イシスは竜宮城だ。編集学校の半年は、社会生活の3年分に相当しよう。ここへ通う者の成熟スピードは並外れている。
7月初頭、浦島太郎が姿を見せた。現役大学生で師範代の中村慧太だ。1999年1月22日生まれ、近畿大学経済学部4回生。47[守]どんでんコマンド教室を受けもちながら、近大×イシス生を多く輩出している「0-10 Studio(通称ゼロテン)」なる団体でエディターとして活動。仲間に「近大通りで一番ウマいメシを作れる!」と慕われている。(得意料理は、出汁巻き、煮物、餃子、麻婆豆腐)
近大生学衆は、42[守]から数えて140名以上にのぼる。なかでも中村は、初めて師範代へと名乗りをあげたパイオニア。教室名はもちろん、松岡正剛監修の近大図書館アカデミックシアターの「DONDEN」に由来する。
中村は、Zoomで開催された47[守]近大学衆交流会に登場。大学の先輩、そしてイシスの先達として、編集稽古の体験談やアドバイスを惜しげもなく明かした。
中村は、イシスに入ってから「学生っぽく見られなくなった」と語る。「話す内容のイメージがつきやすいと言われます。おそらくその理由は、型を使って相手が聞きたいことを想像しながら話しているからだと思います。《地と図》とか《BPT》とかが役に立ちますね」
含蓄のある話しっぷりに、川野貴志(近大番)はため息をついた。
「これは、五年、十年働いてようやく辿りつく境地じゃないか」
しかし、中村は学衆時代から優等生だったわけではない。[守]時代は、全38番のお題の半分ほどを溜め込んだ。あるとき「1日3題」を自身に課し、勢いで卒門。この追い上げは、中村が「先達」と仰ぐ橋本英人(参丞)の「ボルトが来た」に通じるものがある。
転機となったのは、教室仲間と初めて顔を合わせる汁講だった。社会人としてバリバリ働く兄貴的学衆が話しかけてきた。
「中村くんの回答、面白いよね」
中村は驚いた。自分の回答は、人生の先輩にも読まれているらしい。しかも影響を与えているようだ。忙しい大人たちが他人からも学んでいるというのに、学生の自分が稽古しないのは面目ないではないか。そこから奮起し、巻き返しを図ったのだ。
「共読」によって、稽古の意味を見つけた中村。師範代として学衆の回答を読むいま、他者を知る方法としての共読にのめりこむ。受けもつ教室には、自分の親ほど年の離れた学衆もいる。22歳の彼が、その学衆たちも「愛おしい」と慈しむのだ。
編集稽古に年齢は関係ない。それどころか若ければ若いほど、その効果は劇的だ。20代なら実年齢に+5歳。イシスの稽古は、松岡正剛という乙姫がこしらえた現代の玉手箱である。
▲交流会終了後、中村師範代(左上)をかこむ近大番の面々。反時計周りに、衣笠純子(学林局)、川野貴志、景山和浩、梅澤奈央(それぞれ47[守]近大番)。
■現役近大生 中村慧太師範代への一問一答
聞き手の衣笠純子(学林局)の問いかけには、よどみなくキビキビと。後輩からの質問には「そうやなあ」とひと呼吸おいてから、親身に答えていった。
Q:オンライン授業などで課題も多い学生生活。どうやって学業と稽古を両立した?
A:お題をこなすだけではなくて、「師範代を驚かせる」とか「1日3題」とか自分でゲームを作るように稽古すると楽しめました。
Q:[守]を終えて感じた変化は?
A:なにより達成感を得られ、自信がつきました。周りからは「話し方が変わった」と言われましたね。雑談のオチを《BPT》で考えたり、就活の面談でも自分の強みと欲しい人材を《ベース》と《ターゲット》において対策をしたりしました。
Q:なぜ[破]に進んだ?
