宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。

本棚劇場に八田英子律師が立つと、黒地のワンピース全体に施された月をモチーフにした金の刺繍が本楼の天井近くの障子から差し込む光を受ける。
「イシスで起こっている出来事は、世界のどんな出来事にも匹敵する」
55[守]の卒門を祝う「第89回感門之盟/遊撃ブックウェア」の幕開けに、律師は松岡校長が常々語っていたという言葉を私たちに手渡した。どんな些細なことにも絶対に手を抜かない。どんな小さなことでも世界と闘うつもりでやる。[守]学衆が番ボーで経験した、漢字一文字について何週間もかけて考える稽古も、これにつながっている。
松岡校長が残してくれたものは、言葉だけでなく、感門之盟が行われている本楼に本棚やオブジェなどさまざまなかたちで編集の方法として詰まっている。松岡校長から直接ディレクションを受けることができなくなった今でも、私たちは松岡校長の言葉や仕草を思い出し「校長はこう言っていた」「きっとこう言うだろう」を交わしあうことができる。
本楼の入り口にあるミラーボール。圧倒的な松岡校長のブックウェアである『全宇宙誌』をモチーフにしている。
本楼は、松岡校長が「みんなを翻弄したい」という意味で名付けたという。今日、これからはじまる感門之盟で交わされる言葉の一つひとつも、場と人を揺さぶり世界に匹敵する事件になってゆくだろう。
今日もどこからか校長が見ている。
アイキャッチ・写真/福井千裕
文/森川絢子
森川絢子
編集的先達:花森安治。3年間毎年200人近くの面接をこなす国内金融機関の人事レディ。母と師範と三足の草鞋を履く。編集稽古では肝っ玉と熱い闘志をもつ反面、大多数の前では意外と緊張して真っ白になる一面あり。花伝所代表メッセージでの完全忘却は伝説。
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2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。
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2025-09-09
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豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。