卓上に並べられた、十種の葉物野菜。八百屋ではなく、病理学の授業だ。病理診断には、病態から「らしさ」をつかみ取ることと、病状の進行を判断する「物差し」を持つことが欠かせない。
高校生向けの出前授業で、がん細胞を顕微鏡で観察する前の準備運動として、葉物野菜の分類系統樹を作る編集ワークを大盤振る舞いしているのが、イシス編集学校師範の小倉加奈子だ。父親も夫も息子も娘も編集学校に入れた、ハイパー・エディトリアル・マザーでもある。
その小倉が2019年6月に上梓した『おしゃべりながんの図鑑 病理学から見たわかりやすいがんの話』(小倉加奈子、CCCメディアハウス)の第3刷、3,000部重版が決まった。9月15日には、読売新聞の書評欄でも取り上げられ、今や「話題の一冊」と言っても過言ではないだろう。
なんと言っても、平明で親しみやすい語り口とイラストが目を引く。それでいて専門語を無理に易しい言葉に解体せず、誠実に本格的な病理学を語る一冊だ。
装丁は寄藤文平氏によるものだが、氏のイラストは、この本では見られない。この方針は、小倉の手によるがん細胞などのイラスト原稿を寄藤氏が見た際に決まったという。
病巣のイラストなどおどろおどろしそうなものだが、迷いのない線で描かれた一つひとつのイラストには、マンガチックな愛嬌すら感じる。おしゃべりでネアカな小倉の「らしさ」は、本の細部にまで宿っているのである。
この本のもう一つの見所は、成毛眞氏が主宰する書評サイト「HONZ」のレビュアーの一人でもある、大阪大学医学部の仲野徹氏との「なかのぐら対談」だ。脱線上等で来し方行く末を語りまくる二人のおしゃべりは留まるところを知らず、このたびNewsweek日本版のウェブサイトにまで飛び火してしまった。
「毎日毎日、喜びを感じているような奴は大成しない」と喝破する仲野氏にたじろぐ小倉。日々の生活に様々な悦びを見いだしている小倉にとって、大先達のこのストイックな一言は、なかなかにショッキングだったようだ。
しかし小倉は現在、編集学校の中でももっともストイックな講座[離]の右筆として20人になんなんとする離学衆の学びを煽り続けている。診断も執筆も出前授業も[離]も子育ても、小倉の欲深い好奇心は絶対に手放さない。
八面六臂の日々の中で顕微鏡越しに細胞に語り掛けつつ、がん細胞すらプリティに描いてしまう小倉の編集力は、すでに自身を唯一無二の編集病理医に仕立てあげているのだ。
川野貴志
編集的先達:多和田葉子。語って名人。綴って達人。場に交わって別格の職人。軽妙かつ絶妙な編集術で、全講座、プロジェクトから引っ張りだこの「イシスの至宝」。野望は「国語で編集」から「編集で国語」への大転換。
ハグが好きな人だった。 オンラインが基本のイシス編集学校で、初めて松岡校長と対面したのは2010年5月15日、紀尾井町の剛堂会館。6離「表沙汰」でのことだった。苛烈な稽古でぼろぼろになっている離学衆を、校長は一人ひとり抱 […]
司会のコンビは昆布と海苔!? 感門之盟day2スタート【79感門】
笑い・涙・仰天・懐古……感情も題バシティであった一日目の余韻も覚めやらぬまま、第79回感門之盟は二日目の幕を開けた。 佐々木千佳局長に迎え入れられた本日司会の二人は、感門1日目に37花放伝を言祝いだばかりの […]
近大の織姫・彦星たちがミメロギアの短冊に綴る思いとは【49[守]】
実地で知をふるう近大生は、忙しい。世間が七夕祭りで賑わう今日とて、その例外ではない。学業に、アルバイトに、各種プロジェクトに精を出す実学の織姫と彦星たちが、忙しい合間を縫って49[守]近大学衆の交流会、ミメロギア祭りに集 […]
ISIS 20周年師範代リレー [第46期 角山祥道 ちょっと頼れる「映画に出てくる方の」ジャイアン]
2000年に産声をあげたネットの学校[イシス編集学校]は、2020年6月に20周年を迎えた。第45期の師範代までを、1期ずつ数珠つなぎにしながら、20年のクロニクルを紹介する。 ◇◇◇ ミイラ取りがミイラに […]
ISIS 20周年師範代リレー [第38期 大塚宏 牛歩む野辺のひろしや後の月]
2000年に産声をあげたネットの学校[イシス編集学校]は、2020年6月に20周年を迎えた。第45期の師範代までを、1期ずつ数珠つなぎにしながら、20年のクロニクルを紹介する。 ◇◇◇ イシス編集学校には、 […]