先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」。今回は、55[守]山派レオモード教室の師範代を終えたばかりの田中志穂さんの登場です。
「難民の尊厳と安心が守られ、ともに暮らせる社会」をめざすNPO団体の広報を努める田中さんは、「難民」という主題をどう伝えたらいいか、悩んでいたといいます。そのときに出会ったのがイシス編集学校でした。この邂逅は、田中さんに何をもたらしたのでしょうか。
■■闇夜の灯火
日本語で日本社会に対して「難民」を伝える私の仕事は、トゲトゲした言葉たちとの格闘である。
松岡校長は「言葉はいつも優しいわけではないとも思ったほうがいい。つっけんどんや冷淡や皮肉もぞんぶんに生きてきた。言葉はときに容赦をしないし、何かを咎めもする」と書いている。最近では、難民に対するそうした言葉が増殖しているように感じる。
私は、日本に逃れてきた難民を支援するNPO団体で、難民や難民受け入れという主題への理解や共感を広げる、いわゆる広報の仕事をしている。
トゲトゲした言葉にどう対応したらいいか、ヒントを求めて2024年の秋に飛び込んだのが、イシス編集学校の基本コース[守]。その時に出会った「20世紀は主題の時代だった。21世紀は方法の時代になるだろう」という校長の言葉は、主題ばかり追いかけてきた私にとって、文字通り目から鱗だった。だが、同時にストンと腑に落ちる納得感もあった。
数多ある社会課題を各々がバラバラに主張しても、社会課題の百貨店ができるだけ。それらのあいだをつなぐ「方法」が必要であることは、実践から感じてきたことだった。そのおぼつかない感覚をガシッと取り出してくれた校長の言葉は、出口が見えない主題と付き合ってきた私には闇夜の灯火のようだった。
[守]はとにかく面白かった。これまで取り組んできた仕事や思考が、「型」を学ぶことで、仕組まれていく感覚が新鮮だった。編集の型は誰もが無意識に使っているというが、稽古を通じて無意識が意識化され、慣れ親しんだ景色に出会い直すようなプロセスが愉しかった。
たとえばこうだ。日本では「難民」の意味を知らない人が多いので、基本的な説明が欠かせない。関心のない人に知ってもらうには、難民の故郷の料理や文化などを切り口に届ける工夫が必要だ。《コンパイル》と《エディット》は常にセットでやってきた。異なる分野を組み合わせる《インタースコア》的な企画にも取り組んできた。
多くの人は「日本」を《地》にした見方を持っている。日本に受け入れの余力があるのか、異なる言葉や文化をもつ人々との共生は可能か、人手不足を補えるならメリットはありそうだ……。こうしたつっけんどんな見方に対しては、「世界」を《地》に据え、難民は国際的なイシューであること、途方もない人道危機であることなど、見方をずらすこともしてきた。「アインシュタインやフレディ・マーキュリーも故郷を追われた難民」だと伝えてきたのは、《地と図》をガラリと動かす編集だったのだ。
▲難民と料理のインタースコアのレシピ本『海を渡った故郷の味 新装版』(認定NPO法人 難民支援協会編著/トゥーヴァージンズ)。オンライン書店等でも販売中
子育て中の時間編集はきつかったが、[守]で芽生えた好奇心に蓋をすることはできず、[破]に進んだ。編集の森をさらに探求したい一心で[花伝所]に踏み込んだ。気がつけば、守の学衆だった頃には想像もしなかった55[守]の師範代を担っていた。
師範代までたどり着き、断片的だった型の理解が立体的になってきた。すると、型を仕事に活かす道筋がさらに見えてきた。できることは無限にありそうだ。
[守]を受講してからの2年間、編集稽古に汗をかきながら、平行して仕事では既存の講座に「情報」から難民を考えるコマを追加したり、ワークショップの導入に《たくさんのわたし》を使ってみたりと、編集的見方は仕事の欠かせないツールとなっている。
難民という主題を手放すのではない。主客を往復しながら、さまざまな社会課題のあいだを行き来し、社会を紡いでいく。これが私の《仮留めターゲット》だ。
▲田中志穂さんが関わる、認定NPO法人 難民支援協会のweb
文・写真/田中志穂(52[守]風月盆をどり教室、52[破]変則背負い投げ教室)
編集/チーム渦(角山祥道、大濱朋子)
★世界の見方を変えたいなら――秋開講の[守]基本コース、残席わずか
第56期[守]基本コース
【稽古期間】2025年10月27日(月)~2026年2月8日(日)
申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/syu)から。
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-10-20
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2025-10-15
『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。
2025-10-14
ホオズキカメムシにとってのホオズキは美味しいジュースが吸える楽園であり、ホオズキにとってのホオズキカメムシは血を横取りする敵対者。生きものたちは自他の実体など与り知らず、意味の世界で共鳴し続けている。