「ピキッ」という微かな音とともに蛹に一筋の亀裂が入り、虫の命の完結編が開幕する。
美味しい葉っぱをもりもり食べていた自分を置き去りにして天空に舞い上がり、自由自在に飛び回る蝶の“初心”って、いったい…。

缶切りを見なくなって久しい。世の中の缶詰にはプルタブがつき、缶切りは出番を失ってしまった。
その缶切りが突如あらわれた。10月5日、オンラインで開催された、44期ISIS[花伝所]のガイダンスでの出来事だ。
5Mと称する花伝式目について語る花伝師範の大濱朋子が、語りの途中で画面に持ち出した。
「これ、何かわかります?」
登場した缶切りに全員が注目する。と同時に、ぎこちない手つきで缶詰を開けようとした小さな頃の記憶が蘇る。それを予想してか、大濱は石垣島で手に入れたパイン缶も持ち出した。もちろん、プルタブはついていない。
缶切りでパイン缶を開けるには、ああかなこうかなと微調整する必要がある。その過程で、缶切りが手に馴染み、だんだん上手くなる。花伝式目も同じだ。最初はわかったか・わからないかもはっきりしない。そのファジーな感覚を持ち込んで学ぶものだと大濱は語る。その場にいる入伝生の過去の缶切りの記憶が未来の式目演習への期待と不安に重なり、式目演習のイメージが一気に輪郭化する。うまくいかないことに遭遇し、微細な動きの違いで上達を感じられる缶切りに見立てた大濱の編集力が光る。
なぜ、缶切りを持ち出せたのだろうか。
語りから推測するに、最近、息子さんが缶切りを使うのに苦労したようだ。母親の日常の一コマを師範の講義に持ち込んだのである。母と師範。ロールを行き交うことで景色が重なる。大濱はそのチャンスを見逃さない。
持ち込まれたのは、缶切りだけではない。zoomの背景を編集し、語りの追い風にしたのだ。背景がどんどん切り替わり、語りがのってくる。入伝生も引き込まれてゆく。
最初はホワイトボードに見立て、花伝式目の極意を明かす。花伝式目とは、インタースコアを起こすメソッドによって「今は見えないもの」に向かい、「未知なるわたし」になることだ。
終盤では、背景の白地が緑地に変わった。背景は黒板に違いない。石垣島の美術教師である大濱ならではの演出である。
黒板を背にした大濱は、M4:Makingである指南錬成の「錬」の字が、練習の「練」ではなく、鍛錬の「錬」であることを強調する。「錬成」と書かれた赤文字のフォントは刀を叩く炎の色にちがいない。
指南錬成は一度の指南で終わらない。玉鋼を何度も叩いて刀ができるように、何度も指南を繰り返すことが絶必だ。そのループによって、最初は見えなかったものが見えるようになると説く。
「型ってどんなもの?」
大濱はガイダンスの冒頭でホワイトボードを背にして入伝生に問うた。
T.Mは「考え方を出すためのペン」と応じ、F.Kは「自分を入れたり、誰かの考えをうける器」と返した。
場を見立てた大濱のメディア編集は、入伝生に転移する。師範の場の見立てに、入伝生の言葉の見立てが重なる。これもまた相互編集だ。
場も身体も背景も見立てた大濱のエディティング・モデルは、もてなし・ふるまい・しつらえを編集していた。場の相互編集の鍵になる三位一体の編集だ。大濱は語り全体をもって、M5:Managementを表象していたのだ。
幾層にも重ねられた花伝式目の講義の謎は、ここから始まる式目演習によって入伝生たちに再発見・再解釈されるのを待っている。
アイキャッチ/大濱朋子(44[花]花伝師範)
写真・文/古谷奈々(44[花]花伝師範)
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第44期[ISIS花伝所]編集コーチ養成コース
【ガイダンス】2025年10月5日(日)
【入伝式】2025年10月25日(土)
【開始日】2025年10月25日(土)
【稽古期間】2025年10月26日(日)〜2025年12月21日(日)
申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/kaden)から。
古谷奈々
編集的先達:鷲田清一。しぶとく、しつこく、打たれ強い。スリムなのにタフでパワフル。切符切って伝票切って、定期売って決算締めての駅員と経理のデュアルワーク経歴あり。現在は中川政七商店のショップコーディネーター。
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コメント
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