Kimono話#03 アンティーク着物と細雪ごっこ(2/23)【着物コンパ倶楽部】

2025/03/01(土)12:03
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1月に続いて2月の最後の日曜日にもバジラ高橋さんの輪読座の裏で「モリヤマ流・きもの編集体験会」を開催しました。今回のテーマは「アンティーク着物と細雪ごっこ」。わたしも昭和の戦前のものと思われる祖母の着物を着てゆきました。


 

 

祖母の着物(袷・小紋)

*祖母は明治45年生まれ。紅絹がついているので戦前のものと思われる

 

こうした小豆色(アイスのあずきバーの色)の着物は、最近ではほとんど見かけない色なのですが、この絵の女の子も着ているので当時流行っていたのかもしれません。20代の頃の祖母の心の中を思いっきり想像しながら水玉の帯と組み合わせました。

 

『おないどし』島崎柳塢(しまざきりゅうう)筆 
明治41年(1908)【東京国立博物館

 

 

アンティーク着物

 

着物の魅力はなんといっても、何代にもわたって受け継ぎ着ることができるという点でしょう。日本には着物の古着屋さんがたくさんあって、いとおしく思うような着物に思いがけなく出会うことがあります。

新品ではないので古着といえば古着なのですが、特に明治、大正から昭和の初めの頃の着物を「アンティーク着物」と呼び、戦後のものを「レトロ着物」や「リサイクル着物」と呼ぶようです。

 

アンティーク着物は糸が細くて生地がとても軽くてしなやかなこと、袖の長さが今の着物に比べて長くて(中振袖ぐらい)、胴裏(袷の着物の裏地)に紅絹(もみ)と呼ばれる赤色の生地が使われていることが多いのが特徴です。

 

当時のお蚕の口は今の蚕にくらべてずっと小さくて、細くて丈夫な「まゆ糸」を吐き出していました。それがアンティーク着物の風合いの元になっています。

 

明治期から昭和初期にかけて生糸と絹製品は日本の輸出産業の花形で「重さ」を単位に取引されていたため、生産性の向上のためにお蚕の口を大きくする品種改良が繰り返されました。太い糸のほうがコストパフォーマンスがよかったからなのですね。その結果日本には口が大きいお蚕しかいなくなってしまいました。そして「まゆ糸」も太いままになってしまいました。

 

だけど、ただ唯一生き残った蚕がいます。皇居の紅葉山で代々の皇后さまが飼われている「小石丸」だけが、世俗にまみれることなく今も当時の蚕のまま残っています。

 

 

 

紫の着物の袖口からチラリと見えている赤い布が紅絹(もみ)

 

明治になって西洋から化学染料がはいってきたことによって、こうした発色の良いピンク色の着物が染められるようになりました。

 

 

とっかえひっかえ

 

「るつちゃん、腰紐!」

慌てて取ってわたした。命令だった。

「だて巻とって。うしろへまわって、衣紋ひく。背縫まっすぐでしょうね、背縫よ。」

そこまできて姉は動かなくなった。気に入らなさが鏡にうつっている。

「紅葉のきもの、早くだして。上から三番目のひきだし。ついでに亀甲のも出して。」

乱菊をもう脱ぎ捨て、また緋の姿になった姉はじれったがって、るつ子から手荒にきものをとる。亀甲のをはおって見、かなぐって脱ぎ、紅葉のをはおる、その早さめまぐるしさ。

『きもの』幸田文(新潮文庫)より

 

 

今回、持ち込んだアンティークの着物は3着。

とっかえひっかえしているとすぐに散らかってしまいます。

それにしても、絹をさわっている時の気持ちというのはどうしてこうも高揚してしまうのだろうかと、いつも思います。

 

 

ちらかった応接室の机の上

 

 

むらさきの系統

 

上の写真の手前にある紫系統の帯揚げは、『細雪』の場面を想像するためのもの。

左から京紫、江戸紫、黒、古代紫、赤紫の帯揚げ。

 

