空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。

本楼汁講での熱気を思い出す。
Zoomを立ち上げると感門之盟のオープニング動画が流れてきた。ギリギリ間に合ったようだ。春分の日を控えた土曜日、季節外れの寒さの中で急いで用事を済ませてからデスクのパソコンを立ち上げた。
太い縞柄のストールを首にかけた松岡校長が壁を埋め尽くす書籍を背に、穏やかな口調と情熱的な眼差しで語りかけている。本楼で圧倒的な数の本に囲まれた時の匂いを思い出す。[守]師範代のスピーチが始まる。師範代が持つハンドマイクの小刻みな振動と時折詰まる声からは試練に向き合ってきた真剣さが滲み出ている。卒門した頃のモヤモヤしていた感覚が蘇る。
翌日はバニー師範がホワイトスーツに赤いポケットチーフという白バニーの出立で進行役を務める。あれ?と感じて自分のイメージが茶色いうさぎだったと気がついた。そして、いよいよ堀田師範代の登場。赤・緑・黄色の彩り豊かな民族衣装でステージでもひときわ映えている。贈られた『チューリングの大聖堂』を携えて嬉しさが目尻に表れている。感情を抑えた話しぶりからはかえって師範代の熱い思いが伝わってくる。自分も稽古でのやりとりを思い出し、気づくと感謝の2文字をチャットに書き込んでいた。ブレイクアウトでは破同門の顔が並び、色々と助けられた4カ月間の稽古の日々がフラッシュバックした。
▲リコールから再編集中のバニー師範
感門之盟には稽古中の様々な出来事を思い返す仕掛けがある。仕掛けに応じて思い出される場面が異なってくる。頭の中で、断片的な記憶を関連付けて、無意識にパズルを埋めようとしているかのようだ。その過程で新たな気づきを得られることも。本楼で高揚感に浸っていた汁講の時には感じなかった不思議な感覚だ。んっ!?これも編集?画面越しに参加した感門之盟。距離をおいて自分を眺めている自分、リモートでも最後まで翻弄されている自分がいた。
▲リモートから見た本楼
文・写真:畠山義秀(47[破]万事セッケン教室)
編集:師範代 堀田幸義、師範 新井陽大(47[破]万事セッケン教室)
▼番記者梅澤コメント
これほどまでに、校長メッセージを実践した記事は他にないでしょう。感門之盟初日、校長は本棚劇場をまえに「思い出すことで、編集は始まる」とおっしゃったのでした。畠山さんは「思い出す」というキーワードで、自宅のパソコンという小窓から、感門之盟当日や、今年1月30日に開催できた破合同本楼汁講のこと、そして10月11日から始まった4ヶ月の稽古のこと、さらにはご自身が卒門した当時の心境ををリコールしながら、リミックスしてくださいました。
畠山さんの記事で印象的なのは、視覚情報と嗅覚・触覚情報の融合です。「ホワイトスーツに赤いポケットチーフ」「赤・緑・黄色の彩り豊かな民族衣装」などZoomからも伝わる色情報を鮮やかに描きながら、ハンドマイクを持つ手の震えや、かつて感じた本楼の匂いなどの体感的な情報を結びつけられています。
「頭の中で、断片的な記憶を関連付けて、無意識にパズルを埋めようとしている」まさにこの発見を、この記事でも体現してくださいました。
また、堀田師範代の「写真が肝要」との指南を受けて選んだのは、教室仲間との編集を象徴した堀田師範代のお衣装。そして、校長校話直後に司会・若林牧子番匠のコメントを聞きながら感門全体をプレイバックする新井師範の真剣な表情でした。一瞬の心の動きを、見事に射止めた畠山さんのハンターっぷりには、新井師範も「あのとき私はこんな表情をしていたのか……」と予期せぬ発見があった模様。画面越しでもイシスに翻弄されたあの1日の体験がここに、結晶化しました。
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
第88回感門之盟「遊撃ブックウェア」(2025年9月6日)が終了した。当日に公開された関連記事の総覧をお送りする。 なお、今回から、各講座の師範陣及びJUSTライターによる「感門エディストチーム」が始動。多 […]
6月9日に開講した「多読ジムClassic25夏」も、夏らしい熱気をまといながら、無事に幕を下ろしました。 タドクラの本を読む筋肉=読筋(どくきん)を鍛える3つの読相術トレーニングは、なかなかにハード。すべ […]
イシス編集学校で予定されている毎月の活動をご案内する短信「イシスDO-SAY(ドウ-セイ)」。 早いもので、9月を迎えます。今月は、多読アレゴリアの秋シーズン開講もあれば、コース修了を祝う感門之盟や、多読ス […]
田中優子の酒上夕書斎|第四夕『童謡画集』川上四郎(2025年8月26日)
学長 田中優子が一冊の本をナビゲートするYouTube LIVE番組「酒上夕書斎(さけのうえのゆうしょさい)」。書物に囲まれた空間で、毎月月末火曜日の夕方に、大好きなワインを片手に自身の読書遍歴を交えながら […]
公開されるエディスト記事は、毎月30本以上!エディスト編集部メンバー&ゲスト選者たちが厳選した、注目の”推しキジ” をお届けしています。見逃した方はぜひこちらの記事でキャッチアップを。 では、2025年7月に公開され […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-09
空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。
2025-09-04
「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。
2025-09-02
百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。