イシス編集学校にひとつのウワサがある。最近、“松岡正剛校長Love”な若手メンズが編集学校に急増しているらしい。エディスト編集部では、それらしき3人の若手メンバーにひとまず話を聞いてみることにした。すると、水を得た魚とはこのことか!息つく暇なく口をついて出てくるのは、松岡校長や編集工学へのあくなき思慕、秘めた思考や連想だった。
そこで場を改め、2022年8月某日、若きメンズの熱量と独自のアナロジーの源泉はどこにあり、どこへ向かうのか。その生態を紐解くべく、オンライン鼎談の場を用意した。
連載2回目は、松岡オシ若手3人衆の「クロニクル」に迫る。
(聞き手:エディスト編集部 上杉公志、マツコ)
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推し活の始まりはいつ? ──松岡正剛オシな若きメンズの生態(1)
マツコ ここから、皆さんが今日の鼎談のために作成されたクロニクル(自分の年表)をもとに、お話ししていきます。応用コース[破]で自分史を編集するお題があるので、「クロニクル編集術」はみなさんお手のモノでした。なにかお互いに気になることはありましたか? (クロニクル編集術:参考記事)
網口 山内さんは特に、もしかすると自分の中に松岡正剛を探したんじゃないか、という気がするクロニクルだったんです。
山内 あ、分かりますか? 年表を作成するというので、松岡正剛との親和性を意識して、自分史から情報を抽出してみたんです。
網口 昆虫とか、書物とかにまつわるエピソードをあげられていたり、実験とかも。このあたりに、松岡さんのおっしゃる幼心を感じたし、優生学思想という言葉も書かれているし。千夜千冊にもたくさん登場しますよね。
山内 松岡校長の本を読んでいると、そんな記憶が自分にもあるような気がするんです。初めて手にした『擬』で、「ほんととつもり」を知って、自分もそういう傾向があると思いました。“つもり”でやったことは、“ほんと”と分けてこなかった。多くの少年少女は、そういう生き方をしてきたはずなのに、いつのまにか自分はそれを忘れてしまっている。
だから、少年に戻りたいと思ったりします。少年のときの感覚が、オトナになって最も遠くなってしまった。それが(千夜千冊エディションの)『少年の憂鬱』や『理科の教室』を読んでいると、ほぐされていくんです。完全に失っていない、凍っていない記憶たちが、氷解されていくような感覚です。『少年の憂鬱』はそういったツボを丁寧に抑えてくださっていると思います。そういう意味で、自分史を振り返ったときに、自分の中の松岡正剛を探すというところがありますね。
◆「自分のなかの”松岡性”」:山内貴暉さんクロニクルより
[4歳] ハサミ虫に挟まれて血が出て泣くほど痛かったが、その鋏の鋭さに恍惚とする。トノサマバッタの脚力
[7歳](小2) 公文の先生が使っていたプラチナ万年筆のカートリッジを盗む。ポケットに入れて帰っている途中に茂みに隠れてその形態に恍惚とする
[9歳] カブトムシよりクワガタ、コガネムシよりカミキリムシのマダラ模様と細長く節のある触覚が好む。
[13歳](中2) 中学で好きな実験器具はプレパラート、ガスバーナー、電流計。
[15歳](高1) 相模原障害者施設殺傷事件をニュースで見る。優生思想というものを知り気持ち悪さを感じる。
[17歳](高3) 入試問題で松岡正剛を知る。入試勉強が終わったらこの人に学ぼうと思う。受験が暗記ばかりの中、これほどに痛快な空振りを初めて出会う。
網口 『少年の憂鬱』で思い出すのは、加藤さんのクロニクルで、塾に苦しめられているくだりがあるんですが、そこはキー・ポイントですよね。自分のやりたいこととやるべきこととの葛藤を感じました。
加藤 「クロニクル」って、まるまるゼンゼン別のものにすることもできると思う。かけたい「フィルター」があるからその情報を引っ張ってきている。フィルターが変われば、新しい記憶として、クロニクルが編まれていきます。
いま僕は、「学ぶ」ということの悪いモデルとして塾を意識しているのかなと思います。だから “塾の憂鬱” がありました。『少年の憂鬱』というのは、カバーの色もそうですが、夕方っぽさ、虫の鳴き声がしてくるようなイメージで、自分がつくった今回のクロニクルにも、少年の憂鬱というような、詩的な、使い慣れないような言葉によるフィルターや連想が生まれていたのかもしれないなと思いました。
◆「自分のなかの”松岡性”」:加藤陽康さんクロニクルより
