エノキの葉をこしゃこしゃかじって育つふやふやの水まんじゅう。
見つけたとたんにぴきぴき胸がいたみ、さわってみるとぎゅらぎゅら時空がゆらぎ、持ち帰って育ててみたら、あとの人生がぐるりごろりうごめき始める。

55[守]の各教室で汁講(しるこう:師範代と学衆の集い)が行われている。2025年8月、山派レオモード教室でもオンラインの稽古場を飛び出し、東所沢の角川武蔵野ミュージアムにて汁講が開催された。田中志穂師範代、学衆6名、筆者(師範阿久津)が参加した。そのレポートをお届けする。
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山の朝は早い。
山派レオモード教室の汁講は、東京のはずれ、角川武蔵野ミュージアムの麓に朝10時の集合だ。「午前のみ参加」というある学衆のための設定だったが、仲間との時間を長く持ちたい6名の参加学衆全員が時間通りに駆けつけた。
朝9時台のミュージアム開館前。カラフルな傘で、黒山の登山口に着く田中志穂師範代。学衆との対面はこのあとすぐ
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武蔵野の地面が隆起してできたかのような、隈研吾によるミュージアム建築は、「山派」の集いにこそ相応しい。
ミュージアム4階には、松岡校長が構想したエディットタウンが待つ。そのブックストリートには数万冊の本が、図書分類法とは異なる配架ルールによって、並べられている。一行は、その本の森を徘徊する。
本も世界の縮図であるが、その本たちを9つのエリアに分類した本棚群もまた、ひとつの壮大な「世界模型」だ。もちろん、ただ縮小しただけのスケールモデルではない。収集され、吟味され、演出され、「編集」を施した世界模型であり、エディティングモデル(ここでは編集的構造と訳したい)である。
志穂師範代と学衆たち。後ろには本棚分類のマップが掲げられている。「記憶の森へ」「脳と心とメディア」など独自の文脈による世界分類がなされている
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本棚散策にあたり、志穂師範代からは、ふたつのお題が出された。ひとつは、山派レオモード教室にまつわる一冊を選書すること。もうひとつは、気になる本棚編集の方法を見つけること。
もちろん、これらのお題は、回答自体や成果物だけが目的ではない。見る側も、なにかしら「編集方針」をもって本棚に接することで、注意のカーソルは鋭敏になるし、本棚の構造を感じ取れる。世界模型との「対話」ができるのだ。編集学校ではいつでも「お題」によって、情報を動かしていく。その大胆な「分類」や「関係づけ」や「ネーミング術」が[守]で学んでいる型と地続きであると、アタマと身体で感じる時間となった。
「世界」を渉猟する学衆たち。ときに一冊に集中し、ときに本棚全体を感じる。アナロジー・アフォーダンス・アブダクションを用いて堪能した
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ある学衆は「山派レオモードな一冊」として、『世界名作探偵小説選』を選び、お題や回答プロセスを解き明かしていく稽古の様子に重ねた。本書に収録されたポーのデュパンや、オルツィの書く安楽椅子探偵など、探偵の個性から、教室の仲間たちのエディディング・キャラクターにまで話題は及んだ。
ある学衆は「気になる本棚編集」として《男と女のあいだ》の分類区画を挙げた。その小分類は「細胞とゲノム」からはじまり、なんと「傑作ラブロマンス」へ繋がっていく。そんな科学と情緒のあいだに「幼ごころ/思春期」があるのが面白い。
「幼なごころ/思春期」の本棚。「赤毛のアン・小公女・杏っ子」の三位一体型のポップや、『グミ・チョコレート・パイン』、『コパーフィールド』、『友情』の三位一体型の平置きが、若き日の苦悩や夢、絶望や勇気の記憶を蘇らせる
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まだまだ日差しの強い16時にはミュージアムを後にした。一行は、中華料理店での食事会へと向かう。なにしろ山は、午後の早めに下るほうがいい。
「早出早着」という登山の言葉は本来、午後の天気の急変を避け、暗くなる前に下山するという、リスクヘッジの意味合いを持つ。しかし、山派レオモード教室の汁講では、はじめて直接会える仲間と朝から言葉を交わし合いたいから、早く出る。食事をともにし編集談義を続けたいから、早く着く。雨に遭わないためではなく、人に会いたいための早出早着なのである。他者と交わる「リスク」こそが、編集には必要なのだ。
かくして、志穂師範代の早出早着の企みは、角川武蔵野ミュージアムの岩山を踏破した。さあ、おつぎの「山」は「卒門」である。山派レオモード教室の学衆たちを、頂きからの絶景が待つ。
こちらも絶景である、吹き抜け状の本棚空間。豪徳寺・本楼に設えられている小舞台「本棚劇場」と、同じ名前を持つ。この相似関係を楽しめるのは、編集学校人の特権かもしれない。互いのイメージを呼び込み合うインデックス関係である
文・写真:イシス編集学校 師範 阿久津健
阿久津健
編集的先達:島田雅彦。
マクラメ編み、ペンタブレット、カメラ、麻雀、沖縄料理など、多趣味かつ独自の美意識をもつデザイナー師範。ZOOMでの自らの映り具合と演出も図抜けて美しい。大学時代に制作した8ミリ自主映画のタイトルは『本をプレゼントする』。
ひさしぶりのマクラメ編み 久しぶりにマクラメを編んだ。切れ端の一点から伸びたロープの線が、面となり、立体になっていく過程が楽しい。黒色のコットンロープを、カメラ用のストラップに仕立てた。首からさげてみると、ねらい通りの短 […]
51[守]を卒門した学衆と、師範との対談シリーズ。学匠ただいま!教室(奥村泰生師範代)の学衆川元梨奈さんは、東京・美學校の公認校として岡山ペパーランドで開講されている「美學校・岡山校」銀塩写真講座で、能勢伊勢雄氏に師事し […]
ファットラヴァ〜組み合わせの実験器 ―51[守]師範エッセイ (6)
過激でかわいい-その小さな花瓶の向こうから、ドイツの極厚な「組み合わせ」編集が浮かび上がってきます。51期[守]師範が、型を使い数寄を語るエッセイシリーズ。第6弾は、阿久津健が「ファットラヴァ」を語ります。51[守]は […]
コメント
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2025-08-19
エノキの葉をこしゃこしゃかじって育つふやふやの水まんじゅう。
見つけたとたんにぴきぴき胸がいたみ、さわってみるとぎゅらぎゅら時空がゆらぎ、持ち帰って育ててみたら、あとの人生がぐるりごろりうごめき始める。
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。