P-1グランプリからの返り道 スウィングバイの先へ【88感門】

2025/09/19(金)12:00 img
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P-1グランプリへの旅立ち

 

 扇子あおげど熱帯夜、54[破]は高気圧。突破最終日である8月3日の早朝、既に全お題を完遂した学衆から、プランニング編集術の再回答が届いた。<振り返り>に添えられたその一文は、読み終えた本の、お気に入りのページに栞を挿すようだった。

 

 「パパ、ブランコが壊れるくらい押して。宇宙に届くくらい押して

 

 息子がパパに贈る、遠慮のないメッセージだ。このほんの一言が「ブランコ・ミュージアム」の再編集の嵐を呼び、新たなる序章への旅立ちとなる。一度完成形にまで辿り着いたプランだが、与件はふいにやってくる。

 突破から4日後。稽古が終わり、ほっとしつつもちょっと寂しい頃。学匠や番匠によって、51個のプランから「簪、梱包、ぶらんこ」の3案が選ばれた。P-1グランプリへの招待状が夕刊ちぐはぐ教室に届く。その “召命” は、突然だ。
 
 「本来から将来へ、連想と照合を重ねれば、きっと発見的なミュージアムになる」

 

 原田淳子学匠は、ふわっと背中を押す一声を忘れない。プランニング編集術は、松岡校長が[破]にのこしてくれた最難関お題でもある。学衆・佐藤玄は、選ばれた驚きとともに「とびきり」のお題を引き受けた。再編集が始まった。

 

学衆・師範代・師範は、三位一体で

 

 プランニング編集術では、コンパイルとエディットの両輪をいかに回すかが肝となる。稽古の段階で、佐藤はブランコの要素・機能・属性や「らしさ」を網羅することで、ブランコのアーキタイプにまで迫った。[破]の編集術はもちろん総動員である。

 感門之盟までの限られた1ヶ月の中、仕事・育児・編集稽古の三足のわらじを履く佐藤がプランのシナリオを作る。師範代がネットから図書館まで資料集めに奔走し、桂大介師範はシナリオと資料をひとつに縫合し、ちぐはぐを擬いてみせた。

 P-1グランプリの醍醐味は、学匠、番匠、師範、師範代、学衆のさまざまなロールの意図の視線が入り混じりながら、ひとつのプランが出来上がっていく所にある。Edit Cafeだけではない、Zoomミーティングを介したリアルタイム編集もその一つである。

 ファッションとお酒をこよなく愛する桂師範の即興編集劇は、お客の好みをその場で引き出しながらカクテルを作るバーテンダーのようでもあり、一枚の布からモードを立て、スタイルを引き出すデザイナー&パターンナーのようでキラキラしていた。
 編集の跡に風が吹けば、なびくドレープのゆらめきは見張るほどに美しい。イシスの師範力に驚くシーンがここにもあった。稽古、そしてP-1準備の過程で見つけたものは、桂師範による前記事に詳しい

 

リハーサルという方法

 

 編集は、不断の過程である。「芭蕉はつねに句を動かしていた。一語千転させていた」。芭蕉が「習へ」とは、物に入ることだといったように、佐藤は「ブランコ」に入り、師範代は「佐藤」に入る。本番前々日のリハーサルから当日にかけても、プランは振動しつづける。

 前回のP-1優勝者、香川愛の後光が差す竹内哲也師範代の讃岐兄弟社教室からは、朝比奈励さんの「梱包」のミュージアム。イシスの編集道を3年間駆け抜けつづけるライヴァー、木村昇平師範代のうごめきDD教室からは、田中大介さんの「簪」のミュージアム。この上ない好敵手を前に、肘も膝も止めることはできない。

 リハーサルは本番の最終確認ではなく、劇的な変化に向けて加速するための方法である。お互いのプランを交わすことで見えてきた不足の燃料を元に、向かうべき南を目掛けてスウィングバイし、軌道を修正する。時には積荷をおろしながら、一字一字の言葉がもつ重力と速度をたしかめる。そして、推敲はつづく。

 実は、ミュージアムの名前は仮留めのまま、前日の正午まで空席だった。プランを世の中に送り出すための、ぴったりの色は見つかっていなかった。そこへ、佐藤によるネーミングが満を持して光を放った。ギリシャ文字を借り、宇宙線の気配を纏って現れたのが「ブラン・ニュージアム(brand-nuseum)」だった。そのまま、P-1グランプリへ突入した。

 

 

編集される面影

 

 まさとし審査員がマイクを握る。発表が終わった3チームは、壇上で優勝発表の時を待つ。学衆は前に、師範代は後ろに立ちながら、その一声を待ち望む。

 

 「会場は大いに沸き、54[破]の桂大介師範は両手を大きく掲げて拍手した

 

 感門エディストチームのJUSTライター、55[守]の師範からロールを着替えた福澤美穂子師範による速報記事のこの一文に、1年半前の光景がフラッシュバックした。当時、学衆だったわたしはP1グランプリの登壇者として「Pocketism Museum」をプレゼンした。

 

 「これが、私のポケティズム宣言です」

 

 発表後、両手を上げて拍手してくださったのが松岡校長だったただ、その時は、緊張と安堵の綯い交ぜの中、焦点がどこにも合わず、壇上から校長の姿を見ることができなかった感門之盟の後、守破で同期だった仲間に教えてもらい、動画でその姿を確認した

 今回は、プレゼン中の聴衆の感応にも、発表後の拍手の熱さにも視線を向けることができた佐藤の背中に向けて、「宇宙に届け」と拍手を贈りながら、最後列にすわる桂師範の姿が目に写った一瞬、校長の面影があらわれ、拍手の音のなかにまぎれていったような気がした

 

ただ一燈を頼む

 

 相互編集は「編集する」と「編集される」の間にある「編集される」愉快は[守]からへ、からへと漸次増していくP-1グランプリを経て、自己が編集される不思議とほんとうの醍醐味を味わった佐藤は、勧学会が閉まる前の最後のメッセージでこのように綴っていた

 

 「『世界のほうがおもしろすぎる』から、困ったときこそ自分をひらく」

 

 改めてわたしは学衆としてP-1グランプリに登壇した頃を憶い出した51[破]のP-1では、吉村堅樹林頭・原田学匠・まさとし評匠が各チームのディレクションを担っていた当時、ポケットに抱いたわたしのもどかしい思いを拾い、生命を吹き込んでくれたのがまさとし評匠だそれがPocketism」だった胸のポケットに手を入れると、その拍動はいまでも全身を撃つ

 守破の師範代を終えた今、なお大きくなってやまないのは、先達と仲間への借りと思いの燈火であるその恩を、返灯しつづけたい

 優勝の景本『松丸本舗主義』を受け取った佐藤と、その光景を目前にした54[破]の英雄たちは、この先どこへ進んでゆくだろうか「Brand Nuseum」へ、継がれた火の先にも、目が離せない

 

文/北川周哉(54[破]夕刊ちぐはぐ教室師範代)

アイキャッチ画像/白川雅敏

  • イシス編集学校 [破]チーム

    編集学校の背骨である[破]を担う。イメージを具現化する「校長の仕事術」を伝えるべく、エディトリアルに語り、書き、描き、交わしあう学匠、番匠、評匠、師範、師範代のチーム。

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