いかなる思想も宗教も科学も歴史も社会も、死者たちの言葉を再編集し、積み重ねられてきた。
「巨人の肩の上に乗る」という西洋のメタファーを持ち出すまでもなく、われわれの知的活動のすべては先人の積み重ねや発見を学び、組み合し直すこと(編集すること)で形作られてきた。
イシス編集学校においては、松岡正剛校長が残した数々の著作や1800夜を超える千夜千冊に、編集工学の背景となる先人の考え方/方法や、その見方がちりばめられている。
5月11日に豪徳寺・本楼でおこなわれた43期[花]の入伝式から遡ること約1ヶ月。花の指導陣はオンラインに集まった。そこでは入伝生に事前課題として読んでもらい、これから始まる稽古の手摺りを託す10夜を選ぶ議論が白熱していた。
「明恵上人の「あるべきやう」にも触れて欲しいけど、ホワイトヘッドを持ってくるなら、ここは空海の編集力に肖る一夜を置きたい」
「世阿弥の花伝書に触れるには、主要な千夜だけでも三夜有るがどれが一番適切か」
「科学の一夜を選ぶなら、カオスから宇宙、社会文化までを自己組織化で相似的に繋ぐ、ヤンツを持ってきてはどうか」
校長が不在である花伝所。指導陣は校長の代とも言える千夜千冊の言葉に、この期のためのメッセージを探す。集められた50夜ほどの候補は幾度となく入れ替えられ、10夜の組立が錬られていく。
選ばれた10夜はこちらだ。
<43[花] 千夜多読仕立て>
1) 1731夜『自己組織化する宇宙』エリッヒ・ヤンツ (『千夜千冊エディション 宇宙と素粒子』所収)
2) 1225夜『非線形科学』蔵本由紀 (『千夜千冊エディション 情報生命』『千夜千冊エディション 数学的』所収)
3) 0564夜『忠誠と反逆』丸山眞男 (『千夜千冊エディション 面影日本』所収)
4) 1079夜『アフォーダンス』佐々木正人 (『千夜千冊エディション デザイン知』『千夜千冊エディション 編集力』所収)
5) 1508夜『世阿弥の稽古哲学』西平直 (『千夜千冊エディション 芸と道』所収)
6) 1815夜『思考と言語(新訳版)』レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー
8) 0750夜『三教指帰・性霊集』空海 (『千夜千冊エディション 戒・浄土・禅』所収)
9) 0995夜『過程と実在』アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド
10)1730夜『見えないものを集める蜜蜂』ジャン=ミシェル・モルポワ
入伝生たちは出会った千夜千冊の言葉と対話しながら、各道場の五箇条を作り上げていく。
この十夜から見えるターゲットは何だろう(入伝生G)
自分の専門分野の理解も、より深めていけそう(入伝生O)
ホワイトヘッドについてもっと知りたくなった(入伝生N)
ホワイトヘッドの前には、ロックやモナドを提唱したライプニッツがいた。
小川三夫の前には、最後の宮大工棟梁、西岡常一がいた。
稽古とは古を稽(かんがえる)こと。
はじまった稽古の日々は、千夜を残した校長や、登場人物に連なる人々との対話でもある。
テキスト/写真:山崎智章(43[花]錬成師範)
山崎智章
編集的先達;湯川秀樹
実家は元縮緬商で着物好き。理論物理専攻でIT業30年。バーベキューの仕切り、珈琲の蘊蓄、南仏ワインへの嗅覚に自信ありの多趣味人で、多読アレゴリア身体多面体茶論の中核を担う。見た目は森のクマさんだが、会議では粘着質と評判あり。