紫色に染める方法には2通りあって、ひとつは「紫草の根」から紫色を染める方法で、もう一つは赤色と青色の染料で染めるというものです。紫根は貴重でしたので、二藍といって紅花や茜の赤と藍の青で染める方法が多く使われました。この赤と青のバランスでさまざまな紫色を生み出すことができるのです。

 

女たちは皆、姉が黒羽二重、幸子以下の三姉妹がそれぞれ少しづつ違う紫系統の一越縮緬、お春が古代紫の紬、という紋服姿であった。途中、阪急の夙川駅から、半ズボンの下に毛脛を見せた兄のキリレンコが乗って来て、車室の中の色彩にはっと眼を見張ったが、貞之助達の前へ来て吊り革にぶら下がりながら、

「どちらへ」

と、小腰をかがめた。

「ーー 皆さん今日はお揃いですね」

「今日は僕の家内のお母さんの亡くなった日で、皆でお寺詣りに行きます」

「おお、いつお母さん亡くなりました?」

「二十三年も前のことですねん」

と、妙子が云った。

『細雪』(下巻)谷崎潤一郎(講談社文庫)より

 

 

女の業(ごう)と、男の幻(まぼろし)

 

昭和初期の女の着物の事情・心情を知りたいのなら、幸田文の『きもの』と谷崎潤一郎の『細雪』かなぁと思います。

特に両作家の着物描写の違いに注目すると立体的にみえてきて興味深いのです。

女だからかもしれませんが『きもの』では着物を肌触りごと内側から感じますが、『細雪』では常に着物が視線の中にあるような気持ちにさせられます。そして「女の業」と「男の幻」を突きつけられ見せつけられるのです。

 

 

『きもの』幸田文(新潮文庫)2002

 

 

『細雪』谷崎潤一郎(講談社文庫)1983

鶴子(岸恵子)、幸子(佐久間良子)、雪子(吉永小百合)、妙子(古手川祐子)

 

 

 

ゆずりうける、そして、だんだん好きになってゆく

 

2月の体験会は着物コンパ倶楽部のお申込者限定で、1名の方がご参加くださいました!

そして一倉さんも俳句の師匠から譲り受けたという藍大島のお着物すがた。「えらぶ」のとは違って「ゆずりうける」というのは、自分の好みが関与しない出会いがもたらされるということ。つまり別様の可能性に満ち満ちているのです。

「着ているうちに馴染んで好きになってゆく」とおっしゃっていたのが心に残りました。

 

きめつけない、あせらない。

 

「きもの時間」は、ゆっくりゆったり流れてゆくようです。

 

着物コンパ倶楽部のクラブ会員の一倉広美さんとパチリ

 

 

次回の「モリヤマ流・きもの編集体験会」は3月30日(日)です。

着物コンパ倶楽部へお申込みのみなさま、どうぞお楽しみに。

 

 

多読アレゴリア2025*着物コンパ倶楽部はいよいよ3月3日から。

おかげさまで定員20名の満員御礼でございますが、お問合わせを多数いただき定員を30名に拡大しております。まだ若干の空席がございますので、ご興味のあるかたはどうぞお急ぎください。

是非、ご一緒しましょう!

 


多読アレゴリア2025春「着物コンパ倶楽部」

【定員】20名→30名に増員

【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025haru

【開講期間】2025年3月3日(月)〜2025年5月25日(日)

【申込締切】2025年2月24日(月)

【受講資格】どなたでも受講できます

【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
 以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
 例)2025春申し込みの場合
 購入時に2025年3月分を決済
 2025年3月26日に2025年4月分、以後継続

 ・2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
 ・1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、2クラブ目以降をお申し込みください。

【お問合せ】allegoria@eel.co.jpまでご連絡ください

 


(文)森山智子

(アイキャッチ画像)森山智子×山内貴暉

 

 

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  • 森山智子

    編集的先達:和泉式部。SE時代にシステムと着物は似ていることに気づき開眼。迷彩柄の帯にブーツを合わせる、洋服生地を帯に仕立てる等、大胆な着こなしをはんなり決める。イシスにも森山ファンは数多い。
    2025年春の多読アレゴリアのクラブ開講に向けて準備中。