草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
「チン・チロリン」の虫の音は、「当日は私たちのことにも触れてくださいね」との呼びかけにも聴こえるし、「もうすぐ締め切り!」とのアラートにも聞こえてくる。

松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。
今回は、デザイナー界隈の中でも注目が集まっている、文化が主役の経営にフォーカスした『文化資本の経営』(NewsPicksパブリッシング)を取り上げます。推薦者は、チーム渦のメンバー・柳瀬浩之さん。「人材育成も組織開発も、企業文化に影響されます。でも、目に見えない文化って、操れるものなんでしょうか」。
●●●『文化資本の経営』×3×REVIEWS
1章 文化経済の時代の到来
2章 新しい経営アイデアが湧いてくる場所
企業経営において資本といえばお金だ。だが本書は、お金の代わりに文化を資本とする経営のコンセプトを打ち出した。現在から四半世紀前のことである。なぜ文化は、企業活動の元手になりうるのか?
かつて、文化は見えづらく、経済的に換算しがたく、商売にならないとされた。しかし現代では、より文化的な満足の得られるものが求められている。
見えづらい文化は、すでに私たちの中にある資本である。言葉で語り、表象し、場をつくり形成していくものだと著者は言う。そうやって異質な物事との出会いによって生み出される文化では、混交による葛藤も対立もふんだんに生じる。それこそが文化資本の原動力になる。そもそも人もその他の生命体も、自他非分離状態の場所に根拠を置いて生きているのだから。
見えない価値を信じ、相互に関係しあう場でこそ「何かが起こる」という期待が生まれる。その出会いを、まるで師範代のように自覚的にマネジメントしようとする。それが文化資本の経営だ。(大濱朋子)
3章 世界を丸ごとデザインできる経営を
4章 文化資本経営は新しい環境空間を演出する
文化を資本にして「期待」を生み出す。ではその文化とは何だろう? 日本企業が目を向けるべきは、母語である日本語だ。
例えば「展覧会を開きたい」は主語が強すぎる。「我が社が」「社長が」と主語の意志が気になってしまう。「展覧会を開きます」くらいにすると、「我が社が根付いたここで」「これが気になる関係者で」と参加者が増える。述語が意志を持ち始める。
述語的意志は、個ではなく場を動かす。このとき、主語が曖昧だからといって、主体は何も引き受けなくていいのだろうか? 否。企業とはその時代と地域の語り部である。「耕す」と言うだけで春のあらゆる事物を語る季語のように、伏せられた主語の大きさを述語で担う。これが文化資本経営だ。(吉居奈々)
5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か
補章 文化資本経営の理論
企業が述語的な意志を持つことめざすならば、舵取り役の経営者はどうか。自身も経営者である柳瀬は、何をめざす?
「物語の舞台という水槽の中のキャラクターを観察し、小説を書く」。これは、芥川賞作家、村田沙耶香氏の方法である。この方法が、これからの経営のヒントになる。そう思った。
リーダーの必読書の1つに「人を動かす」(D・カーネギー)がある。しかし、そもそも「人を動かす」という言葉には、リーダーの意図通りにメンバーを動かしたいという前提があるが、本書では、こうした管理統制する企業の時代は終わったと言う。「社員が社会的生命力をもつように場づくりをせよ」と。言うは易しだが、では「人を動かす」のような具体的な方法論があるのか。そのヒントは物語創作の方法にある。顧客や社員が多様なアクション・コミュニケーションを起こす舞台を創造する。これが文化資本経営だ。(柳瀬浩之)
『文化資本の経営 これからの時代、企業と経営者が考えなければならないこと』
福原義春/文化資本研究会 著/NewsPicksパブリッシング/2023年12月26日発行※1999年刊行の書籍を復刊/1,980円
■目次
巻頭解説 佐宗邦威
文化資本経営が企業の未来を切り開く――はじめに
1章 文化経済の時代の到来
2章 新しい経営アイデアが湧いてくる場所
3章 世界を丸ごとデザインできる経営を
4章 文化資本経営は新しい環境空間を演出する
5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か
補章 文化資本経営の理論
■著者Profile
福原義春(ふくはら・よしはる)
1931年東京生まれ。1987年、資生堂の代表取締役社長に就任。直後から大胆な経営改革、社員の意識改革に着手し、資生堂のグローバル展開をけん引した。2001年名誉会長に就任。企業の社会貢献、文化生産へのパトロネージュなどに尽力した。著書多数。2023年8月、92歳で逝去。
「リーダーは企業文化をどうしたら操れるのか」。この問いを持って、本書と向き合った。ただ早々に自分の傲慢さに気づいた。「操る」ではない。問うべきは「文化を資本として活用するには、どのような場づくりが必要か」である。人ではなく、場をマネジメントするのが、これからのリーダーの仕事なのだ。(柳瀬浩之)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-07-15
草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
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2025-07-13
『野望の王国』原作:雁屋哲、作画:由起賢二
セカイ系が猖獗を極める以前、世界征服とはこういうものだった!
目標は自らが世界最高の権力者となり、理想の王国を築くこと。ただそれだけ。あとはただひたすら死闘に次ぐ死闘!そして足掛け六年、全28巻費やして達成したのは、ようやく一地方都市の制圧だけだった。世界征服までの道のりはあまりにも長い!
2025-07-08
結婚飛行のために巣内から出てきたヤマトシロアリの羽アリたち。
配信の中で触れられているのはハチ目アリ科の一種と思われるが、こちらはゴキブリ目。
昆虫の複数の分類群で、祭りのアーキタイプが平行進化している。