伝説の学び舎・鎌倉アカデミアからモデルを勝手に取りだし地域に接続する。鎌倉という古都からトポスの魅力を引き出す。そんな〝勝手な〟構想で学びを進めているのが、多読アレゴリアのクラブのひとつ、【勝手にアカデミア】だ。
鎌倉のトポスの力に触れ、その感興を十七音に落とし込んでいくべく企画されたのが、「俳句ing」だ。1月11日に開催された1回目の模様を、「はとさぶ連衆」(読衆)が当日詠んだ句と共に、連衆のひとり、安田晶子がレポートする。
●いざ、トポスを巡る「俳句ing」へ
「俳句を詠みながら鎌倉を歩こう!」大塚宏(せん師)は、【勝手にアカデミア】の面々に「俳句ing」(ハイキング×俳句)をぶち上げた。呼びかけに応じ、待ち合わせ場所のJR北鎌倉駅臨時口に集まったのは、「はとさぶ連衆」の6名。これから、松岡正剛が文化の仕掛け人と呼ぶ三枝博音と「鎌倉アカデミア」の跡を辿ることになる。予定ルートはこれだ。
一行は早速、作家・高見順の住んでいたとされる家を探して歩く。高見順は、「鎌倉アカデミア」の指導陣のひとりだ。北鎌倉駅前の踏切脇にある、古い桜の木がそそり立つ一軒家がそれのようだった。まだ小さく硬い蕾がたくさんついたその木は鎌倉の山へ続く小道へとせり出し、花が開く時季の美しさを想像させる。
▲高見順邸とおぼしき家の前で。〈文豪の旧家訪ねば桜の蕾〉(晶月)
次の目的地へ向かう山道の途中で、お稲荷さんのどんど焼きに出会う。消防団の大人たちに見守られながら、枝の先につけた餅を振り回し、火に焚べようとする子どもが遊ぶ。
▲〈どんど焼き子が餅焚べる山の内〉(晶月)
その先は雲頂庵だ。急に視界が開けて見えた見事な富士山に皆揃ってカメラを向ける。大きな雲がかかり陽射しに少し霞むが、やはり雄大である。
▲八雲神社付近からの富士山と北鎌倉の住宅街。〈頂より笠雲富士見ゆ雲頂庵〉(晶月)
目指していたのは東慶寺だが、ルートは峰を超えた円覚寺を経由していた。雲頂庵を降りると円覚寺の堂と門が見えてくる。
▲円覚寺の塔頭・雲頂庵脇の階段。〈冬晴れに集うイシスの鎌倉路〉(歩風)
▲円覚寺の山門。〈初春や見下ろす伽藍がわれ招く〉(彦星)
円覚寺の本堂には向かわず門の外へ出ると、すぐに踏切が見える。それを渡った先の池もまた円覚寺であることに気づいた。せん師・大塚によると、軍部が強引に境内に鉄道を敷設したのだという。氷の張る池で遊ぶ鳥に目をやりながら、寺の内部を突っ切る鉄道が作られた時代を思う。
▲円覚寺の池には氷が張っていた。〈氷上を冬鳥歩く円覚寺〉(里星)
円覚寺から車の通りの多い街道を歩いて、東慶寺に到着。鎌倉アカデミアの校長・三枝博音を始め、文学部教授の高見順など、同校ゆかりの墓を参るためだ。他にも、東慶寺には鈴木大拙、小林秀雄、岩波茂雄、和辻哲郎、谷川徹三……と知の巨人たちが多く眠る。江戸時代には、駆け込めば離縁ができる縁切寺として知られた。
▲三枝眠る東慶寺にて。〈ひっそりと墓標見守る寒椿〉(歩風)
しかし、円覚寺の山を越えたあとの墓地散策は、足腰に厳しい。ふと見ると門前に山小屋風のカフェがあり、墓参りに行かず、誘い込まれた者が約2名。落ち着いた調度品と花が溢れる中で飲むカフェラテは格別であった。
▲〈カフェオレの温もりはさんで初吟行〉(里星)
三枝博音の墓を見てきた者達は、温まったカフェ組と合流し、次は三枝博音の旧家を探しに歩き始めた。その家は、フレンチ・レストランになっていた。建物自体は文化遺産であるため壊すことができず、柱を残したままリノベーションした趣ある館だ。お値段は高め。今日のルートに入れるのは贅沢すぎるようで、一行は先へ急ぐ。
▲三枝博音邸跡にて。〈鎌倉や三枝偲ぶ冬日和〉(穂凪)
古の文豪たちの別荘地なのだろうか。立派な垣根の家が続く道を抜け、建長寺にたどりついた。鎌倉五山第一位、国の重要文化財の総門・山門・仏殿・法堂・方丈が一直線に並ぶ古刹が「はとさぶ連衆」を迎える。
▲250年前に作られた山門(建長寺)。〈堂に座す御仏の見る冬紅葉〉(日々)
▲建長寺法堂。〈初明かり褪せた菩薩の眼を覚ます〉(彦星)
だが目的地は本堂ではない。その奥の山の上の半僧坊を目指すという。境内の最奥にある建長寺の鎮守で、半僧坊大権現をまつる。「僧坊からの景色は絶対だ」と、前日に下見を敢行した大塚が力説する。案内板によれば、山門から半僧坊まで約15分。往復ならば30分だ。後の行程を考えた留守番組が境内で待つ中、3人の健脚が400段の階段をものともせず頂上を目指した。
▲半僧坊からは相模湾の絶景。〈息白し天狗の肩より望む海〉(盆月)
●あかされる「現代の鎌倉アカデミア」構想
今回のもうひとつの目的は、鎌倉市中央図書館・近代史資料室の平田恵美さんから、「鎌倉アカデミア」についての話を伺うことだった。「鎌倉アカデミアを伝える会」の事務局としての役割を持つ同室では、『「鎌倉近代史資料第十二集 青春鎌倉アカデミア 「鎌倉大学」の人々』を作ったり、年1回の展示会を行ったりと、「鎌倉アカデミア」を後世に伝える活動を行っている。
