何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

松岡校長が千夜千冊で「惚れている」と告白したのは、エミール・シオランと川崎和男のふたりだけ。その川崎和男さんが校長の最後の編集の現場である近江ARSで、仏教とデザインを語り結ぶ。
■還生する仏教
舞台は還生の会。冥を経て顕へと再生するように、近江から日本を見なおし、仏教から日本を見てきた。そのシーズンⅡの第2回が10月13日に開かれる。
シーズンⅡを通して探るテーマは「こころ」。ターゲットを定めたのは、この人の本を読めば「仏教思想の網目が歴史的かつ俯瞰的に見えてくるだけではなく、日本思想の骨法がわかる」(1802夜)と校長が招いて還生の会がはじまった、末木文美士さん。末木さんは「仏教は心を扱ってきた」と考えている。聞きなれた言葉でありながら、わかるようでわからないこころ。そこを仏教から見ていく。
「松岡さんが続けてきたことを加速して、さらにギアを上げていく」。近江ARSの立ち上げからプロデュースをしている百間の和泉佳奈子さんの心積もりだ。
仏教は長い時間を経て日本文化に深くインストールされている情報編集装置。そこからなにがあらわれてきたのか、シーズンⅠでは過去から時代を追って探ってきた。シーズンⅡではそれを現在に見出していく。
そのためにはまったく別と思われているものを仏教にかけ合わせてみなくてはならない。だから、ゲストは自身のARSを仏教に持ち込めるぐらい、広げて見られる人でなければならなかった。
第1回は英文学者であり翻訳家の学魔・高山宏さんが「心はどこへ」を語った。第2回はデザイナーの川崎和男さんが「心にふれる」。
■うしろの正面だあれ
川崎さんは、「いのち」と「きもち」のうつわとなるような「かたち」を生み出すことに挑んできた。人工臓器のデザインにも取り組んでいる。川崎さんが見出したデザインと仏教の交点には四句分別があるという。この対角線、ぜひ近江・三井寺で発見してほしい。
「連塾を手がけるなかで、プレゼンテーションのクオリティーを追求する川崎さんの姿がとくに圧倒的だった」。原宿クエストホールで行われたその時のテーマは「浄土に焦がれて、羅刹に遊ぶ」。和泉さんの印象に大きく残っている。音楽とともに流れる二画面スクリーンに映し出されるプロフィール紹介も、その川崎さんの精度の高さをあらわしていたそうだ。
「いまこそ、松岡さんと同じ時代の<キワ>や<ベツ>を生きた人の話を聞きに行かないといけない。松岡さんと本気で交わし合った先達から学ばせていただくことによって、その間の空隙に松岡正剛を浮かび上がらせたい」。もう見えなくても、うしろの正面にいる存在を感じられる。
現代におけるリプリゼンテーションを見出すのはゲストだけではない。還生の会のもてなし・ふるまい・しつらいは、「別日本」から自らの技芸を見なおしてきた近江ARSによる表現だ。和泉さんは、別所としてのこの近江ARSの運動体をさらに有機的に動かし、開いていきたいと考えている。
■Ahead of the Rediscovery Stream ARSの連鎖
還生の会と同じ13日までの週末の4日間、天王洲で「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」が開催される。この中のアートエキシビションのタイトルは「Ahead of the Rediscovery Stream」。隠されたキーワードにお気づきだろうか。近江ARSの「Another Real Style」同様、頭文字を取るとARS。
アーティスティックディレクターをつとめる森山未來さんが近江ARSにインスパイアされて企画されたとのこと。森山未來さんが校長のたってのリクエストで、琵琶湖に入り、舞った写真が『別日本で、いい』に収められている。「近江ARS TOKYO」はその時の映像で幕を開けた。
「近江ARSってなんだろうと内側に掘り下げていきがちですが、『なんぞや』で解けないことはたくさんある。そもそも最初から内側を<ウツ>にしてあえて外側から近江ARSに迫る方法もありますよね」。和泉さんは森山さんに共感したという。「未來さんは『ARSを使わせてください』と言った。近江ARSを自分がすることのなかに位置づけるのではなく、やっていくための手すりにする。主語的に扱うのではなく、述語的にツールにする。松岡さんがよく言う『俺を使え』との方法その1です(笑)」。
今回のエキシビジョンの準備のために、森山さんが本楼を訪れた時、松岡正剛の存在とその距離を身体的に感じていたように見えた。
次の三連休は、天王洲で森山未來のStreamのゆく先を目撃し、近江で心にふれる手を感じたい。
●森山未來さんの「湖独の舞」の映像が冒頭に使われた「近江ARS TOKYO」のアーカイブはこちらからご覧になれます。
https://hyakkenmarket.jp/products/detail/43
●近江ARS【還生の会Ⅱ-2】「心にふれる」
◎日時
令和7年10月13日(月・祝)13時30分〜18時30分頃(受付開始13時)
◎テーマ
「心にふれる」
◎場所
三井寺(園城寺)
〒520-0036 滋賀県大津市園城寺町246 園城寺
※詳細は近江A R S公式サイトにて、後日お知らせいたします。
https://arscombinatoria.jp/omi
◎出演
【本講】
還生灯主:末木文美士(仏教学者)
テーマ:『私』の心の複雑さ――唯識・天台
【特講】
還生縁主:川崎和男(デザインディレクター・医学博士)
テーマ:「いのち・きもち・かたち」四句分別のデザイン
【別講】
風主:福家俊彦(三井寺長吏)
【玄問】
紫座:鷲尾龍華(石山寺座主)
茶観:福家俊孝(三井寺執事)
影守:中山雅文(近江ARSチェアマン)
【司会】
結象:和泉佳奈子(近江ARSプロデューサー)
◎ふるまい
一茶一果:叶 匠壽庵・三井寺
◎めぐり
一切経蔵(三井寺)
◎定員
約80名
◎参加費
現地参加費 13,000円(税込)
*HYAKKEN MARKETにて事前支払いをお願いします
◎主催
近江ARS(アルス)
https://arscombinatoria.jp/omi
◎お問合せ
近江ARS本部 滋賀県大津市栗林町3-1中山事務所内 中山雅文
近江ARS総局 東京都千代田区九段南2-2-8松岡九段ビル百間内 和泉佳奈子
omi@arscombinatoria.jp (近江 ARS 担当 中山・和泉)
◎プロデュース
百間
林 愛
編集的先達:山田詠美。日本語教師として香港に滞在経験もあるエディストライター。いまは主婦として、1歳の娘を編集工学的に観察することが日課になっている。千離衆、未知奥連所属。
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コメント
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