37[花]M5錬成2 指南でかわる師範代はわかる

2022/06/25(土)10:30
img

書くは永く、放つは刹那に。

 

師範代未満の入伝生は書き手であるが故に、しばし読み手を忘れて前のめり独りよがりな指南に陥る。回答に潜む可能性を欲するがため、想いが強く表出してしまうのだ。

 

どんなインパクトがあったのですか。

観客・師範代からどう見えたのかがよくわかりません。

(岡本悟師範)

 

想い込め放たれた指南に、情けも、容赦もなくバッサリと切る指導陣。回答に書かれている情報だけを読むのではなく、学衆が悩み考え抜き、どのような気持ちをのせて回答に至ったか、目に見えない情報も読み取る力も求められる。指南への指導は、方法の取り出しだけではない。

 

ちょっと大袈裟ですが「命がけ」で創文してください。

今回もまだ、詰めが甘い。

(牛山惠子師範)

 

師範代としてカマエはできていたのかと、心身ともに深く指導の言葉が突き刺さる。

 

「指南─指導─振り返り─再指南」を繰り返すことで、己の不足を避けず真っ向から勝負と言わんばかりに向き合い、磨き、方法に抱かれ、道場で身につけた花伝式目を遺憾なく発揮すべく錬成場で鍛錬が続く。そう、何かが熟するにはつねに「時熱」というものが必要である。

 

古池や 蛙飛ンだる 水の音

 

芭蕉が詠んだ句であるが、似ているけれど何かが違う。実は、「古池や蛙飛こむ水の音」という一句ができる前に、最初はできの悪い句から始まっていたことはご存じだろうか。芭蕉は、弟子たちに上五を考えさせると宝井其角は「山吹や」を提案。

 

「古池や」とするか迷いを芭蕉は隠さない。方角は、「西東」がいいか、「東にし」がいいか、いろいろ置き換えてみる。

 

(初)古池や 蛙飛ンだる 水の音
(後)山吹や 蛙飛込む 水の音
(成)古池や蛙飛こむ水のおと

0991夜『おくのほそ道』松尾芭蕉

 

世に放たれた句の形に成るまでに、情報を何度も「乗りかえ」「持ちかえ」「着がえ」と推敲を重ねる。師範代が書く指南も同じく、一時で仕上がるものではない。編集の技を駆使して鍛錬していくには、時間と熱意が不可欠である。今も錬成場ではカンカンと回答の鋼を叩き、切れ味に凄みと遊びも潜ませて指南の宝刀を磨くべく火花をまき散らしている。

 

書き重ねて変わりゆく指南は永遠ともいえるほど時間が過ぎ去っていく。

指南を待つ学衆のため、放つときは一瞬でしかない。

 

文 堀田幸義(錬成師範)

アイキャッチデザイン 阿久津健(錬成師範)

 

【第37期[ISIS花伝所]関連記事】

37[花] M5錬成1 擬き肖り、虚に入り

37[花] マネージメントを述語する M4演習(営・掛)

37[花] 調子はどうだい? 花伝式目演習第三週:メトリック(程)

37[花] 花林頭・阿久津がゆく、アートとデザインのAIDA

37[花]M1演習 私の前に投げ出された世界を捉える

37[花]乱世に道場開幕!
37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を
37[花]ガイダンス 却来のループで師範代に「成っていく」
37[花]プレワーク  編集棟梁は 千夜を多読し ノミを振る[10の千夜]
37[花]プレワーク記憶の森の散歩スタート

  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

  • 42[花] 問答条々 動き続ける花伝所の3つの「要」

    2024年10月19日(土)朝。 松岡校長不在で行われる初めての入伝式を、本棚劇場のステージの上から校長のディレクターチェアが見守っている。   「問答条々」は、花伝式目の「要」となる3つの型「エディティング・ […]

  • 41[花]過去のことばを食べたい 『ことば漬』要約図解お題

    飴はアメちゃん、茄子はなすび、お味噌汁はおつい。おさない頃はそんなふうに言っていた。方言の音色に出会うとドロップのように口にして、舌でころがしたくなる。とくに、秋田民話をもとにした松谷みよ子さんの『茂吉のねこ』は、どの […]

  • 41[花]花伝的レミニッセンス(2)

    学び(マテーシス)は想起(アムネーシス)だと喝破したのは哲人ソクラテス。花伝所の式目演習にも、想起をうながす突起や鍵穴が、多数埋め込まれている。M5と呼ばれるメソッド最後のマネジメント演習には幾度かの更新を経て、丸二日間 […]

  • 41[花]花伝式目のシルエット 〜立体裁断にみる受容のメトリック

    自分に不足を感じても、もうダメかもしれないと思っても、足掻き藻掻きながら編集をつづける41[花]錬成師範、長島順子。両脇に幼子を抱えながら[離]後にパタンナーを志し、一途で多様に編集稽古をかさねる。服で世界を捉え直して […]

  • 41[花]花伝的レミニッセンス(1)

    今期も苛烈な8週間が過ぎ去った。8週間という期間はヒトの細胞分裂ならば胎芽が胎生へ変化し、胎動が始まる質的変容へとさしかかるタイミングにも重なる。時間の概念は言語によってその抽象度の測り方が違うというが、日本語は空間的な […]