『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
「妻が受講を検討していると知り、共に説明会に行ってみた」ことがきっかけで、イシス編集学校に入門したという李康男さん。稽古を終えたことで見えて来た不足と変化とは。
イシス受講生が編集的日常を語る、エッセイシリーズ。第20回目は李康男さんが編集稽古体験を振り返ります。2023年最後の ISIS wave をどうぞ。
■■トランポリンの、あのときの感覚
私は医療データを扱う企業で「特命担当役員」を務めている。いわゆる無理難題の解決請負人だ。以前の私は難題解決能力の高い、デキル男なのだと勘違いをしていた。無論、この以前とは編集学校に出会う前を指す。
出張が多くデスクワークが嫌いな私は、[守]はもとより[破]のほとんどのお題を仕事の移動中にスマホで回答していた(このエッセイもスマホで書いている)。結果、問題の「入口」であるお題、「出口」となる仲間と自分の回答、そしてそれらに対する全ての指南が「可能性」となって、このスマホに残っている。いつしかそれは、特命係のサバイバルマニュアルとなっていた。
随分と昔だが、[守]の010番のお題《たくさんのわたし》を体験したとき、私という人間を分類し、組み立て直し、言い換える事で、これまで気付かなかった「私」を発見することができた。こうであると思い込んでいた以上に、私という「情報」に結び付く事柄は世の中にはたくさんあり、それらを接続させることで違う次元に飛んでいく感覚を覚えた。
あたかも幼いころに遊園地で遊んだトランポリンで、遊園地の敷地を通り越して高い柵の向こう側まで見えた、あのときの感覚に似ていた。
「私」の可能性を感じることができた貴重な体験は、「たくさんの貴方」や「たくさん貴女」の可能性も信じさせてくれた。全てのお題に対する仲間の回答と、その指南を貪り読んだ。時々は参考文献として紹介される「千夜千冊」で校長の声を聴いた。すると、これまで仕事で解決してきた難題に関わった人たち、トラブルの渦中にいた人々の「たくさんのわたし」にも注意のカーソルが向き、私がいかにステレオタイプな視点のみで問題を処理してきたかということに気付かされた。
そもそも特命案件などというものは、厄介極まりない込み入った状況であることが殆どだ。問題が大きければ大きいほど私の出番は増え、関わる人の数だけ事情と感情が絡み合う。それらに向き合うのは正直しんどいし、骨が折れる。当事者はみな、感情的になっていることが多いからだ。
しかし難題に隠れている「たくさんのわたし」を想像すると、トラブルの向こうにいる「人」が見えてくる。ひとつの問題にいくつかの顔があり、結びつく人たちがいる。猪突猛進に「解決」という一点にのみ向かっていた以前の私には、自分以外の誰かの可能性を信じるという姿勢や視点が欠けていた。私にとっての大いなる不足点だったのだ。
常に心のカーソルを動かすことで、起きてしまった出来事と「たくさんのだれか」を有意義に結びつけ、「わける/あつめる」「つなぐ/かさねる」「しくむ/みたてる」「きめる/つたえる」をこつこつと繰り返すことで、困難の意味や価値を見出すことができ、ともに難題に向き合った人間同士として絆を育むことができると信じられるようになった。
[守]と[破]を受講した程度で編集学校の何がわかるはずもない。しかしここでの体験は私に、難題に向き合う勇気と受容する力をくれた。そして言葉に対する思いやりを育んだ。今は難題と向き合えることに喜びさえ感じている。
私を難題解決請負人として一歩進めてくれたのは、今もスマホの中にいる教室の仲間と師範代、そして時々校長なのだ。
今日も私は特命係のサバイバルマニュアルを読んで職務へと向かう。
▲李さんのスマホの中の「サバイバルマニュアル」
文・写真/李康男(43[守]合成ホロドラム教室、46[破]調音ウラカタ教室)
編集/吉居奈々、羽根田月香、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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