「大変ですよここは。嵐になると思います」。
松岡座長のニヤリと不敵な予言とともに、AIDA Season3 第3講が幕を開けた。一泊二日の合宿仕立てで行われる第3講の現場は、近畿大学・アカデミックシアター。折口信夫や鈴木大拙、井筒俊彦などの研究で知られる安藤礼二氏と、日本の古代史・近現代史をテーマにした『ナムジ』『虹色のトロツキー』等のマンガ作品を描きつづける安彦良和氏をゲストに迎え、時と所と人、この組み合わせならではの「日本語としるしのAIDA」の創発を狙う。
アカデミックシアターは、5年前の2017年に近畿大学東大阪キャンパスにオープンした施設だ。図書空間「ビブリオシアター」の企画・選書設計を編集工学研究所が担当し、松岡座長が全体監修をしている。
1階は「NOAH33」と名付けられ、一般図書を中心に約3万冊が並ぶ。日本十進分類法とはまったく異なる、実学的・文理融合的な文脈によって編まれた7エリア・33テーマの書棚が圧巻だ。7エリアは、イシス編集学校で有名な「七茶(Chance・Challenge・Charge・Chain・Channel・Change・Charm)」に対応している。
2階「DONDEN」は「DONDEN読み(マンガ・新書・文庫の3冊読み)」発祥の地として、イシスではNOAHよりも知名度が高いだろうか。マンガを手掛かりに関連する新書・文庫が配置され、マンガを手掛かりにすいすいと知の奥へと入り込んでいける仕立てとなっている。
合宿1日目の本日は1階を探索しつつ、安藤礼二氏を語り部として安彦良和氏と松岡座長が広げた。2日目の明日は舞台を2階に移し、語り部も安彦良和氏にバトンタッチして安藤礼二氏と松岡座長が深める。
「安藤さんは、日本の神話空間・神仏空間のスピリチュアルなモノの台風の目。安藤さんが登場することによっていろいろなものが動く」「安彦さんは日本のアニメーション界、マンガ界に革命を起こし、一貫してそれを続けていらっしゃる。世界観・日本観・シルシの的確な開け伏せをたちまち見抜く」。2名のゲストに対する松岡座長の評が、冒頭の「嵐」の予言につながった。
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果たして嵐は起こった。1日目の主役、安藤氏の講義[神を迎える場所:折口信夫の「まれびと」論に導かれて]が始まった瞬間から、「”あいだ”を生きた人」折口信夫についての熱い語りが場を支配した。
これまで折口は、つねに柳田國男の民俗学の系譜において語られてきた。しかし安藤氏は、柳田國男と出会う以前の折口の興味関心を追い、柳田國男以前に折口がすでに折口であったゆえに、柳田國男が「常民」に舵を切った後にも折口が「マレビト」という学問体系・表現体系を築けたのだということを指摘した。
安藤氏によれば、折口信夫は、仏と神の間・表現と研究の間・主観と客観の間に身を起き続けた人物なのだという。松岡座長が「日本で独自な考え方をした人を片っ端から調べ」た上で、特に方法として学ぶべき相手として折口を高く評価する理由もここにある。
”柳田以前”の折口は、大学の卒業論文『言語情調論』において、言語の間接性と直接性、象徴言語と託宣について論じている。安藤氏の説明を借りれば、折口曰く、言葉には2つの側面がある。ひとつはいわゆる意味のコミュニケーションである(言語の間接性)。もうひとつは、詩や憑依状態のように、わかりやすい意味にはなっていないのだが、人の心を打つような、叫び声のような、時間や空間を蘇らせるようなものである(言語の直接性)。そして、陶酔状態の中で、自他の境界が曖昧な状態で発せられる言葉や動作に、芸能の発生があるのではないか、と。講義では、沖縄の特殊な地域の祭祀を捉えた映像が紹介され、まさしくこの「言語の直接性」を、参加した座衆すべてが体感した。言語情調論は、”柳田以降”も一貫して、折口の関心の背骨になっているという。
AIDA Season3では、編集工学研究所吉村林頭による「編集工学義疏(ぎしょ)」のコーナーも定番となっている。今回も『知の編集工学』を下敷きに「文化」が語られた。お題目のように「文化は大事ですね」といわれているが、その文化とはなにか。吉村林頭は「文」=「しるし」だと解く。「×」というしるし、アヤ、分身、入れ墨に通じるもの。しるしは、共同体への加入儀礼において与えられる聖なるモノでもある。ならば文化とは、共同体を構成する人間同士の交流によって生み出されるものであり、その世界と本人を強く結びつけるようなものではないか。こうした読み解きが、安藤氏の折口論と重なりながら、座衆に「日本語としるしのAIDA」に鑿を入れるヒントを与えていく。
「嵐」はますます強くなっていくだろう。
2日目の明日も、折口ゆかりの四天王寺見学、DONDENツアー、安彦氏のゲストセッション、近大生とのDONDEN読みバトル(!)、ゲスト×座長セッションと盛りだくさんのコンテンツが待ち受けている。
加藤めぐみ
編集的先達:山本貴光。品詞を擬人化した物語でAT大賞、予想通りにぶっちぎり典離。編纂と編集、データとカプタ、ロジカルとアナロジーを自在に綾なすリテラル・アーチスト。イシスが次の世に贈る「21世紀の女」、それがカトメグだ。
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