発掘!「アナロジー」――当期師範の過去記事レビュー#06

2025/09/29(月)18:17 img
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 3000を超える記事の中から、イシス編集学校の目利きである当期の師範が「宝物」を発掘し、みなさんにお届けする過去記事レビュー。今回は、編集学校の根幹をなす方法「アナロジー」で発掘! この秋[離]に進む、4人の花伝錬成師範の「置き土産」をどうぞ。


アイダに潜む演出の鍵

中村裕美 43[花]錬成師範の発掘!
未知の記憶をよびおこす“村” ――――建築家・樋口裕康さんと対談イベント

 多くを語らない。それがノスタルジアに向かう、タイムマシンの鍵となる。そのタイムマシンの設計者は、象設計集団の建築家・樋口裕康さんだ。樋口さんは、頭のなかで描いた「ぼくの村」を絵に起こした。展示会では松岡正剛校長との対談の場が設けられ、制作過程があかされた。一切説明的なものにしたくなくて、展示作品の倍くらい描いていたものを、バサバサ切ってつなげて再構成したという。急な場面転換やちがうシーンのつながり。ちぐはぐにみえるその隙間には、アナロジーが演出家となって入り込み、未知の記憶を連れてくる。同じ場所や時間を過ごしていないのに、「ぼく」の村だったものが、「みな」の村になり、作り手と作品と見手が共鳴する。

アナロジーは誰にもある思考装置だ

高田智英子 43[花]錬成師範の発掘!

六十四編集技法【30相似(similarity)】決め技は“守り”です

 大学生が地域の紙相撲大会に参戦する。闘うのは、段ボール製の力士。大学教官で花伝師範の記者は、制作する彼らの思考過程に注目し、編集特徴を六十四編集技法で鮮やかに解き明かす。
 力士像として肖ったのは、丸いお腹、クマのプーさん、体形が似ている指導教官ミサワ先生。編集技法【30相似(similarity):似たものをさがす、類似化、引き寄せる】を難なく使う学生たち。力士の決め技は防御。日々磨いているとパロディにする。類似を探し、国技・相撲と一見関係ない教育・研究で闘うミサワ先生を関係づけた学生たちのアナロジーは生き生きしていた。
 身の回りの出来事にはアナロジーが蠢いている! と読者も追いかけたくなる記事だ。

アナロジーは“動き”で発動する!

新坂彩子 43[花]錬成師範の発掘!
花伝式部抄::第19段::「測度感覚」を最大化させる

 アナロジーは“動き”の中にこそある。解体作業の定点観測のアイダから想起される過去の記憶、数ミクロンの違いでしかない健康毛とダメージ毛のアイダで知覚する触り心地の差異。これらは、記者の日常から取り出された余録やノイズの一部である。自身の実体験に加え美容師というロールから見える世界。エピソードこそ個別的だが不思議と誰もが経験したことのある共通感覚が後からじわりとやってくる。それは情報をどのように察知し、どう動かすのかについて解像度を上げて着眼している点にあるだろう。測度感覚のアイダで「超情報」の存在を暗示し読み手をイッキに連想と類推の世界へ誘う。まさに、“動き”を感じさせるメッセージである。

アナロジーごっこ

新垣香子 43[花]錬成師範の発掘!

【特集】ETS群島リレー21@三軒茶屋 今そこにある「色」の力

 一軒家でエディットツアーですって!? なんとも閉鎖的で解放的なイベントをやってのけたのは、花伝所で私を「かわる」に導いた一人、江野澤由美師範。これまで線引きされていたモノと色とを結びつけることでドアはチョコへと見方が変わる。見慣れていたもののが秒で見方を変えることができるのは、幼い子の得意技、アナロジーごっこといえる。
 アナロジーは、日常の多様な場で活きてくる。たとえば、反抗的な5歳の我が子を主人公にして物語る。「きょんぴちゃんはさみしいんだよ」と気持ちを吐露する娘。昼間の「私」を主人公に重ねて、今の「私」の力が惹きだされる。なんとも愛おしい時間、アナロジーな寝かしつけの時間がなつかしい。

 

アナロジーは遊びにもなれば、情報の察知力にもなる。身の回りやアイダにはアナロジーが蠢いている。アナロジーとは類推であり、「未知」というターゲットに向けて、「既知」というベースから想像することなのです。ひと言でいうならば、《似ているものを、借りてきて、当てはめる》(『才能をひらく編集工学』)。4人のレビューがそうであるように、アナロジーが躍如しているところにこそ、何かが生まれているのです。

アイキャッチ/阿久津健(56[守]師範)
編集/角山祥道(43[花]錬成師範)

 

◎「発掘!」バックナンバー◎
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発掘!「アフォーダンス」――当期師範の過去記事レビュー#02

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発掘!「アブダクション」――当期師範の過去記事レビュー#04

発掘!「ブックウェア」――当期師範の過去記事レビュー#05


 

突破後に、アナロジーの力を鍛えるなら……

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