【書評】『アナーキスト人類学のための断章』×4× REVIEWS 花伝所 Special

2025/10/14(火)07:44 img
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松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を数名で分割し、それぞれで読み解くシリーズです。今回は、9月に行われた第88回感門之盟「遊撃ブックウェア]にて、43[花]指導陣に送られた花伝選書『アナーキスト人類学のための断章』を4名で斬り込む「4×REVIEWS 花伝所 Special」です。


 

 4× REVIEWSのルル3条

ツール:『アナーキスト人類学のための断章』デヴィッド・グレーバー著/以文社

ロール:選者・田中晶子 評者・林朝恵/古谷奈々/大濱朋子/平野しのぶ

ルール:1冊の本を4分割し、それぞれが担当箇所だけを読み解く。

 

1st Review ―林朝恵(44[花]花目付)

(目次)

・まだ見ぬ日本の読者へ (自伝風序文)
・どうして学問世界(アカデミー)には、アナーキストがかくも少ないのか?
・グレーヴズ、ブラウン、モース、ソレル

多くのアナーキスト集団は他のラディカルな団体がやるような高圧的、分断的、党派的な合意形成とは反対の道を発展させてきた。誰かが他人を完全に自分の考えに転向させるようなこともしない。むしろ多様な視座を持ちながら、みんなが参加していけるプロジェクトを導き出し、現実的な諸問題に取り組むための方法を必要としてきた。国家、警察、資本主義、社会通念、これらは私たちを守る以上に縛ってきたのではないだろうか。自由に自分たちの生活を統治しうる世界を目指すなんて遠い夢のようにも思えるが、既存の社会に生きながら、方法によって別の世界を構築できるかもしれないと考えると生きる力が湧いてくる。

 

2nd Review ―古谷奈々(44[花]花伝師範)

(目次)

・すでにほとんど存在しているアナーキスト人類学について
・壁を爆破すること

革命は世の現象ではない。人の行動だ。著者は「何が革命的な行動か?」と問うて行動すれば、社会関係を再構築できると言う。

その集団は一様ではない。多種多様な共同体の営みが交差する。その状態によって巨大な権力の形態が無意味なものになる。

イシス編集学校では、多彩な教室模様の中、編集稽古を通して、様々な人が行き交う。著者ならこのあり様を革命と見なすのではないか。

肝心なのは、想像力の使い方だ。手応えのない全体に囚われると現状を「大きな権力」と想像することしかできない。部分の矛盾の縺れに想像力を使えば、解決の糸口を探るために小さな共同体をつくることができる。それらが群生している状態が、権力への対抗力になるのだ。

 

3rd Review ―大濱朋子(44[花]花伝師範)

(目次)

・存在していない科学の諸教義
・いくつかのまとまった考え方

アナーキスト人類学が探求するものは、国家や資本主義などの機能のみによってみることを辞めた時にみえてくる「人間の相互関係の主要な土台」であると著者は言う。「自己―組織化」し、「相互扶助」に参与していることの証明だ。他者を自分の考えに改宗することも、自分の考えが無視され従属させられることもない。「多数決」ではなく「意志合意決定」の重要性を問い、「過程」を大切にする。目の前の情報を分節し間(あいだ)を豊かにしていく過程は、これまで見えなかった価値や置き去りにされてきたものを他者と丁寧に対話することだ。意味の市場で交わされる編集稽古や「エディティング・モデルの交換」が、人類の土壌を耕していく。

 

4th Review ―平野しのぶ(44[花]花目付)

(目次)

・人類学――ここで作者は自らを養う手に躊躇いがちに噛みつく

グレーバー現象について(訳者あとがきにかえて) 高祖岩三郎

ポストモダンから未来をどう拓いていくか。グレーバ―の洗練と革新性はマルクス主義から非西洋をへて「民衆主義」という弱者の側にある。グローバル特権階級への「儀礼化された不忠宣言」だという。ニクイ。政治的立場より人知への信頼、クロノロジカルで多様な学知が理論を即実践に進ませるのだろう。アクティヴィストだが触知しうる痛みや孤独にも共感している。すべての人間が「生産」か「交換」か「消費」に分類され、「創造的消費」というレトリックによって世界市場がイデオロギー化している、と見立てられた現在にどう抗うか。問われているのは“(私)自身の世界に対する態度“であり、人類がもつ潜在的な別様の可能性を示唆している。

 

■書籍情報

『アナーキスト人類学のための断章』デヴィッド・グレーバー/以文社/2006年11月発行/2200円+税

 

■目次
・まだ見ぬ日本の読者へ (自伝風序文)

・どうして学問世界(アカデミー)には、アナーキストがかくも少ないのか?

・グレーヴズ、ブラウン、モース、ソレル

・すでにほとんど存在しているアナーキスト人類学について

・壁を爆破すること

・存在していない科学の諸教義

・いくつかのまとまった考え方

・人類学――ここで作者は自らを養う手に躊躇いがちに噛みつく

グレーバー現象について(訳者あとがきにかえて) 高祖岩三郎

 

■著者Profile

デヴィッド・グレーバー(David Graeber) 1961年、ニューヨーク生まれの文化人類学者・アクティヴィスト。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学教授などを務める。「人間とはなにか、人間社会とはなにか、またはどのようなものでありうるのか」(『負債論』)を追求した。享年59。著書に『官僚制のユートピア』『ブルシット・ジョブ』など。デビッド・ウェングローブとの共著『万物の黎明』は世界的な反響を呼んだ。

 

出版社情報(リンク)

 

ISIS花伝所 所長・田中晶子は今回の花伝選書についてこう話す。

「人生はプロセスそのもの。ぼくらは現にアナーキストとして生きている」という視座に共鳴する。「超部分のアナーキズム」を掲げ、編集的自由のために抗ってきた松岡正剛校長、「コップは何につかえる?」からはじまる編集稽古、 “編集する、日本する ”。校長亡き後のイシス編集学校は田中優子学長はじめ、九天玄氣組を筆頭とする軍団、師範たちによるLiving Editing(編集を人生する)の表象が際立つフェーズにある。

アイキャッチ写真/林朝恵

編集/大濱朋子

 

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