世界読書奥義伝 第14季[離]は、休信週という名の追い上げ週。土曜日は、離史上初のオンラインによる表沙汰が開催されました。「おしゃべり病理医のMedit Lab」もいよいよ納品締め切りを迎え、表沙汰三昧の一週間。
「をぐら離」では、析匠、小倉加奈子の日常を通した離の姿をお届けしていきます。門外不出の文巻テキストをもとに進められていく離の稽古の様子を少しでも想像いただければと思います。
2月14日(日)
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アフォーダンス理論が、いずれ言葉や行動をふくむ「意味」や「文脈」の問題に食い入っていくことはそんなに遠くないだろう。認知言語学にとって、アフォーダンスは相性がいいはずだ。
また、デザイン理論というものはこの二十年にわたってろくな成果をもてなかったのであるが、それが「アフォーダンスのデザイン」として新たなセオリー・ビルディングに向かうことも予想される。すでにドナルド・ノーマンが『誰のためのデザイン?』(新曜社)で、デザインが①制約、②アフォーダンス、③マッピング、④フィードバックで成立することを提示した。
──千夜千冊1079夜『アフォーダンス』
深夜に穂積くんがMedit Labのワークブックを届けてくれた。チョコレートを差し入れしたいくらい。「予め区切られた真っ白なスペースに書かされる」感じがしてワークブックは使う気にならないと言っていた穂積くんは、自分自身をワークブック好きにさせるためのデザインに向かってくれた。どのページも受け手に様々なアフォーダンスを促すデザイン。既存の教材の枠組みを越えたワンダーランドブックを完成した穂積くんのこれからの「アフォーダンスのデザイン」に期待!いよいよMedit Lab開発のラストスパートへ。
2月15日(月)
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生命が「非自己」を活用しつつ自己組織化をとげながら、それでもシステムとしての「自己」を環境の内外で保持しているのはなぜか。そこには「自己を再生産するための自己準拠」や「自己による自己再帰」のしくみがあるのではないか。生命は自分自身についての「自己言及」をしながらもそこに生じる自己矛盾(コンフリクト)をたくみに超越するしくみをもっているのではないか。それはオートポイエーシスとでもいいうるものではないか。マトゥラナとヴァレラはそういう仮説をたてた。
──千夜千冊1348夜『リスク論のルーマン』
今日は、小森さんが一日スタジオに籠って最終の音仕上げへ。私はなるべくルーチンの診断業務を前倒しにして、今週後半に向けて時間編集を企てる。離学衆の交わし合いを見守りながら、「ヤバイ社会」についても考える。以前、参加させてもらったHCUの「codeとmodeのAIDA」の講義ノートも振り返る。「今の時代、分節化ができなくなっている」と赤字で書かれていた。ジグムント・バウマンの液状化社会は、個人にも及んで、液状化自己という現象を起こしている気がする。自己と非自己の境界があいまいになり流れていく自己。非自己との接触によって成長していく「免疫的自己」の危機。
たくさんの免疫的自己たち
2月16日(火)
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もうひとつ、忘れてはいけない大事なリプレゼンテーションがあります。それは「見本」「標本」「模型」としてのリプレゼンテーションです。これは広くとれた「型」に当たります。ただし、テンプレートや鋳型としての堅い型ではなく、その型がいろいろなもののリプレゼントを生んでいくという、そういうリバーシブルな”柔らかい型”です。この”柔らかい型”からたくさんの「見立て」も生まれます。
――松岡正剛『連塾 方法日本Ⅲ フラジャイルな闘い』p.244
病理診断の合間に、表象について考える。日本の表象は「シロ」にある。形代、依代、苗代。Medit Labを教える側と教わる側の明確な差のない双方向の学びが多層に重なる学びの苗代としたい。その構築に向かう「型」を共有できていることがMEdit Labチームの何よりの強みだと思う。
夜、小森さんから完成した映像が続々と届く。上杉さんが作曲してくださったマーキング読書用の曲を初めて聴く。上杉さんの優しさとこだわりがつまった曲もMedit Labのシロのひとつとなる。
2月17日(水)
