発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

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―――毎日新聞に連載コラム「田中優子の江戸から見ると」がありますが、イシス編集学校や松岡校長を江戸から見るといかがでしょう。江戸から見たら、どんなふうに言い換えることができますか。
一つだけ選ぶことはできないけれど、たとえば私塾、版元、茶屋を掛け合わせたようなもの(笑)。茶屋というのは、プロデューサーです。吉原の茶屋、芝居茶屋は、色んな人を誘って、見にきてくれた人たちのために様々な催し物や年中行事をつくって、みんなで楽しむ。編集学校みたいでしょう。
―――平賀源内が話題にあがりましたが、江戸時代に松岡正剛っぽい人はこの人、みたいな人はいますか。
江戸時代には多いと思いますよ(笑)。近代になると、作家や画家、要するに作者に脚光があたるようになりましたが、江戸時代にはむしろ松岡さんのようなコーディネーターに対してみんなが尊敬する気持ちがありました。平賀源内もそう、太田南畝(おおたなんぽ)や蔦屋重三郎もそうですね。人を見出す力がある。
―――近代になってから欧米流の著作者、つまりオーサー[author]に光があたるようになったんですね。話は変わりますが、優子先生の好奇心を広げていく傾向は幼い頃からですか。
うーん、そう言われてみれば、考えたことなかったです(笑)。本を読むということは、毎日やっていました。本を読んでいると、その本の中から別の新しい興味が湧いてきて、次の本を読む。それから兄の本棚を読むうちに新しい興味が湧いていくということもありましたね。
―――少女時代から読書好きだったんですね。
そうですね。そのせいか、他のこと、たとえばスポーツに興味を持つとか、そういうことは起こらなかった。やっぱり本棚を見ているとか、本の中の行間とか、そういうところから好奇心が広がっていく。そういうことが多かったですね。
―――好奇心を持つことが学びの根本だと思うんです。優子先生の場合、その秘密は読書だったということですね。
そうですね。だけどね、江戸時代に来日した外国人の記録を読むと、日本人はものすごく好奇心が強いと書いています。それはね、幕末の日本人だけでなくて、ザビエルとか江戸時代以前に来たキリシタン系の人たちもそう書いている。日本人はものすごく好奇心があって、宇宙のことや「なぜ雨が降るのか」ということ、色んなことを聞きたがるから、日本には天文学や科学の質問に答えられる宣教師を送るべきだと言われていたようですね。
(2019年12月4日 本楼)
―――日本人は素質として好奇心が強いと。それは勇気をもらえますね。好奇心に加えて、先ほど「素材ってすごく重要」というお話があったじゃないですか。その素材選びは、編集工学的にもとても大事なプロセスで、これって学習できることだと思いますか。それとも素材の目利きはその人に備わったセンスみたいなものですか。
そこがね、問題だと思います。さっきの「底上げ型」か、「エリート型」かという話にもつながりますね。編集稽古で、どういう技法を使えばいいとか、自分がやっていることを自覚することはできる。けれども、たとえば先日の写真家・十文字美信さんと江戸絵画コレクターの加納節雄さんのアルス・コンビナトリアPROJECTがあったじゃないですか。その方法を言葉で表現することはできます。でも、何と何を組み合わせたらすごいことが起こるというのは、方法の言葉だけでは説明できていない。
加納さんは、「ギリギリまでやって最後は直観だ」ということを言っているわけですよ。あるいは「最初に直観があって、それをギリギリまで詰める」。それがダメだったら次々に変えていく。つまり、最後は決断する。これとこれの組み合わせならいいと決断を下す。じゃあ、その決断をする時の能力ってどこからでてくるのか。鍛えられるのか。人から教えてもらえるのか。教えるようなものじゃないのか。これは大問題だと思います。一言でいえば、「鋭い感性力ですね」ということで済みますけど(笑)。
―――そうですよね、編集学校としても大問題です。
鋭い感性って、どうすれば磨けるのか。つまり、すごいアーティストになるためには何を勉強すればいいのか。そう簡単に答えは出ません。
13[離]退院式で小倉加奈子右筆と対談。
―――たしか[離]の退院式で、情報は外だけではなくて、自分の中にもたくさんあることを知ったとおっしゃっていました。[離]では幼なごころを持ち出すお題がいくつかありますね。ここに先ほどの大問題のヒントがあるんじゃないかなと思うのですが、いかがでしょう。
そうですね。私がさっき言った感性の起源や源泉みたいなものがあるとしたら、「幼いときに思った何か」にあるかと思います。それは人によってそれぞれ別々だから、一挙に同じことを教えるわけにはいかないのは当然ですね。
幼なごころを取り出して磨きをかけることはできるかもしれない。もちろん磨きをかけるときは、人に磨いてもらうのではなく、努力をしなければならない。そのとき、正しく努力をする方法があるんじゃないかと思うんです。
その人の元になるもの、それを私たちは先天的な才能と言ったりしますが、傾向としてDNAレベルでそれぞれ持っている得意分野があるのは確かなんだろうと思います。でも、それとは別に感性に磨きをかける方法というのがあって、それが今までの学校教育ではなかなかできない。一方、江戸時代の芸事の稽古や、私塾の学びではそこそこやれていた。そう考えると、もしかしたら、師から弟子に、人間存在全体から発するものが伝えられていくプロセスの中で起こるのではないかなというふうにも思えるんです。
そういう全身を通した学びは、今でも落語家や芸能、芸術の世界では残っていますよね。言葉の分野でそういうことはできるのか、非常に興味深いです。
つづく
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金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。