【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#06『異界を旅する能』

2026/02/24(火)08:06 img
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イシス編集学校の奥の院・花伝所といえば世阿弥。花伝所は、世阿弥の方法で貫かれています。その世阿弥に近づかんとするのが本書『異界を旅する能 ワキという存在』(安田登/ちくま文庫)。師範が、本書を通して世阿弥の方法を語り直します。


第90回感門之盟「読奏エディストリート」の特別連載6回目。「マーキング」と「ヨミトキ」で奏でる師範の声の重なりをお楽しみください。

林朝恵(44[花]花目付)のマーキング&ヨミトキ

能を大成した世阿弥は、「家をもって継ぐとせず。継ぐをもって継ぐとす」と言っている。家という形で継ぐことが大切なのではない。どんなことがあっても「継ぐ」、それが大切なのである。(65ページ)

能の伝統とは形なきものを受け継ぐことであり、西洋のように体系化されたものを継ぐことではない。日本人は固定化されたスキルよりも形なきものを相伝することに卓越していたのだ。世阿弥の教えに「初心忘るべからず」という言葉があるが、これは積み上げたものをばっさり切り、新たな生を生き直すことで、次の芸境に行けるということを示していた。培った芸を続けるためにもリセットが必要なのだ。著者は異界に出会うことで、新たな生を生きることができるのだとも記していた。異界という見知らぬ地で不足を感じることで、自己に変化が起きるのだ。この変化ごと継承されるからこそ能には生命が宿り続ける。これは編集稽古にも通じる。(林朝恵)

福澤美穂子(56[守]師範)のマーキング&ヨミトキ

恋とは、それが絶対に手に入らないからこそ「恋」だ。(108ページ)

 複式夢幻能においてワキはシテという異界に出会う。異界は非日常であり、いきいきとした人生を送るために欠かせない。非日常に出会うには自身の欠落を見つめる必要がある。そのための方法が「旅」だ。旅の語源は「賜ぶ」。アーキタイプは乞う旅、物乞いの旅で、「乞う」とはすなわち「恋」のこと。
 編集は人や場を生き生きとさせる。教室は非日常な、異界からやってくるお題と出合う場だ。自身の不足を噛み締め、勇気を出して回答する。その気持ちのベースには未知なるものをわかりたいという憧れと恋心がある。絶対に手に入らない、終着地のない旅。だからこそ私たちはいつまでも稽古を続け、編集道を歩むのだ。(福澤美穂子)

森川絢子(55[破]師範)のマーキング&ヨミトキ

苦海の波濤を全身に浴びてしまったとき、私たちは「ワキ的世界」に入ることを、そして異界と出会うことを望む。(196ページ)

無給の武士「無足人」の家に生まれた松尾芭蕉は、若き20代の時分、士官先で立身を遂げる道を掴みかけた。しかし、寵愛を受けた主人の死により俳諧師として立つ生き方へ思い切ることとなった。それは拒否を受容に転換させていく「隠喩化」の過程の第一歩でもあった。隠喩とは、ある事象を類似性にもとづき別なものに見立て、意味を再構成すること。アナロジカル・シンキングの主成分であり、編集工学の根幹をなす思考でもある。芭蕉のように「思い切る」ことは難しくとも、わたしたちは編集を学ぶことで、何かを負ったときその意味を捉えなおすことができる。芭蕉が晩年にたどりついた「旅を栖にする生活」も編集稽古だったのだろう。(森川絢子)

『異界を旅する能 ワキという存在』安田登著

ちくま文庫/2011年6月刊/858円(税込)

 

■目次
序章
第1章 異界と出会うことがなぜ重要か
第2章 ワキが出会う彼岸と此岸
第3章 己れを「無用のもの」と思いなしたもの
第4章 ワキ的世界を生きる人々

 

出版社情報

アイキャッチ、レイアウト/阿久津健(56[守]師範)

編集/新井陽大(55[破]評匠)、大濱朋子(44[花]花伝師範)、角山祥道(44[花]錬成師範)

 

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#02『うたげと孤心』(原田淳子、山下雅弘、牛山惠子)
#03『ことばと身体』(古谷奈々、大濱朋子、得原藍)

#04『ゲーテはすべてを言った』(阿久津健、一倉広美、相部礼子)

#05『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(奥本英宏、石井梨香、北原ひでお、山崎智章)

#06『異界を旅する能』(林朝恵、福澤美穂子、森川絢子)

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    イシス編集学校[当期師範&学林]チーム

    「Pauca sed Matura」の言葉を背負い、守破離花遊の全指導陣が一挙集結する[ISIScore]。感門プランニング、エディットツアー運営、編集知のリバース・エンジニアリング、全てがここで交差する。知を組み立て、知を裏返し、知を書きなおしていく編集分子たちの風姿を垣間見よ。