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モドキには先行する類型や原型がある。先行しているのは何かの「もと」である。何かの「おおもと」だ。それがなければモドキは生まれない。モドキは何かの「もと」や「おおもと」を必ず随伴させる。
──松岡正剛『擬 MODOKI 「世」あるいは別様の可能性』
今日は、朝から診断の合間に映像レクチャーを確認していく。完成映像ひとつひとつに、小森さん、穂積くん、上杉さん、金くん、吉村さん、衣笠さん、そしてたくさんのスタッフの方々の編集魂と愛情と体温を感じて胸が熱くなる。そしてなんといっても、Medit Labは[離]をモドいたのだ。MEdit Labのおおもとは[離]なのだ。胸を張りたい。
2月18日(木)
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ヒトを本性の深いところから衝き動かしている特徴は、役にたちたいという衝動であり、たぶんこれは私たちのあらゆる生物学的な必然性のうちで最も根本にあるものだろう。
私たちはこの衝動の使いかたを間違え、意味をとりちがえ、これを自己愛と混同し、さらにこれを欺こうとさえする。しかしこれは私たちの遺伝子のなかにあるのだ。
──千夜千冊326夜『人間というこわれやすい種』
お誕生日。Happy birthday to me~♪とつい歌っていて、めでたいね、と家族に笑われる。Medit Lab仲間にお祝いの言葉をもらいながら納品に向けてラストスパート。表沙汰準備もいよいよ大詰めで、いろんなプロジェクトが同時進行。来週から始まる大改訂の第9週に向けての準備も着々。
2月19日(金)
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ぼくには、こういうこともあろうかと、実はずっと前からいささか憧憬をもって付きあってきたコンティンジェント・モデルがありました。古代の老人です。仏門の野人です。
というわけで、今夜の大晦日をちょっとした区切りのセレンディピティにして、ぼくのとっておきのモデルの話をしたいと思います。それは維摩居士(ゆいまこじ)の話です。
──千夜千冊夜1530夜『維摩経』
祝!Medit Lab納品。早朝から職場へ。人事関連の朗報も飛び込む。なんだかお祝い事いっぱいで怖いのと、事件てんこもりの数日間にさすがに疲れを感じる。夜、表沙汰リハーサルへ。初のオンライン開催。リアルと異なる別様の可能性を探る。火元組が目指すべきモデルはひょっとして維摩居士?
2月20日(土)
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以上であらかたの準備をおえたシャンクは、「理解が進むための話」とは、結局は次の三つの進行によって表示されているのではないかと考える。
①インデックスを照合して話を検索している
②古い話の空隙の箇所に新たな話の要素をあてはめている
③あいまいな理解を深めるために裏付けを求めている
ここでは「理解」の本質を「理解しようとしている局面をより持続的な記憶に統合すること」とみなしていることがよくわかる。
──千夜千冊535夜『人はなぜ話すのか』
表沙汰。連携が素晴らしいテクニカルチームのバックアップの中、初のオンライン開催。両院に分かれての交し合い。離学衆の表情が少しずつ明るくなっていく。田母神方師は壮大なスケールの「おおもと学」、わたしは「表象」そして「擬」についての小さなレクチャーをした。校長の講義は、ワイスの『危険を冒して書く』の千夜からはじまり、上記千夜の引用で終わったが、アイダに尾崎翠や森茉莉の見立て力をお手本にしつつ、読むこと、書くこと、そして理解することの離的な解釈が展開された。校長はこのところ、離学衆に自分の方法を表沙汰しっぱなしである。
離学衆諸君、校長に肖り、校長を擬き、表象に向かいましょう。
【をぐら離】
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。
「御意写さん」。松岡校長からいただい書だ。仕事部屋に飾っている。病理診断の本質が凝縮されたような書で、診断に悩み、ふと顕微鏡から目を離した私に「おいしゃさん、細胞の形の意味をもっと問いなさい」と語りかけてくれている。 […]
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