百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。

家業を継いだと同時にISIS編集学校の門をくぐった伊藤舞さん。[守][破][花]の講座を受けていくうちに出会った「あるもの」が家業最大のピンチを乗り越える支えとなりました。さてそのあるものとは?
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は伊藤舞流 “贈与論”をお届けします。
■■幸せをつなぐ赤い星
家業を継承した矢先の2024年、山形県の「さくらんぼ」は史上最大の大凶作に見舞われました。さくらんぼの旬は3週間と短く、この時期は日本中の注目が山形に集まります。いわば山形県をひとつにし、県外との交流を運んでくれるスター。そんなさくらんぼに危機が訪れたのです。
実家の清川屋は1668年の創業以来、業態を変化させながらも山形の特産品の販売と製造を通し、県の魅力を全国に伝えてきました。中でもさくらんぼは毎年多くの方が購入くださる人気商品で、志の高い農家さんと一軒一軒関係性を深め、たとえ不作時であっても丁寧な応対を心がけることでお客様との信頼関係を築いて来ました。
ところが昨今の異常気象で梅雨時期にも気温が下がらず、収穫期に30度を超える猛暑が一週間続いたことで過熟状態の「うるみ果」となり、大量廃棄せざるをえなくなりました。ベテラン農家が今後さくらんぼ農家は続けられないかもしれない、と嘆くほどの惨状でした。
予約いただいていたお客様へ無念の連絡を入れると、「他の果物じゃ意味がない、清川屋さんのさくらんぼじゃなくちゃ。なんとかならないの? 1箱くらい。他の果物じゃ有り難みが無いんだよ、有り難みが」とのお声をいただき、“有り難み”の言葉に、“借りの哲学”が浮かんできました。
「おかげさま」「お世話さま」……。贈りものの出発点には、必ずモノでは無い関わりの「借り」が存在するのだと気づかせてくれたのは、42期[ISIS花伝所]の事前課題で出会った千夜千冊『借りの哲学』(1542夜)でした。そこにはこのように書かれていました。
「贈与には、借りの『負い目』や『恩』が見えないかっこうで加わっている。不足が『借り』を通じて満たされ、満たされた人はまた贈与する借りと贈与の渦社会となっていく」と。
他社では一律キャンセルに踏み切る中、1つでも声に答えたいという社員の思いから、規格外の双子果の販売や収穫超過時の予約販売、新たに過熟果の一次加工ルートを構築し、高温障害は例年起こり得るものとして販売体制をつくりました。
今年もさくらんぼの時期が終わり、お客様から手紙が届きました。
「美味しいさくらんぼをありがとう」
「丁寧な対応に感激しました」
「農家さんにどうか感謝を伝えてね」
それを読んだ社員が、また来年も頑張らないとねと充実した表情で語り合うのです。
ある農家さんは「さくらんぼは食うものでねえべ。見で『あぁ~』と感動するもんだ」と言います。さくらんぼを真ん中に、相互に幸せを編集しあっているような光景が広がっています。
▲3週間と短い「さくらんぼ園地」
千夜千冊『贈与論』1507夜によると、モースは、贈ることやお返しするといった互酬的贈与が、信頼関係や社会的なつながりを活発にすると綴っています。贈りものは、単なる儀礼に止まらず、豊かさをもたらすものなのです。
人々の贈与の「代」を担う企業である私たちも、ただの「代」に留まらず、互酬の渦の中で借りを受け取っているのです。このような見方は、編集に出会う前の私には考えられないことでした。今は、世界の見え方がクルクルと変化していくのが楽しくて仕方ありません。
文/伊藤舞(52[守]カミ・カゲ・イノリ教室、52[破]語部ミメーシス教室)
編集/チーム渦(大濱朋子・羽根田月香)
世界の見え方がくるりと変わる!
■第44期[ISIS花伝所]編集コーチ養成コース■
【ガイダンス】2025年10月5日(日)
【入伝式】2025年10月25日(土)
【稽古期間】2025年10月26日(日)~2025年12月21日(日)
申し込み・詳細はこちらから(https://es.isis.ne.jp/course/kaden)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-09-02
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2025-08-26
コナラの葉に集う乳白色の惑星たち。
昆虫の働きかけによって植物にできる虫こぶの一種で、見えない奥ではタマバチの幼虫がこっそり育っている。
因みに、私は大阪育ちなのに、子供の頃から黄色い地球大好き人間です。
2025-08-21
橋本治がマンガを描いていたことをご存じだろうか。
もともとイラストレーターだったので、画力が半端でないのは当然なのだが、マンガ力も並大抵ではない。いやそもそも、これはマンガなのか?
とにかく、どうにも形容しがたい面妖な作品。デザイン知を極めたい者ならば一度は読んでおきたい。(橋本治『マンガ哲学辞典』)