[4歳] くもん入会。塾人生が始まり、結局21歳まで欠かさず何かに通わされていた。とにかく塾に苦しめられていく。
[6歳] 小学校入学。初めて小説を書く。タイトルは『自
由の女神との大戦争』。小学校の先生に褒められる。
[10歳] 小学校の合唱部に入り褒められて外部の合唱部に呼ばれるが、塾があって行けず断る。
[11歳] Mという少年と同じクラスになり学校を抜けてまで遊ぶようになる。楽しくて仕方がなかった。
[15歳] 小さな手帳に半分日記半分幻覚の文章を書き綴る。なぜ、なぜと現実に絶望した文章ばかりだが、古川日出男『ゴットスター』を下敷きにしている。
[21歳] ぶち込まれた予備校から抜け出して通った図書館で、松岡正剛『多読術』『知の編集工学』を見つけ夢中で読む。とんでもない本を発見したと思った。
上杉 加藤さんは、3つ目の場所をいつも探していると思いました。たとえば、ウロウロしていて校長の本に出会えた場所でもある「図書館」は、新しい場所として大きな意味があったのかなと。そういう意味では、今は編集学校が「サード・プレイス」になっているのかもしれませんね。従来の勉強と、編集学校との学びはやっぱり異なりますか?
加藤 塾のような場所と編集学校は、比べられないぐらい違うかもしれない。ゼンゼン共通点がみつからないぐらいです。僕も、[破]ではうまくいかなかったり、いろんなことがうまくいかなすぎているんですが(笑)、編集学校では、何か「問い」が与えられたときに、いろんな寄り道をしてもいい、というところが大きく違う点です。一歩目から違っている気がします。でももちろん、今まで出会ってきたセンセイたちにも、面白いなと思えた方々はいて、そういう方たちは学びの型を受け渡してくれていたのかもしれないです。
マツコ 学びを深めていく方法を、加藤さんはずっと探していたとおっしゃっていましたね。加藤さんのクロニクルが、従来型の教育制度へのひとつのアンチテーゼになっていたようです。
山内 網口さんが書かれた宮本武蔵についてのノーテーションは見てみたいですね。[輪読座]では学んだことを図解しますが、幼いながらで網口さんはどうやっていたのか?というのが気になりました。
網口 そうですねぇ、宮本武蔵についても、昔、あるだけ資料を集めて、ノートに書きとったり、図解にしたり、いろいろやっていたんですよ。
◆「自分のなかの”松岡性”」:網口渓太さんクロニクルより
[5歳] 母が縫った、新しい上靴入れを持って行く。みんなの上靴入れと並んだときに、顔が赤面する。それは、白地に、ピンクの苺柄が入った上靴入れだった。
[11歳] 昼休みに男女混合の4人組で、理科室の先生の所に行って、お話するのが日課になる。人体模型や実験道具で遊んだり、絵に描いたような青春時代を過ごす。
[11歳] 教科書の本読みは声が安定せず、難しい算数の答えは答えがわからず緊張し、理科の研究発表とか苦手だった。でも3人組のヒゲダンスは皆の前でもできた。
[18歳] スランプ脱出にと買った『インナー・ゲーム』を再読。セルフ1とセルフ2の考え方で目が醒める。ただセルフ2に任せると、ボールが躍動し、感覚も上がった。
[19歳] もし宮本武蔵がテニスラケットとボールを持ったら、とんでもないなと想像し、本や資料を集めて宮本武蔵ノートを創る。
[20歳]テレビ番組「嵐にしやがれ」で松岡正剛の存在を知る。AMAZONやGOOGLEで名前を検索し、少しずつ何者か探る。杉浦日向子に賛を贈る千夜にこの方はいい人だ。
網口 そういえば[離]を終えた後で、松岡校長に “ノート取っているの?” と聞かれて、気にしてくださったのがうれしかったですね。千夜千冊に、『テスト氏』(12夜、2000年3月09日公開、ポール・ヴァレリー著)というものを知ったんですが、ポール・ヴァレリーは公表目的ではないノートをとって思索していたそうです。2万6千ページ分のノートは後に『カイエ』として出版されるんですけれど。そのメモ自体に「人格」があるとして、その人格を40歳ぐらいで趣味も仕事も株の「テスト氏」としました。これと全く同じことをやっていると思っているんです。
網口 ちなみに、皆さんは守で学ぶ38個の編集の型が、ひとつの人格には見えてこないですか? その38を連ねると、もともと立ち上がってくるのは松岡正剛という人格だったり精神だったりするかもしれない。でも、それが情報生命として、サイバネティックに動き出すようなイメージが、僕にはあるんですよ。松岡校長も千夜千冊エディション『情報生命』(角川ソフィア文庫)で、それを語っています。
山内 型が人格に見えるということですか?
