金緑に輝くアサヒナカワトンボの交接。
ホモ・サピエンスは、血液循環のポンプを遠まわしに愛の象徴に仕立て上げたけれど、トンボたちは軽やかに、そのまんまの絶頂シアワセアイコンを、私たちの心に越境させてくる。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
[守]学衆・板垣美玲のプロレス好きは、回答からダダモレしていた。〈ことわざ〉を擬く稽古では「孫にドロップキック」。〈見立て〉の稽古では、ポール型ハンガーラックを「怪獣」に見立てて、ディスティーノ(内藤哲也選手の技)を繰り出した。〈モード文体〉の稽古にいたっては、勝手に「番外編」としてプロレス実況中継を試みた。
そんなプロレス好き、内藤哲也好きの板垣は、今期、56[守]に師範代として登板する。プロレス×編集のバックドロップをいざ。
■■プロレスの編集的観戦法
初めてプロレスを見に行った。7年前のことだ。プロレスを毛嫌いする私に「プロレスは演劇なんだよ」と繰り返し説明する夫の熱心さにほだされ、文字通り「だまされたと思って」の観戦だった。そしてまんまと、命をかけたエンターテイメントに心を鷲掴みにされた。
最初は自己表現が上手く、メディア露出も頻繁な「100年に1人の逸材」棚橋弘至選手に惹かれたが、会場では内藤哲也選手がダントツの人気だった。それは、ファンが身に付けているグッズの多さで一目瞭然。「制御不能のカリスマ」内藤選手は対戦相手に唾を吐き、おちょくるような戦法。どうにも魅力がわからない。
帰宅後、プロレスのことをもっと知りたくなって、新日本プロレスの動画配信コンテンツを契約した。内藤選手のお勧め動画に挙がっていた「IWGPヘビー級王座決定戦」(vsオカダカズチカ、2016年4月)の映像を見て天地が逆転した。内藤選手の入場に観客が歓喜し、実況アナウンサーの声がうわずる。「夢を語らなくなった内藤にファンが夢を見始めている!」。それからはあれよあれよという間に内藤選手のとりこになった。
▲板垣さんの内藤選手応援グッズ。
今回、43期[花伝所]の指南演習の際、お題を出題する際のマクラで、プロレスをからめるというチャレンジを試みた。内藤選手の見方が変わった上記の一戦は、〈026番:ルール・ロール・ツール〉(ルル三条)の模擬出題でこんなマクラにしてみた。
編集学校にいるとよく耳にするルル三条。師範代が好きなプロレスも、ルール(スリーカウント、反則、制限時間など)・ロール(レフリー、ベビーフェイス、ヒールなど)・ツール(ゴング、リング、コスチュームなど)のルル三条を決め込むほど、試合内容が充実して楽しくなります。師範代の推し内藤哲也選手は、自ら観客が望む方向にルールを変えることで、ブーイングから歓声を浴びる人気レスラーに上り詰めました。
内藤選手のこの変化は、ベース(B)からターゲット(T)に向かっていく途中(P:プロフィール)を描く方法〈BPT〉でも説明できる。内藤選手はプロレスラーとしてのベース(B)を「夢はIWGPのベルトを獲ること」から「自分自身のプロレスを楽しむこと」に変えたことで、ターゲット(T)が「オカダカズチカを倒すこと」から「オカダカズチカとのプロレスを楽しむこと」になり、プロフィール(P)が「相手を徴発する。絶対勝つとアピールする。……など」から「オカダカズチカのプロレスを研究し、楽しめる展開にする。相手を煽っておもしろくする。……など」に変わった。見ている観客がどちらに心惹かれるかは容易に想像できるだろう。そして、型によって内藤選手の魅力がまたひとつわかったことに、私はひとり悦に入るのであった。
▲新日本プロレス公式チャンネルより「内藤哲也選手のデスティーノ30連発」
現在、全お題のマクラでプロレスにからめた一言を添えることを目標に、56[守]師範代登壇に向けて準備に励んでいる。
文・写真/板垣美玲(53[守]金継ゲシュタルト教室、53[破]なんでもデコトラ教室)
編集/チーム渦(角山祥道)
■板垣美玲師範代が登板する56[守]、絶賛募集中■
第56期[守]基本コース
【稽古期間】2025年10月27日(月)~2026年2月8日(日)
申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/syu)から。
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-09-23
金緑に輝くアサヒナカワトンボの交接。
ホモ・サピエンスは、血液循環のポンプを遠まわしに愛の象徴に仕立て上げたけれど、トンボたちは軽やかに、そのまんまの絶頂シアワセアイコンを、私たちの心に越境させてくる。
2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
2025-09-16
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。