オンラインに広がる「珠玉の一滴」~55守創守座~

2025/06/19(木)12:00 img
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 第2回創守座の特徴は、なんと言っても学衆のオブザーブだ。指導陣が一堂に会する場を、半分、外に開いていくというこの仕組み。第1回の創守座が師範代に「なる」場だとすると、この回では師範代になることを「見せる」場にもなる。オンラインで参加した学衆はその場をどう見たのだろうか。

 最初の発言は13時40分だった。

 お題に対して、「これって正解はあるのかな?」とか考え始めると、俺面白くないな~
と思ってしまう自分の感覚を大事にしていきたいです


指導陣が次々「いいね」を連打、背中を押した。

 こうして、チャットではオブザーブ学衆と、見守る指導陣との間でのやりとりが花開くこととなった。

対話。せっかくご縁のあった教室の仲間なので、自分の回答をするついでに、他の学衆さんの回答の気になったり、いいなぁと思ったことを書いたりしています。ただ、他の学衆さんの回答に直接反応しすぎると、メール受信箱とか大変なことになってしまう??と遠慮してしまうような自分もいます。 


という声には、指導陣が「自由にお声がけしてかまわない」「あと3倍、いや5倍やっていただいても全然大丈夫です」とコメントした。それを受けた学衆は「では、5倍いきます」と力こぶのアイコンつきで返信した。
 この教室はこれから、どれほど共読が進んでいくのだろう。55[守]の15週間、遠慮は無用。おおいに他の学衆の回答を学び、方法をまねて、自分の引き出しを豊かにしていってほしい。

師範代よりもお得?!

 創守座の3つ目のプログラムは堀江敏幸『回送電車』を使った文体練習の指南ワークだ。師範代が取り組み始めると石黒好美番匠が「学衆のみなさんもよかったらやってみてください」と声をかけた。
 わずか2分弱後。最初の回答として、お題文から抜き出したキーワードが届いた。
 続いて、お題文を一行にまとめた文も届き始める。

踏切は、行く手を無慈悲にさえぎり、競走馬のゲートのような縞模様のバーと、ひときはゆっくりと滑る回送電車によって、人間の神経をさかなでるため、怨念が渦巻いていている。 


という学衆の回答には、「別の文学が誕生していますね」と物語へとつながる展開が示唆される。

 

キーワード 怨念 勤め人 回送電車

ホットワード さえぎる みうごきがとれない ゆっくりとすべる
勤め人は急いでいるので、何で怨念がうまれるのかというのが
ホットワード?かなとおもいました

 

から生まれた一行が、これだ。

 

「朝の忙しい時間に回送電車のために立ち往生するの、むかつく!」


 「学衆の見方づけを入れたともいえますし、『地』を待たされている人に変えたともいえますね」と、破の稽古を先取りしながら、回答の見方の多様性を示唆するコメントがついた。


 これはもう速攻の指南ではないか!
 取り組んでいた師範代たちには、そこから得られた気づきへのフォーカスがより重要視されたこともあり、一つ一つの回答への指南が入ることはなかった。そう考えると、思考プロセスを一緒に辿った指導陣からのコメントを受けることができた学衆はラッキーだったとも言えるし、また同時に応対をした指導陣もこの応接を楽しんだことも事実なのである。


 最初の発言があった13時40分以後、休憩時間を除き、5分以上の沈黙がほぼなく、発言は途切れることなく続いた。
 ただ聞いているだけではない。その場に参加することで得られたものが大きかったのではないか。


 最後のプログラム「問感応答返」では、こんなコメントが寄せられた。

・問答は Q⇨Aというスピード感があるイメージ。
・「問感応答返」は新しいものが生まれる、思考プロセスを表現している気がします。思考を深めて、醸されて、珠玉の一滴、一魂を返していくような感じがしました。
問われる、返されるものが深いように思います。
どちらも得意、使用シーンが違うのかな?とも思いました。

 
教室での回答・指南のやりとりはまさに、珠玉の一滴、一魂の交わしあい。編集道の先の一端を覗いた学衆の気づきが、教室に一段と深みを与えるに違いない。


文/相部礼子(55[守]同朋衆)
アイキャッチ写真/景山和浩(55[守]師範)

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。