自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
「なんでもないわたし」
柳川真樹さんのイシス編集学校での稽古は、このマイナス状態から始まります。しかし、稽古を続けるうちにあることに気づくのでした。その気づきとは?
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」(第65回)をお送りします。
■■イシスの稽古で、日々が前向きに
イシスへ入門したときは「何もないわたし」状態だった。
2歳の娘の保育園がようやく決まり、日中自分の時間が生まれた。一方で、仕事はセーブすることを希望したため、勤めていた会社からは解雇を通告された。1日中母でいる状況ではなくなり、会社員としての仕事もない。
「あ~なんでもないわたしになっちゃった」
そんなときにわたしの前に現れたのがイシス編集学校だった。「時間があるならやってみたら?」と夫から紹介されたのがきっかけだったが、なんと申し込みまでしてくれてしまった……!
慌ててHPで調べてみると、「編集?」「思考の型?」理解できない単語が並んでいて、自分とは住む世界が違う特別な人達が集うところなのだと感じた。
やりたくない!
とにかくやりたくない!
そんなすごい人たちと一緒なんて無理だ。その中に、こんな空っぽの自分が入っていくのが怖かった。
しかし、始まるとそんな状況お構いなしにお題が出されていく。分からなさすぎて無理やり考えて提出していた。すると師範代から指南が返ってくる。「間違っていなかった。良かった~」。その時点で、もう「とにかくやりたくない」気持ちが減っていることに気づいた(答えがないから、そもそも正解・間違いはないということに後で気づくけれど)。
師範代からの指南は、どのように考えたら良いかのヒントが並べられていて、温かみがあって、自分の考え方の特徴がなんとなく分かるようになった。
[守]が始まってしばらくして出たお題が「たくさんのわたし」を30個あげるというもの。「なにもないわたし」が30個もあげられるわけないじゃん!
そう思いながらも、過去やってきたこと、好きなこと、性格、友達に言われること……こんなことを絞り出していった。
あ~あと2つ。そこで思いついたのが、この何もないわたしに悩んでいる状況も言葉にしてしまえばいいんだ! ということ。今は「揺れながら進む途中の人」、未来に立って「あの頃の理想を微笑める人」。これでなんとか提出。
あれ、30個意外と書けた。
このあたりでなんとなく気づいてきたのが、「どうなっている状況が正解」なんてないんだ、ということ。
-「地」を変えてみると、違う考え方が出てくる。
-「ないもの」が悪いことではなく、そこから思いつくことがある。
-「新しいスコア」で考えてみると、これも意外とアリかも。
-「BPT」のT(ターゲット)をちょっと動かしてみよう。そしたら、P(プロフィール)は今これでもいいかも。
お題に回答する中で、こんな風に、全てのことをちょっと前向きに考えられるようになった(気がする)。
さらに、日々の生活にも知らず知らずのうちに活かしていたようだ。娘からの「なんで?」攻撃には、「地」を動かしたり、エディットスタイルで答えてみたり。日々どうにかしなきゃ、終わらせなきゃには、「Tを動かせばそんなに焦ることないじゃん~」って思ったり。仕事できない、どうしよう~には、「よし、落ちついて、わたしの数寄ってなんだっけ?」と考えたり。いろんな意見を受け入れられるようになったり。
イシスに入門しても何もできるようになっていないと思っていたけれど、今思い返すと、[守]の稽古では、まずわたしの変化があったようだ。[守]に向き合う日々でも、「何も思いつかない」「変な回答しちゃった」と思って落ち込むことはあったけれど。「仮留めでOK。もういいや! も受け止めてもらえるので大丈夫」と思えるようになったこと自体が進歩だと感じる。
こんなことを言いながら、また迷ったり苦しんだりするんだけど、それでも挑戦したいと思って[破]に進んだ。「なんでもないわたし」は[破]で奮闘を続けている。
編集/チーム渦(角山祥道、田中志穂)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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