カッパッバさん(40代女性)のご相談:
「自分」が好きではありません。
難病による、メイクや整形などでもカバーできない風貌にコンプレックスがあるからですが、その風貌を差しひいても好きだと言える部分がありません。それもやむを得ないと諦めて生きています。
しかしながら、世の中の風潮としては自分のことが好きじゃないとダメのようです。
周りからは「自分を愛せない人は他人を愛せないよ」「弱みは強みになる」などと諭されます。
正直うんざりです。
女性にとって見た目の弱みは強みになんかならない、と思ってますし「あなたたちに何がわかるの?」とイラッとします。
特に「その状態に甘えてる」などというヤカラについては「あなたがこの病気になってみれば??」とさえ思います。
結局皆美しいものが好きでしょうに。
世の中の人は皆、どうして自分が好きでいられるんでしょうか。
サッショー・ミヤコがお応えします
「自分が好きではない」と言い切るカッパッバさんの言葉に大変な力強さを感じました。10代・20代の頃は醜形恐怖に悩む人も多いと聞きますが、40代あたりになると自分に与えられた与件に対して妥協したり、使いこなしたり、いわゆる大人の対応をする人が多いなか、あなたはそうではありません。ご病気のせいとはいえ風貌コンプレックスを抱え、さらに周囲の方からのアドバイスにうんざりする精神の孤高さにリスペクトを払います。
でも、そもそも世の中の人は皆、自分が好きなんでしょうか? サッショーにはそうとは思えません。ただ自分のご機嫌を取るのが好きな人と苦手な人がいるようだ、と周囲を見ていると、つくづくそう思います。世の中には、本当に親身になってアドバイスくれる人だけでなく、貧困やコンプレックス・不安などにつけ込んでくるヤカラも多いものです。アトピーだからというので近づいてくる人の善意とビジネスの両方にほとほと疲れた、という話も聞いたことがあります。
千悩千冊0016夜
ジャック・ロンドン、白石侑光訳
『白い牙』(新潮文庫)
カッパッバさんの風貌は、いわばスティグマ(聖痕)です。ここまで生き抜いてくるだけで大変だったでしょう。それはあなたが選ばれた人であって、並の人間とは違う証拠です。甘っちょろい一般ピープルが命題とする「自分を好きになる」とかではなく、自分の王座に座り直り、人とは違う存在がどのように強く美しく生きていけるかを教えてくれる書籍を読みましょう。本書は、その代表格です。「白い牙(ホワイト・ファング)」と呼ばれた孤独な灰色オオカミがいかに自己の遺伝的素材を鍛え上げ、環境にアフォードされて肉体・精神ともに成長していったか。人間界の掟よりはるかにきびしい荒野の世界に身を置いて、ご自身の本能と野性をさらに研ぎ澄ませていっていただきたいと願います。
◉井ノ上シーザー DUST EYE
相談というよりも吐露ですね。対処策はあなたの相談文にあります。自分を好きにならなくてもいいのです。ですが「自分探し」とか「アイデンティティ」とかいった気持ち悪い、近代的な言説は、同調を強いつつ、わたしたちに絡みつきます。
ある小説に「エスキモーとエスキモー犬は仲良しではない」と書かれてました。エスキモー犬は鞭を振るわれ、憎しみを宿しながらそりを引く。あなたを含むわたしたちは、“同調圧力”に繋がれ、鞭打たれ、走らされている犬です。自己愛を求める世間の圧力が、わたしたちを縛ります。呪縛を解くために、何かの対象に没頭することで「自分外し」を試みてはいかがでしょうか。フェチズムなんかいいですね。その果てに、同調圧力とは無縁な“野生の気高さ”が立ち現われそうです。
※アイキャッチ画像はウィキペディアのパブリックドメインからです。
井ノ上シーザー
編集的先達:グレゴリー・ベイトソン。湿度120%のDUSTライター。どんな些細なネタも、シーザーの熱視線で下世話なゴシップに仕立て上げる力量の持主。イシスの異端者もいまや未知奥連若頭、守番匠を担う。
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