6月下旬、ロシアにおける民間軍事会社の突然の反乱により世界情勢が緊迫化していた。有事のときこそ、編集力が必要だ。ほぼ同時期に51[守]近場のダイモーン教室でオンライン汁講が行われた。神と人の間を繋ぎ、何かの機会で隠れた力をあらわす精霊が教室名に含まれる。汁講では学衆5名と、師範代の畑本ヒロノブ、師範の相部礼子、番匠の渡辺恒久の合計8名で編集ゲームと歓談を行った。
チャット機能を使って、用法3の略図的原型の稽古から「社長はそもそも、会社の●●●です」がアップされる。文化や文脈の奥に秘められたアーキタイプ(原型)を辿るお題。学衆たちは稽古モードとなり、真剣な表情で回答を挙げる。
「ゴリラ」。突然の投稿によって、周りが思わず笑い崩れる。学衆Yからの回答だった。一般的な社長のスマート(理知的)なイメージとは対照的なワイルド(野生)感。意表を突くギャップが場の感情を揺らしたのだ。相部から「大地感があって良い」との評価が手渡された。学衆Hの「ドン」にも注意のカーソルが向く。畏敬の念を感じるワード。新田たつおのマンガ『静かなるドン』を連想する。学衆Yの「心臓」からは、会社の発展を願う熱いエネルギー源である社長の「らしさ」が伝わってくる。「鏡、旗振り役、はしら、地面、ライオン、足、錨」などの回答が続く。部屋の中にあるモノ、建物の地盤、動物、船の要素などのメタファーを使って、学衆たちは社長のアーキタイプに迫っていた。
次のお題「SNSはそもそも、●●●です」では、学衆Yの「ポケモンバトル、全方位射撃」に対して注意のカーソルが向いた。中学生のころに初代ポケモンを遊んだとき、ゲームボーイの通信ケーブルを使った友人や兄弟とのポケモン交換を思い出す。電子空間上の生物っぽいモノの交換はSNSの持つ機能へと継承されている。
渡辺が学衆Yに対して回答の理由を問う。特定の相手との論戦だけでなく、外野の人々へもコトバを放っている「らしさ」をYは捉えていた。渡辺は「アーキタイプのお題では元の元が何だったのかを探す」と前置きしつつ、「ポケモンバトルを選んだのはSNSと似ていることに気づきアップした」と、回答で使われた方法を明らかにした。さらに「洗い忘れた水槽、出会いの場、火花、スーパーボール、飲み会、田んぼの中の無数の微生物」もアップされた。SNSの「地」を見つめなおしたり、「らしさ」を捉えたりと、稽古で学んだ方法が生きているゲームになった。
歓談では学衆Fが「仲間の回答を見ると影響を受けてしまうので、提出前は見ないようにする」と話す。渡辺が稽古の心構えとして「ほかの仲間の回答を先に見て、方法の型を使って見つけたことを少し乗せるくらいでよい」と述べる。それに呼応して、学衆Hが過去に感銘を受けて印刷した千夜千冊1318夜『模倣の法則』を紹介した。この千夜の冒頭では「世の中で一番つまらない信仰はオリジナリティ信仰である」の一文がある。アーキタイプのお題を回答したアタマに対して渡辺のコトバ「学ぶことの語源が『真似ぶ』である」が響いた。
学衆Yの発言「コンビニに行く感覚で回答する」に対して、聞いた人がすぐにイメージを共有できる略図的原型の活用を渡辺は評価した。私たちダイモンズは教室名の「近場」に含まれるすぐ傍の感覚をEditCafeの教室に対して持ちつつ、これからの稽古を進んでゆけばよいのだ。
(文:畑本ヒロノブ)
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