初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。

群島ククムイは、ISIS co-missionの今福龍太さんとコラボレーションしているクラブです。クラブの創設以来、今福さんは船長として、新しい土地への旅はもちろんのこと、常に新しい言葉や書物への旅…、さまざまな旅へと誘い続けてくれています。
今福さんの『宮沢賢治 デクノボーの叡知』にこんな一節があります。
「半影」とは、日蝕や月蝕のときに出現する半暗部のことを指していて、蝕によって減光された影のなかで見えている微妙に明るい部分をさす、それじたい揺らぎと陰翳をかかえた言葉です。それは、明確な境界を持った「光」と「影」という二分法ではとらえられない、濃淡の間を指しており、すなわち「私」でも「あなた」でもなく、同時にどのどちらもふくみこんだ、揺らぎながら自足する不思議な中間的薄明領域なのです。
「わたし」と「世界」の間にある中間的薄明領域。そこでゆるく繋がりをもつ群島的世界の中を旅する。ひとつひとつの島には、名もなき人々や、忘れられた物語が眠っています。それを呼び覚ますように言葉をたどり、本を読みあい、想いを共有するのが群島ククムイでの航海です。
夏の航海のはじめに届いた船長からのメッセージには35年以来の友人であったセバスチャン・サルガドの死を悼む詩が記されていました。そこには、人は生と死の中間にある存在として、生と死を分断しない「中間性」に拠ってたつ船長の覚悟が刻まれていたのです。
群島ククムイのメンバーはその覚悟を引き受け、サルガドの千夜千冊や『原写真論』を共読しました。名古屋の鶴舞図書館に集まり、読み合わせた『原写真論』のエピローグには、サルガドの写真への深い敬意とともに、このようなことが書かれていました。
結局、戦争を平和であると言いくるめる欺瞞的レトリックは、戦争のない状態としての平和を想像するだけの惰性的な思考様式と、じつは共犯関係にある。「平和」を「戦争」のない状態、と定義しているかぎり、私たちの平和は戦争という必要条件によって規定されたままである
平和とは何か? どのように平和を実現できるのか? 船長からの大きな問いに応じるために図書館の中を駆け巡り、三冊セットが編まれました。
アニメ、ボンカレー、買い物かご、まさに戦争の反対に位置づけられていない「平和」の象徴。それらが安心してここに存在できる世界を継続するために、自分たちができる小さな一歩を考える。その時間をもつことができました。
9月から始まる航海は三つの島をめぐります。
ひとつめの島は、小さな入り江に寄り添う島。そこでは船長から届いたひとつのことばをめぐり、その意味を探りながら一冊の本を読みます。たったひとつのことばの広がりに驚きながら、深めながら、新しい物語をつくります。
ふたつめの島は、海の向こうの光と影の揺らぐ島。そこでは、船長が残してくれた本のリストを羅針盤のように抱え、その面影を探して島を歩きます。
道端の花、遠くの入道雲、朽ちかけた家ーーー
レンズ越しに、ことばが姿を変えていきます。
みっつめの島では、波の音に包まれた洞窟に集まり、本を開きましょう。読み合わせる声が響き合い、ページをめくるたびに遠い島の記憶が蘇り、言葉がやわらかな海図のように私たちの前に広がります。
「わたし」と「世界」のあいだに漂う、半影の海へ。
そこに浮かぶ群島は、まだ見ぬ物語と出会うための場所です。ひとつのことばから始まる群島ククムイの旅に、あなたの時間を重ねてください。陽気なククムイストたちが待っています。
(文:西村慧 写真:渡會真澄、西村慧)
多読アレゴリア 2025年秋 群島ククムイ
新規航海仲間を大募集中! ※残席ごくわずか、お急ぎください。
【開講期間】2025年9月1(月)~12月21日(日) ★16週間
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群島ククムイ
ククムイは奄美・沖縄のことばでぷっくり膨らんだ小さな
蕾のこと。船長の今福龍太さんから届くことばに導かれ想
像力の花を育む群島コミューン。その島影で航海模様を綴
るのが、遊びごころいっぱいの多彩なククムイストです。
【群島ククムイ】霧の中からの生成ーーー今福龍太船長との台湾旅(2)
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コメント
1~3件/3件
2025-09-24
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2025-09-23
金緑に輝くアサヒナカワトンボの交接。
ホモ・サピエンスは、血液循環のポンプを遠まわしに愛の象徴に仕立て上げたけれど、トンボたちは軽やかに、そのまんまの絶頂シアワセアイコンを、私たちの心に越境させてくる。
2025-09-18
宮谷一彦といえば、超絶技巧の旗手として名を馳せた人だが、物語作家としては今ひとつ見くびられていたのではないか。
『とうきょう屠民エレジー』は、都会の片隅でひっそり生きている中年の悲哀を描き切り、とにかくシブイ。劇画の一つの到達点と言えるだろう。一読をおススメしたい(…ところだが、入手困難なのがちょっと残念)。