吉村: 2019年で大きかったのは、鈴木康代学匠が発起人になって、編集ワークショップ「Edit Tour全国版」が行われたこと。開催にエディストのオープンは間に合わなかったけれども、大きな出来事でしたね。ワークショップも担った[守]の師範たちを中心に、エディスト・ライターとして一気に参加してくれた。
川野: 私も大阪で、ワークショップの手伝いをしました。どうしても編集学校のイベントは東京ばかりになりがちです。もともと編集学校はオンラインの学校ではあるんですけど、イシスで学ぶことは、現実に使えて初めて意味がある。全国で編集学校がリアルの世界で動いているようすを伝えていくことは、「エディスト」の大切な役割だと思います。
上杉: 支所のみなさんの活動記事も楽しみですよね。なかなか今までは活動の内容を知る機会がなかったですから。編集学校の九州支所・九天玄氣組の中野組長が組員さんを対象にインタビューをしてくださっているのは、シリーズものとしていいですね。他の支所の企画も、もっとでてくるとキソイが生まれてきそうです。
金: 後藤さんと上杉さんはいつ頃から合流したんでしたっけ?
後藤: 私はオープンの時はまだ[破]の師範代中で。でもその最中に声をかけていただいて、9月の感門之盟で金さんと松原さんがエディストを紹介しているのを見てから入れてもらいました。
上杉: 僕も後藤さんと同じタイミングで合流しました。
松原: 後藤さんと上杉さんは、実際に運営メンバーとして関わって、いかがですか。
松原朋子
設樂剛事務所 インターミディエイター。離退院、師範代後、マイクロソフトを退社。全く機能していなかったイシス編集学校のSNSを駆動させ、イシス広報の基盤を確立、「あいだ」を編集する卓抜な編集マネジメント力であらゆるプロジェクトに欠かせない存在。
後藤: エディストに関わってまず思ったことは、編集学校ではこんなにも日々何かが起こっているんだということ。今までリアルに起こっていることや支所の活動のことなどを網羅的に知る機会がなかったので、日々の出来事を体感できたのは鮮烈でした。特に九天玄氣組の中野組長の思いを、記事として生で聞けたのは大きかったです。
上杉: イシスで起こっている出来事を、日本地図を上から見るような感覚で掴めるようになったというか。「イシスで日々起こっていることが世界的なニュースだ」という松岡校長の言葉はこういうことなのかと感じましたね。
後藤: 昨年で印象に残ったのは、先ほど話に上がったEdit Tourスペシャル特集ですね。各地のツアー記事がばらばらに存在していたんですが、集めてみると20本以上の記事があったので、ギュッとまとめて特集したらエディスト上でもお祭りができるんじゃないかなと思って企画してみました。全国同時多発で開催されたエディットツアーを追体験する感覚がありました。
上杉: 個人的には2つ思いがあって、Edit Tourを知らない人に、各地のローカルな面も含めてイベント自体を知ってもらいたいということがひとつ。もうひとつは、入門前の方にとって、同じ目線の参加者の声が聞けるということができないかと考えました。入門前の方の声を感じられるエディスト記事はまだ少なくて、様々な人の声を温度感とともに伝えられたらという気持ちでしたね。
金: Edit Tourスペシャルとエディストオープンのタイミングがちょうどいい感じでしたよね。
上杉: 初めての校長ディレクションは、2019年7月23日にありましたよね。6月の立ち上げメンバーとのキックオフ・ミーティングの時に、執筆のお題が出て、公開に向けて全員でニュースをとにかく書いてみようというフェーズもありました。 エディストオープン前に記事は80くらいありましたよね。それをひとつずつ確認していきました。
金: コンパイルな「普段パンツ」とエディットな「勝負パンツ」で書き分けるという試みもありましたね(笑)。
吉村: 7月23日の校長のディレクションが結構大きかったよね。校長のレジュメはみんなに公開してもいいよね?