網口 うーん…。僕の受け持った教室名には「初音ミク太郎教室」という名前がついているんですが、
加藤 それは、お題の1問1問が初音ミクの動きのようなもの、というイメージですか?
網口 1問1問が初音ミクのミクロな動きで、38問がそろった状態が初音ミクで。そうすると、初音ミクが編集学校で動き出したらどうなるのかなって想像するんです。
加藤 あー。それは、例えば、マンガになったり音楽になったりするということですか?
網口 そう、イシス編集学校というフィールドを使って、もっとお題が動き出さないかなというイメージなんです。もっとおもしろい現象が起こっていかないのかな。お題が人格だったり、チームになったり……
山内 『24人のビリー・ミリガン』みたいに多彩な人格を持っているという感じなのかな。
マツコ イシス編集学校のコースは、言うならば松岡校長の方法をお題化しているものなので、[守]の38の型の人格は?というと、もともとは松岡正剛のアバターなのかもしれないですね。だけど、編集は誰にでもできるよということで、松岡正剛の方法が応用可能な「編集の型」になっていますよね。それが校長以外の誰かによって、また別人格として動きだしたり、加藤さんの言われたように音楽になったり、マンガになったり、いろんな派生形、表現として表れてきてもいい。ということでしょうか?
網口 世の中が細分化されすぎてまとまれていない。なので、僕は38の型をばらばらにして語るのではなく、全体として語ることに挑戦したいと思うんです。ただ、ばらばらのままだと何も進まないので、お題をキュッとひとまとまりにしたり、ばらしたり、また束ねたりしながら進むというところに、松岡校長の編集っぽさを感じています。
以前、杉浦康平さんが、『オデッサの階段』(フジテレビ、2012〜2013年)で松岡正剛校長をグー・チョキ・パーみたいな人だと。ひとつの塊になったり、2つに分かれたり、ばらばらにもなる、そんな遊びの感じが、僕も初音ミクというメタファーを通じて体現してみたい。もっと遊んでみたいイメージです。(参考:『オデッサの階段』松岡正剛ロングインタビュー)
上杉 松岡校長が『オデッサの階段』の最後に、「世界はあらゆる編集を終えようとする方向に向かっている。それに私は抵抗している」ということをおっしゃっているのが好きです。世界も世界の中の情報も、いかようにも動かしうるということですよね。型や編集術によって情報を動かしていくことは、粘土の形を変えていく遊びの面白さにも通じると思います。
それが例えばクロニクルだと、今回は松岡正剛をフィルターに意識した自分史になったかもしれないけれど、加藤さんが言ったように、また別の情報をフィルターにすれば、全く違う自分史をつくりだせるということ。「クロニクル編集術」はそんな可能性を秘めた方法であることは、とってもユニークですよね。
マツコ そうそう、今回はみなさんに事前お題として、「たくさんの校長」をイメージしていただいたんですよね。[守]の最初に出てくる、イメージを広げていくお稽古ですね。松岡オシの3人がどんな観点から、どう松岡正剛をイメージしているのか?
上杉 そうですね、この後、「たくさんの校長」のイメージ、そして、おおもとのイメージにも、迫っていきましょう。
松岡談義はマダマダつづく……
次回は、松岡オシ若手3人衆がイメージする「たくさんの松岡正剛校長」の姿と、彼らの想いに迫る。
(2)自分のなかの“松岡性”をクロニクルに見出す (現在の記事)
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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