A:「師範代になって学びが一周する」と聞いたから。それにお世話になった牛山惠子師範代(43[守]サザン流クロス教室)に熱烈に勧められたからです。なぜそこまで本気ですすめるのか、その熱量が気になりました。
Q:そのあと花伝所に進んだのはなぜ?
A:エールと好奇心です。1つめの理由は「向いてる」と言われたから。2つめの理由は、「ここまで来たんだから、もっと行こう」という気持ちです。師範代や師範が口をそろえて「(花伝所を)やれ」と言うのには、なにか秘密があるのだろうと思いました。
Q:師範代をやってみて、はじめて見えたことは?
A:学衆さんの回答を読むと、どんどんイメージが湧いてきます。住んでいるところも仕事も年齢も違う人でも「根っこはこれが同じじゃない?」など深い読み解きができるようになりました。
Q:編集稽古で、「自信がついた」「会話が変わった」「就活で役立った」以外の変化を挙げるなら?
A:本の読み方が変わりました。「この本のこことここが似ているんじゃないか」と発見的に、関係づけながら読書ができるようになりました。
Q:イシスで「知」の見え方が変わった?
A:高校生のときまで科学は赤点ばっかり。でも、編集を通すと「科学ってこういうことかな」と大づかみできるようになりました。編集稽古で、知識を獲得する力が増したように感じますね。
また、近大にはアカデミックシアターという、未知の知に触れやすい環境があるのもありがたい。知的好奇心が揺さぶられています。
Q:回答が遅れると、気まずくて教室に出づらいんですが……(「象」徴ドミトリー教室学衆Iより)
A:たしかに気まずいよな。編集学校は遅れても怒られないけれど、それじゃあ受講させてもらっている身としてはあかん。師範代は回答が送られてくると喜ぶから安心して送ってほしい。謝りたい気持ちもわかるけれど、謝らなくて大丈夫。謝るなら「早く送っちゃってごめんなさい」と別パターンをぜひ!
Q:就活面接で、編集稽古について話しましたか?(ジャイキリ魔球教室・学衆Hより)
A:しました。「君そんなことしてたん?!」と面接官の食いつきがよかったです。
Q:教室での「共読」をしたいけれど、本を読むのも苦手。どこから読んだらいいんでしょうか?(グッチ金輪際教室・学衆Hより)
A:まずは共読のための時間を5分と決める。そのなかで、自分が回答しようとするお題について、他の人の回答・振り返りを読む。振り返りを読むのがポイント。その人が考えた筋道を知ることで、自分の発想にも役立てられるはず。
Q:編集稽古、楽しいからやってます。楽しいだけじゃダメですか?(グッチ金輪際教室・学衆Hより)
A:楽しいのが一番。さらにいえば、「なんで楽しいのか」考えてみるといいかもしれない。回答するのが楽しい? 指南が返ってくるのが楽しい? 深堀りすると、さらに自分の身になる稽古ができそう。
>>>近大×イシスをもっと知るために
■ゼロテンとは?
・近畿大学 ACT project “0-10 studio” https://zeroten-edit.studio.site/we
■Edistが見た!近大×イシス生の勇姿
・ぶっちゃけ、やる気ないときどうしてる?編集稽古を続けるコツ、近大生20人に聞きました【47[守]】
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・近大生のクリスマス〜欲しいのは、単位と貯金と編集スキル〜
川添陸(43[破]合氣プロセス教室学衆、0-10 Studio 2020年代表)が先達として交流会に参加。稽古のススメは「仲間を作ること」。
・20周年感門之盟 100shot #近大編 本楼を沸かせた大阪フルキャスト
川添陸と、樋口晃大(43[破]比叡おろし教室、45[破]播州ざこば教室学衆、0-10 Studio 2020年副代表)が近大DONDEN内から中継。テレビカメラの前に立つ。
・【感門DUST】「爆破」には労働を 未突破学衆に課せられたお題とは
突破ならぬ爆破という不穏なワードで20周年感門を沸かせた樋口。二度目の45[破]もお約束のように爆破。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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