前説editで恋走、交わしあって笑走【81感門】

2023/03/23(木)13:23
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 第81回感門之盟に「前説edit」なるコーナーが出現した。「感門に前説!?」と訝る方も多いだろうが、前説は角山の悲願だった。
 今回の感門では2年振りに本楼に学衆が集ったが、人数は限定され、オンライン参加者のほうが多い。今では当たり前になった、リアルとオンラインのハイブリッド開催だ。
 だがリアルとオンラインのあいだには、深い溝がある。リアル参加者と異なり、オンライン参加者は「自分ごと」として会を捉えにくい。画面を覗いている空間と、本楼の空間とがうまく混ざらないのだ。


 はたしてそうだろうか?
 リアルとオンラインは混ざらない、と勝手に既成事実化し、編集することを怠っていたのではないか? 「エディトリアリティ」は、私たちは編集可能な世界にいる、ということだ。だったら、自分たちで感門之盟を編集すればいい。
 感門之盟を編集するのは、司会でもプロデューサーでもない。「参加者すべて」だ。ではどうやって? 例えば、ZOOMに映る部屋そのものを着替えてみる。チャットに声を書き込んでみる。こうした編集的行為が、感門之盟を特別なモノに編集する。

 

 今だから明かすが、「前説edit」は、「参加者同士で遊ぼうよ!」という密かな編集宣言でもあったのだ。


 「前説edit」の初日は「初参加の声出し」を中心に、2日目は「チャット稽古」を持ち込んだ。
 2日目のお題は、テーマの「律走エディトリアリティ」にならっての一種合成だ。

【チャットお題】
あなたの稽古模様を [「  」+走] の一種合成で表現してください。

 

 感門開始30分前の号砲に、オンライン参加者が動く。初回答は出題のわずか1分後。50[守]厳選タングル学衆の<集時走>だった。すかさず角山が画面越しに呼びかけると、一気にチャットが熱を帯び始めた。
 闘走、闇走、遊走、渦走、隙走、豪走、謝走、妄走、灼走、念走、読走、恋走、啼走、想走、笑走、燃走、射走、焦走、尽走、卵走、多走、窓走、冊走、撮走、弾走、終走、還走、沈走、P走、有走、締走……。
 30を超える回答が次々と寄せられたのだが、参加者はそれにとどまらない。
 49[破]唐傘ダムダム学衆の<遊走>には感嘆の声がチャットに溢れ、50[守]厳選タングルの川村眞由美師範代の<灼走>には「師範代は学衆を燃やす!」との合いの手が飛んだ。
 同音異義語の多い漢字は、音の響きが他の意味を引き連れてくる。
 49[守]で師範代を務めた寺田悠人の「恋走」は、編集への恋心だけでなく「連想」と重なった。50[守]代々ビオトープ学衆の<笑走>は、稽古の楽しさだけでなく、音が「焦燥」も想起させ、それが他の回答<焦走>を引き寄せた。ショウソウは「傷創」とも書く。笑走&焦走で創(キズ)をつけるとは、まさに編集稽古ではないか。
 間違いない。
 チャット稽古を通じて、ZOOM参加者たちは「感門編集」を敢行していたのだ。一方的なインストラクションは編集ではない。双方向に、かつ参加者自らが場を動かすことが編集だ。「前説edit」で相互に声を発したことで、会は編集され、「自分ごと」となった。

▲本楼の片隅で「前説edit」に挑む角山。ZOOMの声が、前説をさらに勢いづけた(画像提供/松井路代)

 

 松岡校長は、読書には「読前」「読中」「読後」があるという(『多読術』)。読んでいる最中(読中)だけが読書ではない、ということだ。この「前・中・後」は、イベントも同様だ。最中だけでなく、「前の編集」という編集余地がある。「前説edit」はその試みのひとつだった。
 では「後の編集」は?
 そう、これはあなたに委ねられている。「前説edit」があるならば、「後説edit」があってもいいのだ。例えば勧学会で感門のキーワードを書き出してみる。 [「  」+走] を学衆同士でやりあってみる。参加できなかった学衆が、参加者をインタビューしてみても面白い。
 会が終わったあとでさえ、「編集」は可能なのだ。エディトリアリティ=編集的現実は、あなたに編集されることを待っている。

  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中。https://qe.isis.ne.jp/index/kakuyama

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。