安牌に向かうな!――53[守]合同汁講レポ

2024/09/11(水)11:53
img POSTedit

 麻雀の世界には「安牌を切る」という言葉がある。リスクを避ける立派な戦略のことだ。しかし、イシス編集学校では無難な安牌を選ぼうものなら、たちまち渦は大きく、私たちに襲いかかってくる。

 

 アガサ・クリンシティ教室(上原悦子師範代)、ナイーヴ朋楽教室(廣瀬幾世師範代)、ネクスト・キャンドル教室(土居哲郎師範代)、空耳ラブレター教室(山口奈那師範代)の4つの教室が7月13日のリアルとオンラインを繋ぐハイブリットの53[守]合同汁講にむけて、師範代はBPT、ルル三条、ダンドリ・ダントツの型を使い、フルスロットルで準備を進めてきた。

 静かな水面のように穏やかな前日の夜。代本板を学林局に借りるお願いを八田英子律師に入れた。代本板とは、学校の図書室などで本を抜いた後に入れ、返却場所の目印となる板状のもので、明日のワークで用いるのだ。

 これで今日のダンドリはおしまい。師範代の誰もがそう確信していた。八田律師のメッセージが届くまでは。「過去の師範代は『代本板』に代わるツールを手作りして汁講に持ってきてくれたこともありましたよ。手作りするもよし、学林局のものを使うのもよし、です」。

 イシスの女神からのお題に、頭を抱えながらも手を止めないのが師範代である。画用紙を手にする者、お菓子箱を工夫する者、クリアファイルの塊を両手にコンビニと自宅を往復する私。師範代がそれぞれの代本板を手に「いざ本楼へ」。 

 

 前半の合同ワークでは名札の色ごとに分かれての、2つのワークを用意した。まずは無作為に選ばれた2冊の本の共通点を探し、本楼の壁一面、天井まである本棚から仲間になる本を探す。

 

 

▲八田律師による本楼ツアー

 

 迷いながらも学んだばかりの型を使い、本楼を彷徨う学衆たち。用意された本とにらめっこする者、書架の前でしっかり本の中身を吟味する者、表紙で即決する者。それぞれのお稽古風景が表れている。どんな情報でも見方を変えれば必ず対角線を引くことができる。こうして見つけた本を取りだせば、ぽっかりと隙間が空く。そこに誇らしげに収まるのはあの手作りの代本板だ。

 

 

▲「代本板」になった53[守]全18教室のフライヤー

 

 一見無関係な情報でも、見方を変えれば“対比”の情報が潜んでいる。それを意識できれば、松岡校長発案の編集ゲームの「ミメロギア」を使ったワークの始まりだ。

 

 

「オノマトペを使ってみよう」「〇〇さんの言葉をお借りして…」「合作にしませんか?」と、フルスロットルで思考は止まらない。言葉が響き合い、いくつもの潮流が本楼内の温度を上げていく。今日が初対面。教室を超えて、年齢もばらばら。しかし、型と編集術という共通言語を手にしている学衆たちには、それで十分なのだ。編集を体現していく学衆達の姿がなんとも頼もしい。

 

 

 

▲教室を超えて編集談話する学衆たちとナビゲートする4師範代

 

 後半の教室汁講では、空耳ラブレター教室は2階で茶話会モードの汁講を楽しんだ。

 

▲オンライン参加も一緒になって日頃の編集稽古について語り合う

 

 帰り際、学衆Yさんが階段を降りながら、壁に貼られた53守師範代が作成したフライヤーをみて、「師範代ってなんでもできるんですね」と笑いかけた。そこでハッとする。

 そうか、私たち師範代は「なんでもできる」のではなく学衆の為なら「なんでもする」のだ。汁講の準備のダンドリも、前日の工作も、当日のディレクションも。すべてが学衆に編集を味わってもらいたいという一心なのだ。

 「安牌を切る」なんて言っていられない編集の世界。私たち師範代は、次々と立ちはだかる問題に「なんでも」挑戦し、乗り越えていくが、挑み続ける姿を、学衆に直接見せることはないだろう。

 

 もうすぐ「番期同門祭」が幕を開ける。53[守]の最後まで、全身全霊で「なんでもやる」師範代達の姿を見ていてほしい。

 

文・写真・アイキャッチ:山口奈那(53[守]空耳ラブレター教室師範代)

写真:阿曽祐子 若林牧子

  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

  • オンラインに広がる「珠玉の一滴」~55守創守座~

    第2回創守座の特徴は、なんと言っても学衆のオブザーブだ。指導陣が一堂に会する場を、半分、外に開いていくというこの仕組み。第1回の創守座が師範代に「なる」場だとすると、この回では師範代になることを「見せる」場にもなる。オ […]

  • 週刊キンダイ vol.006 ~編集ケイコが行く!~

    かつて「ケイコとマナブ」というスクール情報誌があった。習い事である”稽古”と資格取得にむけた”学び”がテーマごとに並んでおり、見ているだけで学んだ気分になれたものだ。  今や小学生の約3人に2人は習いごとをしているが、 […]

  • 教室運営の頂をめざす師範代の挑戦 ~55[守]創守座~

    「山の山頂、ピークの先にある見たこともない風景を、みんなで見たい」。6月7日に開催された55[守]「第2回創守座」で山派レオモード教室の田中志穂師範代が熱を込めて語った。  「創守座」はイシス編集学校で教室をあずかる師 […]

  • 週刊キンダイ vol.005 ~ ハンシがゆく ~

    乱世には理想に燃える漢が現れる。    55[守]近大番に強い味方が加わった。その名もハンシ。「伴志」と書く。江戸時代の藩を支えた武士のようであり、志高く新時代を切り開いた幕末の志士のようでもある。近大番が、 […]

  • 週刊キンダイ vol.004 ~近大はマグロだけじゃない!~

    マグロだけが、近大ではない。  「近大マグロ」といえば、全国のスーパーに並び、飲食店で看板メニューになるほどのブランド。知名度は圧倒的だ。その名を冠した近大生だけの「マグロワンダフル教室」が、のびのびと稽古に励むのもう […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025