松原: 林頭!あれはだめですよ。エディストに参加している人だけが見られるという特別レジュメにしておきませんか(笑)
金: また、怒られましたね(笑)。じゃあ、ここだけちょっとお見せしますね。コツは、「ポッと出、締めくくり」「常套句は使わない」「記者然とする」。このレジュメの存在がやっぱり、ターニングポイントになりましたね。
川野: 「イシスの記者になりきれ!」という檄に見えます。私にとっては、引き受けるからには完全に入りこむように、というメッセージですね。
吉村: 次のEdit Tourスペシャルは2月(詳細はこちら)にあります。次はEdistするうえで、改良したいことはあるのかな。
後藤: そうですね、全国からリアルタイムで記事を出せたらいいですけれどもね。
上杉: 予告は出したいですよね。
金: 前回の経験は、良かったところも修正すべきところも、フィードバックして次に生かしたいですよね。たとえば、Just記事はもっと増やしたり、濃い内容にできたりしますかね。
吉村: そうだね。特に、リアルタイムでJust記事を書くとき、僕が意識しているのは、まんべんなく書かないということですね。注目するポイントは1個なんだよね。1個から連想や言い換えや照合を広げる。それで終わらせる、という感じ。米田奈穂師範代の回だったら、「ないもの」「不足」だけをポイントにする。渋谷菜穂子師範代だったら「さだまさし」ではじまり、「さだまさし」で終わる。
金: まんべんなく記事を書いてしまうと、読みどころが分からないですよね。
吉村: 「出発のレトリック」と「到着のレトリック」の話を校長の受け売りでよくするんですが、まずは何に着目するかがスタートとしては大事じゃないかな。金くんなんかは、記事を書く時にどういうことを意識してる?
金: そうですね、記事によって違いますが、僕はそこで起こっていることと同時に、 それと関係づけられそうな別の情報に注意のカーソルを向けます。注意のカーソルを複数持つ。たとえば、多読ジムの記事では、オジー・オズボーンと重ねた。そのとき、関係性を結ぶ襞がどこにあるのか必死に探す。
吉村: 僕の場合は、いかに変なこと、ユニークなことに着目するか。着目したところが広げられるか。金くんだと外から持ってきて、何につなげられるか、だよね。
金: 関係をつくりやすいテーマや素材や切り口があります。ただし、ベースとして記事で伝えたいことは必ず押さえます。それを外したら元も子もないので。外と結びつけるには普段から世の中で起こっていることをよく観察することも大切ですね。僕は発見したことはすべてスマホにメモっています。
松原: では、少し話題を変えて。2019年にエディストに公開された記事のなかで、みなさんが気に入っている一推し記事をお伺いしてみたいのですが?
後藤: 丸洋子さんの「離ディストの離ユニオン 退院式へ」ですね。とにかく丸さんは言葉が綺麗で、特に最後の段落が美しい。離学衆としても「日々の「ひとしずく」に含まれるかけがえのない「すべて」を切り出すあの切実を再び味わう特別な一日は、間近に迫っている。」には、[離]の日々が思い出されて胸が熱くなりました。
吉村: こんな言葉、絶対出ないね。これは僕には書けないですよ。
金: 丸さんの場合は、実際にそう思っているんですよね。自分が思っていることをできる限り思ったことに近い言葉で書いていくのが、ライターとしてはできるといいですよね。嘘をつくと読者はすぐに見破る。
吉村: 丸さんの記事で、大音冊匠の誕生を紹介している記事があるんですけど、「「殺傷ではありませんよ」。大音冊匠が笑みを湛えて襲名を披露。「さっしょう」というやや剣呑な言葉の響きから、こう抱負を述べた」って、すごく優雅な感じなんですよね。自分なら笑いにしちゃうけれども、これは丸洋子節という感じですよね。
金: 丸さんはスタイルができていますよね。外から知的なものをもってくるのが相当うまい。下手にやるとゴテゴテした文章になるんですけど、サラッととそれができてしまうんですよね。
上杉: 僕のお気に入り記事は、清水伺名子さんの「六十四編集技法 【46測度(metric)】数字は全てを語れない」ですね。まず、編集64技法に挑まれていることと、高知のローカル性が新鮮で面白くて。伺名子さんは、建築と本のある場をテーマに記事を書いている増岡麻子さんと、上杉チームになっていただいて、お互いの記事の感想を共有したり、相談事項を交わし合ったり、そうした交歓もイシスらしいなぁと思います。あとは、編工研のデザイナーの穂積さんがコラボして、64技法のフォントの意匠をしてくださっているのも必見です。こうしたコラボレーションがもっと起こったら嬉しいですね。
吉村:穂積は細部にこだわる、こだわりすぎるデザイナーだからね。(ここで穂積を呼ぶ)おーい、穂積くーん。
穂積晴明 編集的先達:E.E.カミングス
上杉: あれってどれぐらいの時間でできるんですか?
