【錬成】
ねりきたえて立派にすること。心身を訓練すること。
日本国語大辞典
38[花]は、11月25日(金)とうとう錬成演習に突入した。
ISIS花伝所の開講期間はたった7週間である。編集コーチになるための秘密は花伝式目(5M)に詰まっているが、そのなかでもこれから約2週間続く【M5 Making】で、入伝生たちはそれぞれの道場から錬成場へと飛び出し、最も劇的な変化を遂げていく。
本番さながらの演習中、入伝生は各々、仮の教室名を決め、 “師範代” となり出題と指南を行う。師範はたくさんの “学衆” として回答し、受け取った指南に対する指導をつける。それだけではなく入伝生は指導を受けたら、すぐにフィードバックと再指南を書いて、何度でも修正、更新をかけていくのだ。これまでの4週間の濃密な型の学びと真似びのなかで得たものを実践し、「他者のまなざしを、わがものとする」【離見の見】を体験しながら、入伝生は師範代へと相転移をはかっていく。
2週間の錬成の入伝生の変化は、まるでさなぎが成虫へと羽化していくときのようである。全身全霊で書いた指南に対しても容赦なく飛んでくる指導を受けとめ、師範の目を借りながら、「エディティング・モデルの交換」を身体化していく姿はいつもひたむきで美しい。[花]だけでなく、[守]・[破]・[離]での学び、これまでの人生で使ってきたすべての方法を組み合わせて挑む錬成演習では、全員が傷だらけになるだろう。これからの編集人生でずっと思い出し続ける、香ばしい創がつくられる時間である。
これまでの演習を通して、たびたび出身教室での稽古を振り返ってきた入伝生たちには、そこにあった師範代というモデルがようやく見え始めている。それぞれの教室の工夫や方法に気付き、師範代からの指南の意味をやっと理解した入伝生たちの言葉には、感謝や残念や郷愁が溢れ出る。「編集」とは何なのかわからないまま、コップの使い道を考えたあの日から、とうとうここまでやってきたのだ、という誇らしさも感じられる。
だが錬成は、文字通り、ねりあげる、きたえあげる、しあげるトレーニング。物語の「彼方での闘争」にあたる。道中は、「たのくるしい」を超え、途方に暮れたり、不足を嘆きたくなることもあるだろう。なぜ自分がここにいるのかさえ、わからなくなるかもしれない。それでも38[花]の入伝生たちは逃げださずに、回答と指南、そして言葉に向きあい続けてくれると、指導陣はみな信じている。なぜなら、どれだけ弱音がこぼれることがあっても、入伝生には既に知への礼節が備わっているからだ。
M1~4まで駆け抜け、わかることが増えた分、わからないことも増えてきている入伝生たちは、急激にやってきた理解に戸惑っているようにも見える。でも心配はいらない。そんなキワキワ、ギリギリの状態に在るときほど、師範代という生き物はキラキラと輝くのだから。
わかくさ道場のIはこう綴った。
こんな私を<受容>してくれた師範や師範代がいたから、今の私があると感じました。じゃあ次は自分がこのこころを持って学衆さんと接しなければ、恩返しは出来ないと感じています。
イシス・ミームの継承に向かう錬成が始まる。
文 嶋本昌子
アイキャッチ 阿久津健
【第38期[ISIS花伝所]関連記事】
38[花]膜が開く。四色の道場
松岡校長メッセージ「イシスが『稽古』である理由」【38[花]入伝式】
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
2024年10月19日(土)朝。 松岡校長不在で行われる初めての入伝式を、本棚劇場のステージの上から校長のディレクターチェアが見守っている。 「問答条々」は、花伝式目の「要」となる3つの型「エディティング・ […]
飴はアメちゃん、茄子はなすび、お味噌汁はおつい。おさない頃はそんなふうに言っていた。方言の音色に出会うとドロップのように口にして、舌でころがしたくなる。とくに、秋田民話をもとにした松谷みよ子さんの『茂吉のねこ』は、どの […]
学び(マテーシス)は想起(アムネーシス)だと喝破したのは哲人ソクラテス。花伝所の式目演習にも、想起をうながす突起や鍵穴が、多数埋め込まれている。M5と呼ばれるメソッド最後のマネジメント演習には幾度かの更新を経て、丸二日間 […]
41[花]花伝式目のシルエット 〜立体裁断にみる受容のメトリック
自分に不足を感じても、もうダメかもしれないと思っても、足掻き藻掻きながら編集をつづける41[花]錬成師範、長島順子。両脇に幼子を抱えながら[離]後にパタンナーを志し、一途で多様に編集稽古をかさねる。服で世界を捉え直して […]
今期も苛烈な8週間が過ぎ去った。8週間という期間はヒトの細胞分裂ならば胎芽が胎生へ変化し、胎動が始まる質的変容へとさしかかるタイミングにも重なる。時間の概念は言語によってその抽象度の測り方が違うというが、日本語は空間的な […]