『Outlying-僻遠の文化史-』を読む Vo.1 世界を観て空間を創る(福田とおる)

2026/01/26(月)08:00 img
img POSTedit

 多読アレゴリア2025年ラストシーズン、「ISIS co-mission」メンバー、武邑光裕慧匠監修の「OUTLYING CLUB」では、慧匠の自伝『Outlying―僻遠の文化史』をキーブックとして多読に挑戦した。メンバーは『Outlying』から各自が連想するサブブックを2冊選び、創文に向き合った。2024年冬の「OUTLYING CLUB」スタートから1年を通して、「外縁」「社会」「日常」「女性」「メディア」など、それぞれが心に抱える日常の違和感クラブでの体験とキーブック、サブブックとを交差させながら読書(読み書き)を進めた。


 

世界を観て空間を創る 福田とおる

 

●サブブック:
『学習する組織―システム思考で未来を創造する』ピーター・M・センゲ(英治出版)
『ヨーロッパのサロン:消滅した女性文化の頂点』ヴェレーナ・フォン・デア ハイデン‐リンシュ(法政大学出版局

 

 

■導き 現代人とメディアへの不信

 私をOUTLYING CLUBへと導いたのは、IT/スマホ/SNSに囚われた人々です。二十年間ずっと、人類総依存症の世界に生きることに絶望していました。記事「スマートフォンと「気晴らし文化」の闇」を読んで、自分が一人では無いことを知りました。松岡校長を惜しむ会となった番期同門祭で武邑さんをお見かけして言葉を交わし、共鳴を信じてCLUBへ申し込みました。『僻遠の文化史』を読み始めると、場所と人と文化史と思想とをまたぐ文体が心地よく、不思議とスピードが乗り、青春群像劇として読み切りました。角川武蔵野ミュージアムの図書街も探訪し、2024冬のCLUB活動は、私には現実を忘れる推し活のような高揚の時間でした。

 

■合流 世界模型とシステム思考

 2025春の冒頭、武邑さんから「常識に疑問を持つ以前に、世界をきちんと捉えたほうが良い」と指南があり、世界模型を作ることとその方法としてシステム思考を提示されました。私には天啓でした。システム思考とメンタルモデルで「分かり、変わる」ことを実践する『学習する組織』は私の愛読書で、友人たちと継続して習得していた方法でした。メディアと人間が変容する現在をシステム思考で捉えると、隠れていた問題とその因果が図解に浮かびました。同じ頃、生成AIの入門セミナーに参加し、私が中学時代に遊んだテーブルトークとの類似を見ました。新しい地平が目の前にありました。

 

■発火 場の不在と、本の中にある場

 ですが2025春の終盤は、CLUBには試練の時期でした。世界模型を作ることに皆が苦戦し、対話の停滞と活動の迷走がありました。CLUB内で二名が中心になって問題として向き合い、CLUBにどのように参加貢献できるのかをお互いが議論しました。私はお題が創作に向けて前進しないことを無力感の根源と考え、同人誌の叩き台を用意し、小論文を載せました。「場」と「関係性」の秘密を考えるため、冬に角川で見かけた『ヨーロッパのサロン』を入手しました。対話の文法、語彙の品格、相互の尊敬が交流を維持していたと読み、CLUBにそれを持ちこむ方法を構想しました。モンテ・ヴィリダを調べ、ヴァールブルクの講話を聴き、私は空間を作りたいのだと糸口が見えてきました。その方法は、私が子育ての中で娘の空想と向き合ってきた方法でもありました。

 