穂積: 文字の形によりますが、1つ30分ぐらいですかね。実は64技法のうち20個ぐらいはすでにできあがっていて、いまはもっと速度が上がってきました。漢字はアンバランスな感じにしようとしているんです。枠が四角なので、動きが出るようにしています。上の部分をわざと開けたり、はみ出させたり。校長からもバランスを崩す方向性のディレクションが多いので、それを意識してやっています。
英語のフォントの方は、2つ以上のフォントを組み合わせて、新しい文字の雰囲気をつくろうという試みで、こちらは実験的ですね。
上杉: ぱっと見ると読めないような漢字ではあるんですが、それがかえって、空白や虫食い状態やぼかしのような効果があって。見えないからこそ覗きたくなるアフォーダンスがありますよね。それでいて64技法として一貫している。わかりにくさと一貫性、その兼ね合いがいい具合で毎回楽しみです。
穂積: ありがとうございます。千夜千冊エディションの字紋っぽい感じというか。一覧して64個できたら面白い感じになると思うので、並べてみたいですね。
吉村: これ、もう20個出来上がっていますと清水さんにプレッシャーをかけるのはどうですか?(笑)
上杉: そうですね、伺名子さんなら、これがいい!と、その中から順次選んで、楽しみながらやっていただけそうですね(笑)
後藤: フォントやロゴなどの制作話を聞きたいですね。
穂積: ロゴについては、「遊刊エディスト」ですから、週刊少年ジャンプのイメージがわきまして、林頭からも親しみやすくて日常的なもの、よく見るもの、という、ディレクションともつかないようなディレクションがあって(笑)。華美なものじゃないほうがいいと思って、シンプルなゴシックに斜体をかけたデザインで校長に出しました。遊刊の「遊」の字が、今はすでに調整したものですが、最初はもう少し潰れていて、ここをもっと広げて、とディレクションを受けました。こういう細部にも気を配らないとあかんのだなと思わせられました。
カテゴリーのモチーフについては、林頭と相談して、毎日のニュースが載るエディストなんだから、日用品を使ったらどうかと。それで日用品を100個ぐらいリストアップして、どれがいいかを林頭に出して選んでもらいました。8つプラス10ぐらいを出して、それを変な見方にしてほしいということで、例えば、絆創膏から煙が出ていたり、がま口からクリップが出ていたり、ちょっと不思議な感じを反映させました。福田繁雄というデザイナーの方がいらっしゃるんですが、トリックアートをデザインに取り入れる人で。その福田さんのドローイングのペンを参考にしながらシルエットを描きました。
金: 今年は、なにか企んでいることはあるんですか?
穂積: エディストで使うにせよ、使わないにせよ、カテゴリーのアイコンを増やしていきたいですね。それから、記事単位でいろんな意匠に挑戦していきたいと思います。記事ごとに特殊化するというか。いずれエディスト・デザイン部をつくりたいというのも野望です。
金: たとえば、穂積くんの方から、こういう記事はどうですかという提案はありますか?
穂積: すごくつくりこんだ、松岡正剛が書いたレジェンド記事があっても面白いと思いますね。その装飾デザインは担当します。それからライターとしては、千夜千冊でラップをしたいです。
上杉: ラップですか?!
穂積: はい。実は松岡正剛事務所の寺平さんと西村さんと穂積で、毎週木曜日に千夜ラップ会をやっているんですが、今年は穂積のリリックをお届けしたい。
吉村: 今年はこの後、穂積のリリックが、千夜千冊が更新されるたびにエディストに掲載されていきますので、楽しみにしてください!
金: キャッチ画像は千夜千冊をLPのジャケットみたいにデザインしてカッコよく作ってほしい。
穂積: もう一つの新年の抱負は、エディストグッズを作りたいですね。
上杉: カテゴリーごとのアイコンもかわいいですしね。
金: 「-st」の付箋とかいいですよね。
後藤: ああ、付箋、いいかも!この仕事はJust!とか。
穂積: 20周年エディストグッズ期待してください!
つづく
2020新春放談企画「エディスト・スタイルでいこう!」 前編
2020新春放談企画「エディスト・スタイルでいこう!」 中編
2020新春放談企画「エディスト・スタイルでいこう!」 後編(1月3日公開)
吉村堅樹
僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。
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