約束の時間は16時。しかし、建長寺を出た時は既に16時5分。ここで焦らないのが、せん師・大塚なのだ。「大丈夫ですよ」と微笑みながら、ピッチだけ上げていく。鶴岡八幡宮の脇を抜け、休日で混雑する小町通りの人混みをかき分ける。小町通りは、お腹を空かせた「はとさぶ連衆」を誘惑する香りでいっぱいだったが、足を止めている余裕はない。ようやく図書館に着いた時、時計の針は16:40を指していた。「鎌倉時間」では許容範囲なのか、平田女史はにこやかに我々を迎え入れてくれるのだった。
平田女史が「鎌倉アカデミア」に携わることになったのが1992年。それから60周年、70周年と卒業生たちと共に会合を開き、過去の資料を大切に保存してきた。1992年2月にアカデミアの卒業生に書いてもらったアンケートは宝物だという。閉校から何年経っても色褪せない思いを多くの卒業生が書き綴った手書きの回答が、そのまま保存されていた。三枝博音が手彫りしたというギリシャ語の扁額(プラトンの言葉「幾何学を学ばざるもの、この門を入るべからず」)も毎年、虫干しを兼ねて公開しているという。次は5月だ。見に行きたい。
はとさぶ連衆が驚いたのはここからだった。せん師・大塚は、「来年80周年を迎える鎌倉アカデミアのイベント企画をわれわれ【勝手にアカデミア】が構想してお送りする」と平田女史に約束したのだ。さらりと放った勝手な発言に複雑な思いを隠しつつ、平田女史が抱え続けるには重過ぎるであろう荷物をここで引き受けるのだ、と覚悟した連衆は、「任せてください」という少し強張った表情で集合写真に収まった。
▲近代史資料室の前で平田女史と。
「俳句ing」の最後に訪れたのは、ホテルメトロポリタン鎌倉の「MUJI カフェ」。スマホの歩数計を見ると、2万歩を越えている。せん師・大塚は、前日、「皆さんの体力を考えて少しコースを変更します。山道はないのでトレッキングシューズでなくても大丈夫」と皆にメッセージを送っていた。元のルートは今日よりも過酷だったのだろうか。
▲健脚三人組。左がせん師・大塚だ。〈冬萌の三門尽きぬ話題あり〉(穂凪)
年初に罹ったインフルエンザから復帰できず、あえなくオンライン参加となった「お勝手」こと、原田祥子女史とも、ZOOMを通じてカフェでの歓談が叶った。私たちはようやくビールで喉を潤し、鎌倉の海藻で育ったポークの柔らかい肉で空腹を満たした。沁みる。
鎌倉吟行にとどまらず、数多の本へと話が飛び交った。良い意味で、クラブの名前そのものの“勝手” なおしゃべりを楽しみながら、夜は更けた。次の句会にはどんな勝手が現れるか、見ものだ。続きは「勝手にアカデミア」の次号でご披露しよう。
▲夜の鎌倉駅から帰路につく。〈師は眠る寒月のもとひそやかに〉(渦角)
写真・俳句/勝手にアカデミア・はとさぶ連衆
●「勝手にアカデミア」をもっと知るには●
【多読アレゴリア:勝手にアカデミア①】勝手にトポスで遊び尽くす
【多読アレゴリア:勝手にアカデミア②】文化を遊ぶ、トポスに遊ぶ
【多読アレゴリア:勝手にアカデミア③】2030年の鎌倉ガイドブックを創るのだ!
多読アレゴリア2025春「勝手にアカデミア」
【定員】20名
【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025haru
【開講期間】2025年3月3日(月)〜2025年5月25日(日)
【申込締切】2025年2月24日(月)
【受講資格】どなたでも受講できます
【受講費】月額11,000円(税込)
※ クレジット払いのみ
※ 初月度分のみ購入時決済
以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
例)2025春申し込みの場合
購入時に2025年3月分を決済
2025年3月26日に2025年4月分、以後継続
・2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
・1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、2クラブ目以降をお申し込みください。
【お問合せ】allegoria@eel.co.jpまでご連絡ください
【2025春 多読アレゴリアWEEK】
▼着物コンパ倶楽部
▼MEditLab for ISIS
https://edist.ne.jp/just/allegoria_meditlab/
▼勝手にアカデミア
はとさぶ連衆は鎌倉に集い俳句を詠みつつアカデミア構想に巻き込まれるの巻
安田晶子
編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。
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