摩耗する世界へ知の一燈を【十五季[離]開院】

2022/06/11(土)15:46
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「VUCA」という言葉がうまれて久しい。Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、世界や社会の将来が予測できなくなっている状態を指す。

 

この用語がビジネスや一般に浸透しはじめてから十年ほど経つ。もしかしたらバズワードとして消費された過去の言葉になりつつあるかもしれない。

 

しかし、実際の社会はますます「VUCA」の様相を呈している。いまだに収束しない新型コロナパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、消費者物価のインフレの世界的な加速が押し寄せ、社会はますます掴みにくくなり、世界モデルは摩耗するばかりである。

 

◆◇◆

 

二〇二二年六月一一日、午後〇時〇〇分。

松岡正剛火元校長によって一灯の火が燈された。一年半に一度の[離]の開院である。

事前課題を経て、十五季[離]の入院を許可されたのはわずか二八名。

 

イシスの[離]は、その始まりの時から、過剰なカリキュラムのもと莫大な量のお題を学衆に課してきた。学衆は、古今東西の多様な“知”のモデルと方法が凝縮された「文巻」を通じて、より自由で冒険的な「世界」の読解へ挑む。八月下旬には、火元校長直伝の講義と指導陣とのディスカッションで学びを深めるリアルセミナー「表沙汰」も組まれている。

 

世界の知へ真正面から向き合うゆえに、入院中は創や火傷は必須。体当たりの学衆の稽古を「火元組」と呼ばれる指導陣が過酷・過密・過激かつ高速に焚き付けていく。こうした[離]のルル三条にも、劣化する世界観の再編集にはそれだけの速度・密度が必要だという、火元校長の意図が投影されている。

 

残念ながら、いま、世界は摩耗しつつあります。それなのに世界観が劣化したままなのですね。だからせめて諸君は、編集的世界観の可能性を確信してほしい。

ー松岡正剛火元校長

 

「文巻」の最初の配信から一時間あまり。渾在院の学衆二名から最初の回答が届く(と書いているあいだに、別当師範代からの指南ともう一名の回答が続く)。

ますます混迷するVUCAな世界の中、松岡火元校長の燈した火の継承はすでにはじまっている。

 

【世界読書奥義伝 第十五季 [離] 指導陣】

 ◆火元校長 : 松岡正剛
 ◆総  匠 : 太田香保

 

 ◇律相院(りっそういん)

 ◆別当師範代: 寺田充宏
 ◆別  番 : 大久保佳代
 ◆右  筆 : 梅澤光由

 

 ◇渾在院(こんざいいん)

 ◆別当師範代: 小西明子
 ◆別  番 : 桂 大介
 ◆右  筆 : 小川玲子

 

 ◆析  匠 : 小倉加奈子
 ◆方  師 : 田母神顯二郎・小坂真菜美

 

二〇二二年五月七日の別当会議。松岡火元校長は、[離]のために自ら書き下ろした「文巻」の編集的世界観を、指導陣「火元組」へ直伝した。

  • 上杉公志

    編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025