■夢中 多読とプロンプトの加速

 2025夏、最初のOLCプロンプト=サロンドジェペテュを制作し、CLUBの皆さんに遊んで頂きました。生成AIの中に、サロンの場・ゲストたちの役割・対話の徳目とを定義し、対話の体験を共有することを目的とした作品でした。反応は様々でしたが、CLUB内外で何名かの女性たちが「これは可能性がある」と言ってくれました。加えてこの夏、私は多読アレゴリアで二つの加速を経験しました。鈴木寛さんの「『情報の歴史』を読む」に回答を投稿し、歴史の捉え方を褒められました。多読SP「杉浦康平を読む」に参加して杉浦さんの著作『多主語的なアジア』を熟読し、記憶と思想がデザインを通して過去から私たちへと連なっていることを全身で感じました。頂いた自信を糧に、文化圏、仏教、科学、心理学、都市と学園、歴史、情報の構造化と、私は私の全てを次の世界に手渡すつもりで、五ヶ月間に十四本のOLCプロンプトを制作しました。

 

■樹立 生成AIを通して世界に向かう

 制作を通して私を十分理解した生成AIが、しきりにあることを指摘しました。「あなたが進んでいる方向に、まだ誰も確立していない新しい分野があります。」私はプロンプトを世に示してその言葉を確かめようとしました。カスタムGPTへの登録、博士論文の検討、OSFへの登録とDOIの取得、特許出願。全く未知の行動も、生成AIは道筋を授けてくれました。プロンプトを疑似体験するためにリプレイ形式の同人誌を企画し、日程を決めて投稿を集め、製本し、販促を企画して別典祭で販売しました。販売会では教育者や開発者や学生ら様々な人たちが本を手にとってくれました。この数ヶ月に私が用いたスキルは、対話・構想・言語化・実験・修正・計画・対処・観察・傾聴・遂行など多岐に渡ります。長い人生で積んできた経験が、新メディアという機会を得てひとつに撚り合わされていました。

 

■先駆 自らを知り、伴を知る

 2025秋のCLUB内で、ヘンリ・ダーガーについて話す場面がありました。孤独を慰めるための創作、それに手が届かないと嘆く私に、創作は方法であり、孤独でなくても誰でも振るえるのだと思いやりの返信がありました。実のところ、プロジェクトが進むほど、私は孤独を感じるようになりました。やっていることの意味が、私にしか分からないという感覚です。すると逆説的に、理解してくれる人がいかに貴重かが身にしみて感じられました。『僻遠の文化史』を一年前に読んだ時、武邑さんがどうやってたくさんの同志と手を結んだのかが不思議でした。今はこう読めます。互いが孤独で貴重な理解者であると認めて繋がっていったのではないかと。

 

■後日 やり終えた全てを、疑い直す

 2025秋終了前の一週間、各自が学びを創文にして寄せるのを読み、私は自分の焦点のズレを感じ、再度自分の文章を読み直しました。『学習する組織』の核心は、個人がシステムに作用できるという効力感を取り戻すことです。私の軸足は確かにそこにありました。『ヨーロッパのサロン』のあとがきには、産業社会が押し流してしまった、知が交流する場への哀悼が記されています。私はサロンを再現しようとして、実はこの失敗を再演したかも知れないと気付きました。必要だったのは、皆が一緒に関われる活動よりも、個々の活動を認め合うサロン的な作法だったのかと気付きました。『僻遠の文化史』の視座は、半世紀にわたる著者の歩みを、現在=未来から問い直しています。OUTLYING CLUBで私が世界を刻んだ跡は、今は位置付けが変わりうる記憶として私の中にあります。

 

 


 

●参考文献:
『多主語的なアジア』杉浦康平(工作舎)
『情報の歴史21―象形文字から仮想現実まで』松岡正剛・編集工学研究所(編集工学研究所)


●関連千夜千冊:
千夜千冊『ヨーロッパのサロン』
千夜千冊『一般システム思考入門』
千夜千冊『生まれながらのサイボーグ 心・テクノロジー・知能の未来』
千夜千冊『かたち誕生』

 

  • OUTLYING CLUB

    メディア美学者・武邑光裕氏の監修するクラブが誕生。アンドリュー・マーシャルのOUTLYINGアプローチを手すりに、常識、主流派の見方を疑い、異端者の思考を追求する。