学衆の回答を見た武邑光裕さんから漏れてきたのは、「ここまで(作品が)広がりを持つのはすごい」という言葉だった。
実は、1月21日に行われた52[守]特別講義「武邑光裕の編集宣言」に際し、武邑さんからは同期学衆に対し、ミメロギアのお題が出題されていたのだ。それが「水・魚」だ。
武邑さんが「メディア美学者」を名乗っていることを考えれば、これがマクルーハンの言葉を下敷きにしていることは想像が付く。
「私は、水を誰が発見したかを知らない。ただ、それは多分、魚ではなかっただろうと思う」(Marshal McLuhan「Medium is the Massage」1967)
講義当日、学衆がエントリーした105の「水・魚」の回答を眺めながら相好を崩す武邑さんに、「やはりマクルーハンですか」と師範から質問が飛んだ。武邑さんは頷きながらも、「『犬と鬼』でもある」と返した。
「アレックス・カーのいう『犬と鬼』ですね。私たちは、普段見慣れているものを知覚できない」
アレックス・カーの『犬と鬼』(講談社学術文庫)とは、『韓非子』の故事からきている。王から「何が書きやすいか」と問われた画家は、「普段見慣れている犬は、いざ描こうと思っても描きにくいが、想像上の鬼は描きやすい」と答えた。
アレックス・カーは、日本の美しい自然や錬磨された芸術・文化を「犬」に見立てた。当たり前過ぎて、見失ってしまったのではないかと。日本人は、かわりに派手な建物やモニュメント(鬼)を創り、真の自分の姿からかけ離れていった。
ではどうするか。
武邑光裕さんの講義で語られたのは、水から飛び出し、「水を知覚せよ」ということではなかったか。
武邑さんのミメロギアのお題「水・魚」に込められていたのは、自分たちの世界を知覚し、そこから飛躍しようというメッセージだった。
講義の日、武邑さんに「回答をどう思ったのか」と直接ぶつけてみる。開口一番発せられたのが、件の「ここまで広がりを持つのはすごい」だった。「絞るのが難しい」と呟きながら、目に付いた作品にコメントしていく。
▲ミメロギアの回答にじっくり目を通す武邑さん。
「『祇園こそ水・舞子こそ魚』、これはうまく場所を移しました。絵も浮かびます。『ページは水・文字は魚』もいいなあ。『ニコニコ動画』ってありますよね? 動画にコメントを付けられるのが特徴ですが、英語の解説では、あの文字を横に泳いでいく魚に喩えているんです。まさに『文字は魚』ですね。『さっきまで水・いまでも魚』、これもいい。魚がいつ水を知覚するのか、あるいはしないのか、そのことを問うているようです」
しばらく無言で回答を凝視すると、武邑さんは続けた。
「どの作品を見てもグッときてしまって、すぐには選べません。時間をいただけますか?」
10日後、「作品の観点はそれぞれ興味深く、選ぶのに苦労しました」と言葉を添え、武邑さんが選んだ11作品が明かされた。
ではここに、「武邑光裕特別賞」を発表しよう。
<武邑光裕特別賞>
祇園こそ水・舞子こそ魚 (武田麻里さん/北方ボタニカル教室)
神の水・饌の魚 (太田友理さん/即断ピアニッシモ教室)
ページは水・文字は魚 (上野明人さん/北方ボタニカル教室)
舞台の水・踊り子の魚 (工藤満衣さん/変速シフト教室)
転生する水・輪廻する魚 (森下優子さん/千離万象教室)
広告の水・消費者の魚 (平野里美さん/カミ・カゲ・イノリ教室)
いのちの水・分身の魚 (山川貴代さん/語部おめざめ教室)
さっきまで水・いまでも魚 (岡崎史歩さん/時々ゾーン教室)
宇宙は水・私は魚 (里円さん/北方ボタニカル教室)
空の水・星の魚 (竹林謙さん/時々ゾーン教室)
地球は水・人間は魚 (渡辺礼子さん/埒をあけます教室)
「しいて大賞を選ぶとすれば、一字で世界観を描き切った『神の水・饌の魚』です」(武邑さん)
即断ピアニッシモ教室の太田友理さんは、瀬尾真喜子師範代の伴走のもと、最終日の「祭々々々々回答」で一字にそぎ落とし、新たな世界を知覚したのだ。
太田さんをはじめ、水から果敢に飛び出した、11名の学衆に改めて拍手を贈りたい。
ミメロギアに奮闘した52[守]学衆諸君、さあ次はどこへ飛び込もう。
文/角山祥道(52[守]師範)
写真/後藤由加里
◎第52期[破]応用コース◎
●期間 :2024年4月22日(月)~2024年8月11日(日)
●申込締切 :4月7日(日)
●申込先 :https://es.isis.ne.jp/course/ha
●問い合わせ:isis_editschool@eel.co.jp
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