外科医なら、もっと美しくて安全な手術がしたい。料理人なら、さらに別様の味を追求したい。そして、書き手なら、もっと自在に言葉をつなげたい。
書き手にとって、遊刊エディストは恰好の文章鍛錬の場である。プロもアマも混じり合い、専門だって関係ない。編集稽古もマンガもラジオも映画もウイルスも全部つなげられる。
[破]の文体編集術では、文章構成の型をいくつか学ぶが、その中でも「いじりみよ」は、巷で知られる「起承転結」なんかよりもずっと、面白い文章を書ける型なのだ。「いじりみよ」こそが文章構成のデファクトスダンダードになるべきだと、声を大にして言いたいという太田香保さんのこちらのコラムから、「いじりみよ」の極意を「いじりみよ」的に繙いてみたい。
【Playlist】遊刊エディストで繙く「いじりみよ」◇析匠おぐら選
「い」…位置づけ
まずは、イシス編集学校[離]の太田香保総匠の連載、OTASISのごく初期のコラムで「いじりみよ」の型の“位置づけ”から確認しておこう。「いじりみよ」とはいったい何なのか。
「起承転結に絶句する OTASIS-2」2019/09/22(日)23:40
いずれにしても、松岡正剛のもとで、文章を書くことはひたすらイメージと言葉を「連結」していくことだと叩き込まれ、いまなお「連結」に四苦八苦している私には、「転結」に趣向を凝らすような余裕はまだ持てそうにない。それに、この文章連結力をモノにしていくためにも、まずマスターするべきは松岡正剛考案の「いじりみよ」なのである。
◆おぐらが選ぶ「OTASIS」3選◆
イシス館の太極拳稽古の実態とピアノと編集工学とトマス・クーンがつながる、いじりみよ手本。
離の原型となった編集稽古の思い出。離に興味があるひとは必読。
香保さんのピアノネタが好きな方にお勧めのコラム。
「じ」…状況づけ
続いて、「いじりみよ」の状況づけ。この型を含む[破]の文体編集術の来し方行く末を梅澤奈央さんの見事な実践レポートで観察してみたい。
「[守]の型はこう使え ようやくニューワード創文法【47[破]講義録】」2021/10/16(土)09:00
松岡校長は、校長校話で強調されました。「うんうん考えなくても、新しい言葉は出てくる」と。むしろ、「そのような新たな言葉が出てくる状態に、情報をもっていかねばならない」とおっしゃいます。
◆おぐらが選ぶ「うめこクロニクル」3選
・松岡校長が筆に託した願いとは 地域支所に書の授与【20周年感門】
・オシリを締めよ!責任とるべき結びの一文【エントリー率驚異の97% 46[破]知文AT閉幕】
ウメコの進化形をこれからも観察していこうっと!
「り」…理由づけ
伝えたいことが伝わるようにするための型である「いじりみよ」であるから、伝えたいという気持ちがなくちゃ始まらない。ジャイアン角山祥道さんの師範バカ的レポートが好例。
「P1グランプリ イルマニアのキセキ①【77感門】」2021/09/20(月)09:18
「突破デーから一夜明け、集中から解放されたでしょうか。さあ、ここからは遊び度高めに、かつ本気の編集です」
突破期限の8月8日から一夜明けたこの日、46[破]の別院には、原田学匠のファンファーレが鳴り響いた。P1グランプリ開催が高らかに宣言されたのである。
「編集に終わりはない」とはイシス頻出フレーズだが、それを地で行く展開だった。
◆おぐらが選ぶ「ジャイアン角山」3選◆
・エディスト虎の穴・ジャイアン人物伝 #003 小林幸子の「型を破って宙を舞う」
丸さんの控えめで優しいけれどスルドイツッコミ入りという貴重なコラムです。
ちょっとうるっとします。
アイキャッチも抜かりなく。メディエーションばっちり。いずれにしても角山さんの人物や場面への愛情がどの文章にも溢れているのが素敵。
「み」…見方づけ
型についての説明だって、「いじりみよ」という型があれば自在になる。編集学校ジャーゴンからの脱却のお手本、丸洋子さんのコラムがこちら。
「編集用語辞典 02 [同朋衆]」2020/06/25(木)10:11
6月。田んぼの水がてらてらと光る。棚田の一つひとつに映り込む月を表す「田毎の月」は、うつろいとおもかげを宿す言葉だ。松岡校長の近著『日本文化の核心』では、田の神と共にあった稲作のプロセスを巡る生活文化に、日本のおおもとを見出し、私たちの祖先の深い祈りが込められているコメ信仰の奥行と広がりを説く。
◆おぐらが選ぶ「丸さんの冒頭イチコロ」3選◆
「動機は婚活でもいいんですよ」
落ち葉に覆われた雑木林を抜けると、冬の青空の下に巨大な磐座と、躙り口のような小さなエントランスが見える。
太田香保総匠ほど黒の似合う人はいない。
「よ」…予測づけ
「いじりみよ」で文章構成を学んだ行き着く先は、やっぱり、読めばミヤコ、本ゴジラだろう。読んだら書いて書いたら読むの毎日多読(ジム)生活へ。
本に呑まれて珈琲を読む EDIT COFFEE-後編2021/10/02(土)18:00
コーヒーのお供に選んできた三冊セットは、女性作家2冊+本にちなむ本の組み合わせだ。
∽デイヴィッド・トリッグ『書物のある風景 美術で辿る本と人との物語』創元社
書物のある風景を描いた世界の名画をあつめた本。本の中の本ほどイマジネーションをくすぐるもの、他にありますか! って。
∽『精選女性随筆集 9 須賀敦子』文藝春秋渇いた心に潤いをくれる須賀さんのエッセイ(選者は川上弘美さん)は、迷ったり佇んだり、途方にくれることの大切さを思い出させてくれるんだなぁ、これが。
∽『精選女性随筆集 12 石井好子 沢村貞子』文藝春秋石井さんは日本シャンソン界の草分け。パリ仕込みのファッションもお料理も、くすんだ日常に華やぎをもたらしてくれる。左翼演劇運動に関わった過去を持つ沢村さんは、ドラマの味をピリッと決める、なくてはならない名脇役。どちらの面もマダムとコーヒーの共通点。
◆おぐら選ぶ「サッショーシリーズ」3選◆
・新連載【読めば、MIYAKO 001】『それってどうなの主義』斎藤美奈子 2021年5月17日
・千夜千冊エディションでお悩み解決!Q1. なかなか就活に乗り出せません(20代・男性・大学院生)
まるで四次元ポケットのように本がいくらでも出てくるサッショーコラム。多読ジムボードメンバーによる千夜千冊伴読リレーは、さらにボードメンバー座談会風に進化していきます。お楽しみに。
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。
■Z世代の習慣 『映画を早送りで観る人たち』は、かなり衝撃的な本だった。面朕された本の帯には「2023年の新書大賞の第2位」とあり、なんとなくタイトルも気になったので他の本と一緒に購入したのが数週間前。読 […]
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評者: 小倉加奈子 おしゃべり病理医、イシス編集学校 世界読書奥義伝[離] 析匠 ■「あなた」の視界 ──あなたは積まれた山の中から、片手に握っているものとちょうど同じようなのを探した。 & […]
老化で頭は良くなるか-老化がもたらす別様の可能性、忘却の分節化【おしゃべり病理医68】
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