『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。

仏師は目の前の木の中に御仏の姿を見るという。
その面影をひと彫りひと彫りうつしてゆく。
編集稽古で師範代のやっていることに似ている。学衆から届く回答のなかに潜む方法を、指南のことばでカタチにしてゆくのが、師範代という方法だ。「やってくる偶然」と「迎えにいく偶然」の出会い。セレンディピティには偶察力が動いている。
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38[花]の演習は2週目に入った。察知したものを言葉にすることの難しさをヒシヒシと感じる頃である。式目演習の二の手は「Mode(様)」である。最初の式目で「Model(型)」に袖を通した入伝生は、ここで師範代としてのふるまいを身につける。「Mode(様)」を纏って、師範代に着替えていく段階だ。
出会いの偶然を加速させる方法は、3つ示される。「受容」「評価」「問い」である。いち早くM2演習に跳び出したやまぶき道場M.Y.は、「M1の演習を越えて、回答へ注意のカーソルをあてる箇所が明確になってきた気がする」と振り返った。ひとつめの式目M1で学んだ<学ぶモデル>と<教えるモデル>は、互いにアフォーダンスを与え合う。そこに偶然が去来する。「回答が届く」とは、自身のなかで蠢くものがある、ということだ。相互編集が起こり、指南のカタチがうっすらと見えてくる。
くれない道場Y.T.は、演習課題の指南事例が、受容と評価の言葉で尽くされていることに気がついた。「回答の中身ではなく、学ぶモデルを評価することで、自分の価値基準から離れる糸口を掴めたようだ」と呟いた。アイダが見える瞬間だ。学衆と師範代のアイダには「共有地」が生まれる。わかくさ道場T.T.は、そこに編集工学ならではの心地よさを見出した。共有地から発する「評価」や「問い」は創発や相転移を起こす。偶察力が繋ぐシソーラスは、可能性を増やす方向へ拡張する。出会いの偶然を加速させる方法は、深化の方法でもある。
今期の入伝生のなかで、ダントツの文字量を誇るむらさき道場M.A.は、複数の講座を同時受講しながら、軽やかに遊んでみせる一方で、面影を求めて、一年前の学衆だった自分との対話をかさねる。そこで、はたと思う。「予習」も稽古のうちだ!、と。そう、「迎えにいく偶然」は、ふだんから準備をしておく必要がある。「やってくる偶然」の察知は、うっかりすると零れ落ちてしまう。そこには、明確な意図も意思も必要なのだ。
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自分の存在の境界は、動的でフラジャイルで凸凹してふにゃふにゃしている。だけど、そういう存在学はない。これを、50代の頃に自分一人ではなく仲間とやろうと切り替えたのが編集学校になった。
編集稽古は一人ではできない。編集学校は、ズレも異質も偶発性をも共同知にしていく相互編集の場だからだ。
ひとつとして同じ仏像がないように、ひとつとして同じ指南も回答もありえない。この一期一会が心を揺さぶり、やみつきになる。
編集稽古は、そんな出会いに満ちている。
【参考】
千夜千冊1304夜『セレンディピティの探求』
千夜千冊1350夜『偶然性・アイロニー・連帯』
文 山本ユキ(錬成師範)
アイキャッチ 阿久津健(花伝師範)
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