56守で初登板される皆さまへキワメツキのサカイメ画像を。羽化が迫り、翅の模様が透けて見えてきたツマベニチョウのさなぎ。側面に並ぶ赤いハートマークが、学衆さんたちとの激しく暖かな交換を約束しております。
編集学校の小倉加奈子さんが新書を出した。松岡正剛校長と田中優子学長を除けば、編集学校で新書を書いたのはおそらく唯一、小倉さんだけだろう。これは快挙だ。
また、新書といえば、優子学長の『不確かな時代の「編集稽古」入門』(朝日新書)もほぼ同時に刊行される。今月は奇しくもイシスの”新書月”となり、しかも別典祭も開催される。これはめでたい。
小倉本のタイトルは『細胞を間近で見たらすごかった』(ちくま新書)。ここからは『まぢすご』と略して呼ぶことにするけれど、一読して、うん、たしかに「すごかった」。何が「すごかった」のかといえば、なるほど細胞も人体も評判に違わず、すごいのだけれど、この本一冊まるごと「すごかった」。
はじめにごくごく個人的な感想を述べると、小倉さんの獅子奮迅というか、粉骨砕身というか、何がなんでも編集工学の駆使によって人体を説明し切ってやるぞという気迫が本の随所に滾っていて、とくに執筆の多少の経過を見知っている僕としては、そういうところがやけに胸に迫ってきた。昨年に松岡校長が亡くなったことも相まって、すごくグッときてしまった。
とはいえ別に、小倉さんの執筆過程や小倉さんのことを知らないとしても、目次を見れば『まぢすご』は一目瞭然だ。誰が見ても、万人が万人、アッと驚くことだろうと思う。一言で言えば、いわば編集レトリックのテーマパークのような様相なのである。
ちなみに、この本自体が実際にテーマパークのような構成にもなっていて、小倉さんが「からだ一周旅行」なり「からだツアー」なりのツアーガイドを務めて話を進めていく。言ってみれば、RPGならぬ”ロールプレイング・ブック”のようでもある。
具体的には、序章は《からだツアーの旅じたく》、第1章は《ごっくんからうんちまで「ジェット 消化器ツアー」》、第2章は《吸って吐いて「風かおる 呼吸器ツアー」》、そして第3章は《溜まったら出す「水の都 泌尿器ツアー」》とまあこんな感じで6章まで続き、途中で「オプショナルツアー」が7つと「コラム」が5つもさしはさまれる超豪華パッケージだ。これで千円は安すぎる。
でも驚くのはまだ早い。圧巻は、章の中の細かい目次立てにある。
たとえば、「工事現場」「クロワッサン」「アルプスの少女」「殺し屋」「絶叫コースター」「ジュディ・オング」「ダダ漏れ」「軽井沢」…と、おそらく医学系の本ではめったにお目にかかれないであろう俗っぽい言葉がどかどかと盛られていて、しかもそれが医学用語と組み合わされることで未知の言語体験を呼び起こし、ただ眺めているだけでも眩暈を起こしそうになってくるのだ。
眩暈といえば(鬼束ちひろではなくて)、遊び学の泰斗ロジェ・カイヨワが遊びを4つに分けたうちの一つが「Ilinx(イリンクス)」、すなわち「眩暈の遊び」だったわけだが、小倉さんもそれを意図したのだろう。編集学校でも「編集は遊びから生まれる」とまず教わる。
また、編集学校では「目次読書」がとても重視されている。だからこそ小倉さんも目次に編集の魂を吹き込もうとしたのだろう。目次立てには、編集工学の「見立て」の技法を基本としながら、オノマトペやミメロギアや略図的原型などさまざまな編集術を使って取り組んでいることが見うけられる。
ところで、誰でも目次読書に慣れてくると、目次を読めばだいたいその本のことがわかるようになる。だからこそと言うべきか、そこからが本にとって、著者や版元にとって、本当の勝負どころだ。
読者が目次の先の門をくぐってくれるかどうか。立ち読みで済まさずに本を買ってくれるかどうか。おそらく、そこで問われるのは、「無知から既知へ」ではなくて、「無知から未知へ」のワクワクをその本が宿しているかどうかにかかっているような気がする。『まぢすご』にはめくるめく未知の魔法が息づいていると感じられた。
さて、2025年11月23日(日)・24日(月・祝)に開催される別典祭には、小倉さん率いるMEditLab for ISISがステージプログラムに参加したり、ブースを設けて物販したりする。そこで本書『細胞を間近で見たらすごかった』(特製しおり付)も販売される。しかも、税込1012円のところ、1000円ポッキリで販売するという。12円安い! この物価高、12円だってチリツモです。ぜひぜひ、本楼でお買い求めください。ブースでは小倉さんと一緒にゲームで遊べますよ。
別典祭の詳細はこちら
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金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:夢野久作
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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