある世界感覚入手装置に感銘を受けたのは書民の馬場朋子。本を手に取った子のトリガーはわからないが、共読すること、分かち合うことで、互いに思っているものが違うと気づくことがある。その気づきがA+Bではなく、A×Bの化学反応のようなことをおこしてくれる。自分の外に広がる受容突起があるのだ。

 

◆生きづらさと読書の関係、ズレていくことの喜びを

 Q人・美濃万里子は、「平凡な社会に適応しない」をキーワードに、世の中とイシス編集学校を対にした3つの扉を浮上させた。世の中が生きづらく感じるのは、ISIS編集学校のような視点が欠けているのではないか? 自身の活動と重ねながら千夜を読む。読むことによって引き出されるのは、本だけではない。

 

 線を引いたり囲ったり、マーキングが進んだのはQ人・永渕尚子。気になった言葉から書き始めると、数多ある読書のきっかけを校長が列挙し、読書はどこから入ってもいいと言い換えをしてくれていることに気づく。平凡からのズレを快感と思うことも、誰かと一緒でなくともいいと思うことにも背中を押してくれた。

 

 最近いろいろなブックトークに参加し、本が読めなくなったという声をよく聞く書民の松井路代は、子ども時代、「できるだけ普通じゃない人間を目指そう」と思って本を読んでいた。仕事や子どもとの関わりを通じて、「学校の目的は『普通』を目指させることだったんだ」と思うようになったが、この共読で実際はもっと多重多層だと気づいた。

 

 

 今回の共読会のナビゲーターをした書民の長島順子は、終始柔らかな口ぶりでのびのびと参加者を繋いだ。「読書のカマエを新たに見つけたり、こういう風にありたいといろんなテーマを身近なところから見つけたり、読み方の方法に目がいったりと多様な読み方があった」と振り返る。

 

 

 「クラブメンバーであることとは?」

 やりながら考える日々の中で、学習が平凡な社会に適応することであってはならないと思うと同時に、平凡じゃない道に踏み出す怖さがあるのも事実だ。しかし、私たちには共読する場所がある。考えることは場所に引っ張られもするし、場所から想起もできるし、場所に惹きつけられもする。自由に出たり入ったりできる場所で新たな感覚にであっていくことが必要なのだ。

 

 我ら共読クラブ(=よみかき探Qクラブ)。「よみ」と「かき」をエンジンに、想像の翼を羽ばたかせる。それは、誰かと何か、何かと何かをくっつけるために、まだ見ぬ組み合わせを発見するために。机の上に立ち上がり、世の中にある平均・平凡な感覚からズレていくことを快感とすべし。

 

▲最後にパチリと記念撮影。次は何を読もう。

 

文・構成/大濱朋子

編集/よみかき探Qクラブ

 


 ●付記●

よみかき探Qクラブ 2025秋・顔合わせ千夜千冊共読会
・日時:2025年9月14日(日)10~12時
・共読した千夜千冊:1527夜『本から引き出された本引用で綴る、読書と人生の交錯』マイケル・ディルダ/早川書房 2010
・参加者: 美濃万里子・石井梨香・ 坂口弥生・高橋仁美・永渕尚子・馬場朋子・浦澤美穂・北條玲子・三苫麻里・大濱朋子・松井路代
・ナビゲーター:長島順子


 ●Information●

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◆子ども編集学校プロジェクト◆


 

  • 大濱朋子

    編集的先達:パウル・クレー。ゴッホに憧れ南の沖縄へ。特別支援学校、工業高校、小中併置校など5つの異校種を渡り歩いた石垣島の美術教師。ZOOMでは、いつも車の中か黒板の前で現れる。離島の風が似合う白墨&鉛筆アーティスト。

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。